エピソード4

 さらに深くまで降りてきた。もう、前の場所への戻り方さえ分からないくらい分かれ道を選んで進んできた。やけど、無数にあるトンネルの穴を見るに、どの道へ進んでもこの場所につくようになっているようや。つまりこの場所は、多分このダンジョンの最下層や......。


「最下層っぽいところに着いたな......」


「ええ、そうね。殺し合いスポットにぴったり」


「ポップに言えばいいもんとちゃうで......」


隣にいる愛原キノという女。この子、何考えてるか全然わからん。

今のところわかってるのは、俺のことをなぜか殺したいくらい好きと言うこと。

戦闘能力もまずまずなので、自分の首が繋がっていることに安堵しているところである。


「ねえ、見て!」


きのが指を差した先、そこには豪勢な棺が安置されていた。棺には不思議な刻印がなされて、異様なオーラを纏っていた。


「怪しい棺桶やな......。あれがもしかして、このダンジョンのボスやったりすんのか?」


すると、俺達の侵入に反応したのか棺がガタガタと動き始めた。さらには、棺のふたが徐々に開き始めた。その中から、鳥の頭を模した被り物をした全身包帯の人物がうめき声をあげて出てきた。な、なんなんや! こいつ......。


「ミイラ? にしては、豪勢ね......。王族の墓かしら」


「考察してる場合か! なんか嫌な予感がする。気を付けっ」


瞬間、ミイラのようなものの背中からは翼が生えて俺の首を掴んで飛び立っていく。

は、早すぎる!! こいつ、死んでんとちゃうんか!?


「こ、こいつ!! ビリビリ!!」


電撃は俺にも降りかかってくるが、構わない。その電撃によってミイラは俺を空中で手を離した。フワフワと言って、着地を免れつつ俺は再度空中散歩するミイラに電撃を浴びせる。


「ビリビリ! ゴロゴロピッシャーン!」


落雷と共にミイラは地面に叩き落とされていく。だが、ミイラは焦げた匂いを発しながら起き上がるだけだった。それを見たキノが大きな鎌を持ってミイラに向かっていく。


「真央人くんを傷つけたら許さない......。彼を殺すのは私よ!」


そう言って、ミイラの首めがけて湾曲した刃が迫る。

ミイラの頭はストンと落ちて、ピタリと体が硬直する。


「一言余計やけど、助かった!」


「いえ、まだお礼を言うのは早いみたいよ......」


突然、身体から先ほど感じた悪寒の元であろう異様なオーラによって動き出した。どうやら頭を探しているみたいだ。カランカランと、被っていた仮面がミイラの足元に当たる。見つけた頭部を、ミイラはつけ直した。逆さになっていた鳥の頭が、こちらを向きなおして、両手を広げた。その時、ミイラの付けていた包帯が動き出して一瞬にして蛇へと姿を変えていった。


「な、なんやこれ!? 魔法か!?」


俺はその蛇たちを、炎で焼き尽くした。炎を浴びた蛇は、元の細長い包帯に戻って灰になっていた。これ、幻覚やったってことか?


「気を付けて......。このミイラ、どこか変よ」


「初めから変やったけどな......。こいつ、もしかして物理効かんのか? いや、試してみる価値はある! やってやれ! スパッと!」


腕を横一線に振ると、魔力エネルギー(多分)が斬撃となってミイラの方へまっすぐ向かっていってその身体を真っ二つにする......。そのはずだった。

その一瞬、禍々しい霧がミイラを包みその斬撃をかわしていった。斬撃はミイラの後ろの棺を破壊するだけに終わった。


「実質最強の魔法が効かへん......。なんなんや、あいつ!」


「言うなれば、アンデッド。不死の種族なのかもしれないわね。美しくない生き方ね。人は有限な命があるから美しく死ぬというのに......」


「怖い事言わんといてくれる?」


小競り合いをしている間に、ミイラはまたもこちらに向かってくる。斬撃も、攻撃魔法も効かない......。いや、効いているかもしれないけどあの再生力で復活しているのかもしれない。すると、ミイラは壊れた棺から杖を拾って来た。その杖は装飾品のようで、金色に輝いていた。ミイラがその杖に呪文を唱えた。すると、俺達の身体が勝手に浮き始めた。ミイラも、壊れた棺の破片もミイラの範囲4~5mあたりの重力がなくなっているんか?


「な、なんなの!? これ!?」


「あいつの能力、もしくは固有魔法とかか? どっちにせよ、ようわからん攻撃しやがって! こいつ、どう倒すねん!」


ほぼ無重力状態の中、ミイラは確実に俺達の方へ水の中で泳ぐ魚のように向かってくる。俺達もあいつを回避しようと泳ぐけど、思った方向に行かへん。このままじゃ、やられる!!


