第8話 禁忌の食べ合わせ

 昔から、日本には“食べ合わせ”という言葉がある。有名なのは「鰻と梅干し」、「天ぷらとスイカ」だろうか。しかし現在、これらは真偽が入り混じっている内容であることが知られている。


 ここでふと、「食べ合わせは他にもあるのではないか」と首を傾げる人がいるだろう。結論から言うと、私は



 私が個人的に警告したいのは、「キシリトールとガム、ビタミンC」三つの食べ合わせだ。


 軽く調べたが、この食べ合わせによる被害報告は見つからなかった。むしろキシリトールとビタミンCに関しては、同時摂取を推奨するような商品が散見された。



 ――だが先日。私は確かに、激しい苦痛に襲われていた。立つことすらままならない、地獄のような胃の痛みを。



◇◇◇



『さて、今日も応援消費するかな』


 私は数週間の間、每日のように台湾パイナップルを食べていた。その量は約80g。一日の果物摂取目安が200gと言われている現代だが、個人的には頑張っている方である。


『うん。相変わらず美味しい。……あと何回食べられるかな』


 シーズンももうすぐ終わり。次いで待ち望んでいるライチの季節になるのだが、好物が店から消える寂しさは拭えない。


『よし、完食。さっさと支度して行かないと』


 食器を片付け、歯を磨いてガムを噛み、適当に着替え外に出る。ここまでは順調だった。――数時間後、胃が痛み始めるまでは。



◇◇◇


 それは、目的地に着いた頃だった。


「う゛っ……!」


 突如として、熱を帯び始める胃袋。冷や汗が止まらない。――立っていられない。堪らず前屈みになり、階段の手すりを固く握る。声をかけられたが、返事をする余裕も、振り返る気力もない。


「っ……」


 自分の身に、何が起きたのか。理解する間も与えられず、堪らずトイレに駆け込む。けれど、吐くことも下すこともできず。数少ない一室を占領するばかりだった。


『駄目だ……、帰ろう』


 ストレス性のものだろうか。「いずれにせよ病院に行くべきだ」とスマホを手に取るが、不幸にもかかりつけ先は休診日。故に鞄の持ち手をこれでもかと握り、薬局に向かう。


『……どれが良いか分からない。けど、調べる気力も聞く余裕もない』


 何種類も並べられている中、胃腸薬は各々「自分を買って」と言わんばかりに前面アピールをしている。とはいえ、どうせどれも根幹は一緒だろう。


『これでいいや……』


 少し悩んだ末、それらしい文言が書かれている薬を買って帰宅した。



◇◇◇


 帰宅早々薬をかっ喰らい、どうにか横になる。これで楽になれると言い聞かせ、強く目をつむって。しかし――


『……は? 全然効かないんですけど??』


 期待も虚しく。痛みは寸分たりとも軽くならなかった。とはいえ時刻は20時を過ぎており、今更どこの病院にも駆け込めない。


『しんど……』


 最悪救急車を呼ぼう。どうにかパウチゼリーを流しこみ、布団の上で丸まった。



◇◇◇



 結局、完治したのは翌々日だった。それまでの間は、熱を帯びた手で胃を握り潰されるような感覚に苦しんでいた。立っているのも辛く、仕事も投げ出し療養に専念するレベルと言えば、重さが伝わるだろうか。


 一方家族は「自分も同じもので同じ目に遭ったことがあるから、その辛さはよく分かる」と、家事を肩代わりしてくれた。


『まさか家族も、全く同じ経験をしたことがあるなんて』


 「どうせなら備忘録として書くべきだな」と思い立ち、布団に横たわったままスマートフォンを開く。症状が発生した時間や痛み、回復するまでを簡潔に。だが振り返っているとつらさが増したため、メモも程々に目蓋を閉じる。


『……独りだったら、治りが遅かったかもしれないな』


 あらためて、誰かが傍にいるありがたさを痛感した。



◇◇◇


 最後に。重ねての喚起となりますが、「この体験は個人の記録として残しているものであり、特定の商品を批判するものではない」ことをご承知おきください。

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ロクでもなければショウもない 禄星命 @Rokushyo_Mikoto

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