エピソード5

 受付嬢のナービのお陰で、俺達はダンジョン入口まで戻ってきた。色々あったけど、よかった戻ってこれて......。


「それでは、アイテムを一度回収させていただきます!」


そう言うと、彼女は強引に俺達からアイテムを回収してきた。

苦労して集めたんやけどなぁ......。


「なんや、回収したアイテムは自分らのもんにするんか?」


「いえ、危険物質がないか確認し、お渡しして問題ないものは景品として差し上げるつもりです。あくまで、こちらのルールに基づいてですので、高レア商品であったとしても、悪しからず......。では、鑑定してまいりますので少々お待ちください」


そう言われたら、しゃーないか......。


「どうしよかな......。待ってる間暇やしな」


「私はアイテムに興味ないの。ここで自由に暮らせればそれで充分。そうすれば、いつか私だけの永遠がたくさん見つけられるはず」


「そうか。この世界でも捕まるなよ......」


そう言うと、彼女は笑い俺の頬に唇を添えて来た。その唇は、頬から離れて耳元に移っていく。


「その時は、あなたも一緒に堕ちてくれる? いや、いいわ。あなたの美しさが穢れるもの......。じゃあね。私の宝物くん」


キノは俺の方を一つとして観ず、立ち去っていった。本当にアイテムには興味ないんやな。ほな、お前の取ってきたアイテムももらっていくわ。


「よかったのでしょうか......」


ナービがキノの背中を困惑しながら見つめる。俺はナービに呆れ笑いを浮かべた。


「ええんとちゃう? 本人がアイテム放棄したんやし。その分は、俺が引き継ぐってことでええか?」


俺がキラキラとした表情に変わると、ナービが引きつった笑顔で返した。


「え、ええ。まあ、構いませんが......。では、鑑定を始めます! 鑑定には3分ほど、お時間かかります......。よろしいですか?」


「そんな短い時間でええんか? オッケー! その辺で待っとくわ!」


俺は受付近くに設置してあったベンチに腰掛けた。このダンジョンに来て、初めてゆっくりした時間を過ごす気がする......。そういや、あの子の連絡先聞くん忘れてたわ。


「いや、別にいらんか。まあ、でもそれなりに可愛かったからなあ......」


そう言えば、この世界でスマホは通じるんだろうか......。スマホを開いてみるが、圏外になっていた。はあ、あかんか。ていうことは、連絡手段は腕に持ってる謎の水晶だけって感じか。


「誰か~! 応答して~? 運営のアホ―!!」


だが、水晶から反応はない。近くに誰もおらんのか?

運営も、ほったらかしのようやし......。元の世界に戻す気あるんか?

いや、死刑囚もおるって言うてたしな......。 隠ぺいしたまんまやろうなぁ。

俺も、失踪扱いで戻れずじまいか......。クソが......。


「アホくさ......。やーめた!」


ふと、ここに来た時のことを思い出す。ここでくすぶっても仕方ない。そんなことは俺が一番分かってる......。俺は、すぐにでも金が必要なんや。


「母さん......」


うつむいていると、俺を呼ぶアナウンスが聞こえて来た。俺は改めて受付カウンターに戻った。


「お待たせしました! お渡しできない危険物に関しては、換金して還元いたします。まずは報酬をお受け取り下さい! リストバンドをお出しください!」


ナービの言う通りに左腕を出すと、彼女は機械を取り出してそのリストバンドをかざした。数秒でピロリンという音が流れてきた。


「ご確認ください。ステータスオープン!」


ナービの声にリストバンドが反応し、映像が映し出された。そこには俺の個人情報がすべて乗っていた。誕生日や名前、現住所まで......。これでキノは俺の情報抜き取ったんか......。


「魔法なら、オノマトペ使わなあかんのちゃうっけ?」


「これは魔術ではなく、技術によるものなので無関係です。それに、今後は野辺様の声紋でリストバンドが反応するよう設定しますので、個人情報漏えいしなくなるはずです」


それはもっと早よ実装してくれ......。

ま、これでプライベートは守られたならいいか。

あれ、この数字はなんや?