「言ったはずよ。真央人くんの美しい命を奪うのは私。誰にも奪わせない! 永遠の存在は一つで十分よ!! 命を冒涜する者は、私が粛清してあげるわ」


お前が言うかとも思ったが、この際なんでもいい。キノの攻撃、というより身を投じた頭突きは、まっすぐにミイラに届いた。ミイラはそのまま横に反れていき、壁に打ち付けられていく。


「私も、魔法くらい使えるのよ? バーン」


彼女は右手を銃のように人差し指をミイラに差して、擬音を放つと魔力が銃弾のように弾かれてミイラの持つ杖に命中した。瞬間、重力が戻って地面に落ちる力が働き始めた。


「ビュービュー!!」


風の力を使い、俺は浮き上がってゆっくり落下してミイラの元へ向かった。

ミイラもまた杖を捨てて素手で立ち向かう。ミイラの長い腕をはじき、俺はミイラの頭めがけて蹴りを入れた。


「”ズシン”と重いで!? これは!」


ぽわんと魔法が発動し、足に重りが付いたような感覚と共に、ミイラにかかと落としが決まる。ミイラは耐えきることもできず、柔らかな地面にそのまま埋もれていく。


「あのミイラ、全然攻撃効いてないみたい......」


「痛みがないせいか、はたまた体力自体がないのか?」


さすがに疲れて来た。回復しておきたいところやけど、回復手段がわからん。

こういうとき、回復魔法があったら......。


「体力が......。ない。なら、元気づければいいんじゃない?」


「は? どういうこっちゃ?」


こっちの疑問も晴れてないっちゅうのに、あいつどこ行くねん?

元気づけるって、俺らが元気ならな意味ない......。

まさか!?


「ちょっとだけ任せて!」


そう言うと、彼女はポケットから小瓶を取り出した。

あれ、もしかして回復薬か?


「待て! 早まるな!!」


俺の嫌な予感は当たり、その小瓶をミイラに当てつけやがった。


「おまえ、それ回復薬やったやろ」


「ご名答。流石、マオトくん」


「流石とちゃうわ、あほ! 貴重とちゃうんか!? あの小瓶......。俺だって持ってないのに!」


そう言うと、彼女は不思議そうに自分のポケットを見せた。その中には、さっきと同じ小瓶がいくつも備蓄してあった。


「え? 普通にスライムとリザードのドロップアイテムから生成できるわよ?

知らないの?」


嘘やろ? そんな雑魚モンスターから生成されんの?

確かに、そいつらの回復力というか再生力は異常やけど......。

いや、感心してる場合やない! 問題はミイラの方や! これで、単純に相手が元気になったら劣勢......。あれ、苦しんでる?


「効いてる......」


「一か八かだったけど、回復魔法で相手を倒せるみたいね! じゃあ、一気に倒しますか! ”モリモリ”いくよ!」


彼女の言葉で、俺の身体の疲れが吹っ飛んだような感じがした。もしかして、全体回復の魔法か? 顔を上げてミイラの方をもう一度見ると、ミイラがまたも苦しんで地面を這いつくばっている。


「よし、キノ! お前の作った薬貸してくれ!」


「この貸しは、高くつくわよ?」


「俺の命を、捧げるほどか?」


「そこまでじゃないわ」


「なら、安いもんやな」


彼女は微笑んで小瓶を渡してきた。その小瓶を狙ってか、ミイラは苦しみ足を引きずりながらこちらへ向かう。それに対し、鬼除けの豆まきでもするかのように回復薬を投げつける。それに抵抗するようにミイラは手を顔の前にして抵抗するも、それも無駄に終わり、蒸気のようなものを発生させながら苦しんでいる。


「これで終わりよ」


キノの小瓶の一撃で、ミイラは溶けて消えていく。その時、ミイラから発していた禍々しいオーラも消えていった。そのおかげか、このダンジョンの中が明るくなった気がする。


「やったな!」


「あなたのお陰よ。さあ、記念に殺してあげる」


「か、堪忍してくれ......。命捧げるほど高い貸しちゃうんやろ?」


「フフッ、冗談よ。 でも代わりに、お願い聞いてくれる?」


その時見た、ふとしたキノの顔が狂気に歪んでいない純粋な少女の顔だった。

その顔に、俺は少し見惚れてしまった。おいおい、相手は俺の命を狙ってた女やぞ?

そんな重い女、ごめんやで?


「あなたが私に殺してほしいと願うまで、一緒にいていいかな?」


「......。たぶん、そんなこと思う日なんて早々ないで? それでも構わへんのやったら、いいで? 俺は仲間がいた方が嬉しい」


そう言うと、彼女は身体をくねらせて抱きついてきた。意外とカワイイところあるやんけ......。そう思っていたのも束の間、俺の首元には小さなナイフが突きつけられていた。


「浮気したら、すぐに殺すから」


「アッ,ハイ......」


突然のことに、声が上ずってしまった。

彼女が俺の言葉に満足して微笑んで離れていく。

冷や汗が止まらへん......。

でも、問題は山積みや。これからどうやって帰んねん。

そう思っていると、後ろからトントンと肩を優しく叩く感覚があった。


「ん? なんや?」


後ろを振り向くと、そこには一番最初に受付をしてくれた女性が立っていた。


「な、ナービ? いつからここにおったん?」


ナービは明るい笑顔で俺達を称えるように拍手した後、語り始めた。


「つい先ほどです! そのリストバンドから、フロアボス討伐のシークレットミッションをクリアされたとの報告が入ってきたので、駆けつけてきたんですよ? 改めまして、おめでとうございます!」


「よかった。これで、一旦入口まで戻れるのね?」


「はい! お二人はすぐ、ダンジョンからのログアウトが可能です! では、入り口まで戻りましょう! では、場面を”ガラリ”と転換!」


その言葉に乗じて、周りの景色がぐるぐると回りだした。天体観測をするカメラがストロボで星を追いかけるように、景色が動いていく。そして、落ち着いたころには俺達はダンジョンの入り口、受付カウンター前まで戻ってきていた。




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