「文化を変える」ということ
さて、今回は文化というものについて取り上げたいと思う。
しかしながら、文化そのものについて語るにはとてもじゃないが紙幅も時間がも足りないので、ここでは「文化を変える」ということについて少し考えてみたい。
その前に一応、私の文化というものについての理解について簡単に書いておこう。
文化とは、私たちの無意識に根付いた習慣のようなものであるというのが私の考えである。
例えば、家に入るときは靴を脱ぐ、あるいは外へ出かけるときは靴を履くということである。これは何も法律などで決められていることではないが、私たちは当たり前のように日々行なっている。それはこの行為が文化として私たちに根付いているからである。
しかし、誰しもそうというわけではない。この地球上のある部族には、靴どころか服をも着ないという人々もいるのだ。
つまり文化とは伝統芸能のような
そこで、私が
なぜなら、これも私は文化の違いによって生じた問題であると睨んでいるからだ。
どういうことかといえば、今のいわゆる高齢層の一部には「男は仕事をし、女は家庭に入る」という考えをしている人がいる。これをその人の考え方が間違っていると現代の価値観に当てはめて論じることは簡単だが、ことはそう単純ではない。
これを文化という問題として捉えれば、ただ彼らは靴を履き外に出かけるように、家庭に女性を残し、男性が社会に出ていっただけに過ぎない。これを令和の価値観で糾弾するのは、戦時中に必死に戦った兵士たちを人殺しと罵ることと同じであろう。
だがそうは言っても、その文化が伝統芸能のように継承されていくべきものではないというのもまた事実である。すなわち、「文化を変える」必要があるわけだ。
しかし残念ながら、これは容易なことではない。
これについても一つ例をあげて考えてみよう。それは、つい最近世間を騒がせた「昆虫食」というものである。
これは将来的な人口増加によって食料が足りなくなったときに、栄養価の豊富な昆虫食を導入しようといった論調であったように思われる。
そして実際に昆虫を利用した料理や商品が販売され、大変な賛否両論を呼んだ。
ここで注目したい点はいったい《なぜ》賛否が巻き起こったのかということである。
昆虫を食すという試みはそんなにも革新的な試みであっただろうか? 考えるまでもない。そんなことは全くないのだ。
ここ日本にだって「イナゴの佃煮」というものがあるし、世界に目を向ければ昆虫食というのは一般的とはいえないまでも珍しいものではない。まして否定されるようなものではないのだ。
では、いったいどうして昆虫食は世間に受け入れられなかったのか。
それは私たち日本人の大半に昆虫を食べるという文化が根付いていなかったからである。
これが「文化を変える」ことの難しさである。今これを読んでいる諸君らも、自分がゴキブリやらバッタやらを食すことに嫌悪感を抱いているのではないか? そうでないとしても、自ら進んで食べてみたいという物好きはなかなかいないだろう。
話が逸れたが、要は「女性の社会進出」をめぐる論争こういった視点から見ればとても難儀な問題だということである。
今現在企業における役職付きの男性社員からすれば女性社員はお茶汲みだし、そも女性は家にいるべきという価値観なのである。
しかしながら、昆虫も進んで食えない人間にどうしてこの《時代遅れ》な連中を責めることができようか!
この社会における女性の地位向上の必要性は、私も十分感じているところではある。
で、あるならば、私を含め現代人は進んで虫を食うような精神を持ち合わせなければなるまい。
そんなこともできない人間には「文化を変える」などという大層なことは出来はしない。
受け継がれるべき文化、捨て去るべき文化。それらを見極め、変化を受け入れ、実践する。ともすれば、確固たる自分がないなどという批判が突如背後から突き刺さる。
ああ、なんと生きにくい世の中か。
私はこの世界の微分係数を知るたびに、それを積分した時の変数の無限性や、積分定数の未知に打ちのめされる。
幸か不幸か、世に一つとして簡単に片付く問題はないとはよくいったものだ。
だが、何度も言うが私はここで世の問題を一つでも解決しようと思うのではない。
私は今日もまた、皆が見て見ぬふりをしている事象に目を凝らしたに過ぎないのだ。
世界の微分係数 音愛 ろき @Roki_0127
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