「それは、助かるわ......。って、右上に書いてある数字ってもしかして報酬金か? 一、十、百......。100万? これ、円か?」


「いえ、ダンジョンポイントです。ほら、数字の後に【DP】って書いてあるじゃないですか。これは、ダンジョンでしかやり取りできない独自通貨です。地上通貨に換金されたい場合は、換金用の受付へお願いいたします! そして、アイテムですが」


換金されずに戻ってくるアイテムが渡されそうになったその時、周辺がやたらを騒がしくなった。


「ど、ドラゴンだぁあああ!!」


男性が騒ぎ出した。騒ぎの元となる方を向くと、そこには洞窟入り口から無理やり出て来たドラゴンが姿を現した。ん? というか、恐竜? ティラノサウルスに似てるみたいだけど......。


「なに? いきなり......」


「嘘でしょ!? モンスターは地上に出れない結界が張られていたはずなのに!! 仕方がありません! 真央人さん、これを!!」


そう言うと、ナービが投げ渡してきたのは短剣のようだった。なんやこれ、妙にぬるぬるしてる? 


「それはダンジョンシャークのヒレを使った一級品『フカヒレソード』です!」


「いや、たしかに高そうな名前してるけど!?」


これで戦えっちゅうんか!? やってやろうやんけ!

あのドラゴンも、倒したらまた報酬もらえるやろうし......。


「どけぇ!! 俺がその恐竜もどきの首取ったる!!」


俺が短剣を振り下ろすと、斬撃がドラゴンの方に飛んでいった。傷は浅かったもののの、ダメージはあったようだ。こっちをものすごい形相で睨み付けながら、こっちに向かっとる!


「来たなぁっ!? 一瞬で終わらせたる! スパッとな!!」


ナイフを横一線に振ると、その斬撃が複数ドラゴンの元へ飛んでいく。その斬撃はドラゴンの身体のみを分断し、他一切を傷つけなかった。ドラゴンは倒れ、一瞬で灰となった。


「え、こんなことになる......?」


困惑しているのも束の間、周りにいた人たちが歓声をあげながらこちらへ寄ってきた。


「すごいぜ、あんた! 探索者のくせにやるじゃねえか!」


「店のもの、あんたになら譲ってやってもいいぜ! うちの防具も宣伝してくれ!」


「ありがとう! 助かったわ!!」


困惑はすぐに溶けた。やっぱり、人にちやほやされるんは気持ちがええ。

他人に優しくしろって、よく母さんが言ってたこと、少しわかった気がするわ......。


「野辺様! 助けていただきありがとうございます! こちら、乱入ミッションとして野辺様にポイントが課されました。さらに、こちらで200万ポイント達成しましたので、王様がお会いになりたいとのことです!」


「ええ? いきなりやな......」


「はい! 至急、王城まで行ってください!!」


えらいせわしいなあ......。

やけど、ここの王様か。なら、ようさんお金持っとるやろうな......。


「よっしゃ、行ったるで! シュバババッ!」


足を一歩前に出した瞬間、周りの景色が変わっていく。

王城が目と鼻の先まで来た辺りで俺は自分にかけていた魔法を打ち消して、城の中へ入っていった。城には門番がいたものの、すんなり通してくれた。

どうやら、顔は割れてるらしい。城内でうろちょろしていると、こちらをギロッと見つめる眼鏡の男がこちらに話しかけてきた。


「マオト=ノベだな。歓迎する。中で王がお待ちだ。だが、決して粗相のないようにな」


「問題ありませんって。任しとき」


とは口で言いつつも正直不安だ。

だって、王様やもん。どう話したら正解なん? 王様って

と思いつつも、扉は無常に開いた。すると、奥の玉座に王冠を被った男が荘厳な眼差しでこちらを見つめる。思っていたよりも若そうな王様やな。見た目的には3、40代くらいか?


「探索者よ。もう少し、近くへ」


「......はい」


緊張感が、漂う中俺は言葉を紡ぐのがやっとやった。

王様との間に、少しの空白があったのち王様は語りだした。


「此度の活躍、地上の探索者にしては上出来だった」


「ありがとうございます......」


「あの場所は、我々にとっても重要な領域だった。だが、呪われしホルス神の影響で国に災いが絶えなかった。それを打ち破ったこと、さらにはドラゴンの討伐......。すばらしい行いだった。ついては、我ができることでお主の願いを叶えてやろう」


