第7話 乾いた革にクリームを
先日うっかり洗濯してしまった、革のパスケース。無事乾いたのはいいが、前より硬いことに気がつき、私は絶望していた。
「使いはじめてまだ半年も経ってないのに……」
クリスマスに貰った、本革のパスケース。それが早くも駄目になれば、彼はさぞ悲しむだろう。
「どうにかしないとな……。とはいえ、ケアクリーム持ってないんだよなあ」
業務に忙殺され後回しにしていた、専用クリームの購入。本来であれば直ちにそれでケアする必要があるのだが、生憎買いに行く時間はない。
『――考えろ、考えろ。手持ちの物でどうにかするんだ』
必死に頭を悩ます最中。ふと視界の端に入ったのは、棚に仕舞った青い缶。――そう。皆さんご存知、例の白いボディクリームである。
「……塗ってみるか」
もとを正せば牛の皮。上手く行けば、人間の皮膚と同じように潤いが戻るかもしれない。早速少量手に取り、パスケース全体に馴染ませる。
「へー、意外といけるじゃん」
思わず感嘆の声を上げる。一切ベタつくことなく、洗濯する前の肌触りが戻ったからだ。これはもしかすると、今後もケアクリーム要らずかもしれない。
そんな慢心を覚えながら、コットンタオルで細部まで拭い、ハンガーに掛け直した。
◇◇◇
あれから一週間経つが、パスケースに目立つ変化は見られない。むしろ、前より手に馴染んだ気がする。
「あり物でも、なんとかなるもんだ」
彼にも見せたところ、「すごい、ほんとに違和感ない」と目を丸くしていた。とはいえ、この過ちは二度と繰り返してはならない。
私はパスケースの居場所を、ズボンの尻ポケットからバッグに変えた。
◇◇◇
最後になりましたが、上記のケア方法を勧めている訳ではありません。あくまで個人的な記録として書いているだけだということを、ご承知おきください。
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