願い......か。俺の願いは、母さんを救うこと。

だが、それを他人に縋って願うことじゃない。母さんを救うのは、俺自身や。

俺の金で、母さんを安心させてやるんや......。


「できることと、申しますと?」


「なんでも。と言ったら?」


「では、地上に自由に行き来できる手筈を整えていただきたいです」


そう言うと、王様は驚きに満ちていた。


「それは、我々も願っていることだ。だが、それでいいのか? 己の願いを叶えたくないのか?」


「自分の願いは、自分で叶えます。それが、私自身の願いなのです。誰にも邪魔させません。たとえ、王様だとしても」


そう言うと、先ほど俺を誘導してくれた眼鏡の男が俺の首元に剣を出してきた。


「貴様、粗相をするなと忠告したはずだが?」


「よい! 下がれ......」


王様の一言で、彼は剣を収めて俺に一礼して後退していった。だが、その眼は反省している様子はない。こっちも同じじゃ、反省なんてしてないし、悪い事言ってへんやろ。


「お主のこと、少し見くびっていたようだ。こちらの非礼を詫びよう」


「とんでもありません。して、地上への帰還の手筈の約束は!」


「うむ......。すぐには難しいが、国の威信を賭けて早急に整備すると約束しよう。

だが、それにはもっとお主達探索者の力添えが必要だ。できるな?」


王様の朗らかな笑顔に、俺は少し緊張がほぐれたように感じた。

この人、人を扱うのがうまい奴やな。でも、この人を利用すればより金儲けできる......! 使わせてもらうで、あんたとの人脈......!


「そのつもりです。ま、俺以外にも探索者はようけいますから。資材集めとかなら任せてください。もちろん、お礼はたんまりいただきますけどね」


「はっはっはっ! 頼もしい限りだ! なら、お主に新たなダンジョンの開拓を進めてほしい。あそこには地上とこちらをつなぐ導線をつくる資材が豊富にあるという。だが、いかんせん危険なモンスターがいるという。それらを討伐してきてほしいのだ! お主なら、すぐに解決できるであろうがな......」


「当たり前ですわ! そんなもん、スパッと解決してやりますわ!」


俺は剣を取りだして、自分の威信を見せた。その時、斬撃が吹き飛んでいった。

あっ、俺さっき”スパッと”って言わんかったか? ま、まずいか?

観たくなかったけど、王様の方を見るといつの間にか服が破け飛んで裸の王様がそこにいた。顔はイケオジやったのに、腹回りが意外にだらしない......。いやいや、そういうことちゃうくて......! え、なんで? なんで裸?


「あー。もしかして俺、なんかやったやつ?」


静まり返る兵隊たちと、王様。だが、その静けさが逆に恐怖と焦りを倍増させる。

ふと、王様がこちらを向いて指をさす。


「あの、無礼者を切り殺せ!!!」


「ご、ごめんやって!!!」


「殺せーーーーーー!!!!」


兵士と王様の怒号が聞こえる中、俺は必死になって走り出した。

ここで戦ったらさらに罪が増えるだけや! いや、事情を話せばなんとか......。


「殺す、殺す殺す殺す殺す!!!」


あかん! 絶対許さんって顔してるあのメガネ!!!

圧倒的ピンチ! ピンチすぎるやろ!!  

あかん、逃げててもキリあらへん! せや! あの正門にあった跳ね橋壊せば!!

あそこまで行けたら!!!


「こちとら殺意にはなれとんねん! ああ、でもやっぱこわぁ......」


ようやく城の外の景色が見えてきた。城の外で待機していた門番たちも、俺の噂を聞きつけていたのか行く手を阻んでくる。それでも俺は、ここで死ぬわけにはいかんねん!!


「ふわふわ!!」


俺が浮かんで逃げようと思ってたけど、対象は門番たちに変わった。門番たちは自分で自分の制御ができず、空中で浮かんでいた。正門はすぐそこ。橋を渡り、俺はすぐさまあの言葉を投げかけた。


「スパッと切れろ!」


フカヒレソードから斬撃が飛んで、作戦通り跳ね橋が壊れて渡ってきていた兵士たちが底の溝に落ちていった。


「すまんな! 俺はここで死ぬわけにはいかんのや!!」


俺はそのまま逃げて、逃げて誰も知らない、俺でさえわからない方へ当てもなく逃げ続けるのだった。









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【短編】オノマトペでしか魔法詠唱できないダンジョン(概念) 小鳥ユウ2世 @kotori2you

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