第12話

「……こんなところかな」



 夜、明日の予習を終えて俺はノートを閉じる。部活動で結構歩いたからか風呂上がりの頭は眠気を訴えており、ベッドに入ったらすぐにでも眠ってしまうだろうと思える程だった。



「とりあえず俺が魂になるVのデザインについては何とかなりそうだし、今はVTuberとして活動する上で必要そうな事を考えながらみんなのサポートをするしかないな。葛巻さんも結果的に入ってくれる事にはなったし」



 あの後、葛巻さんは俺達の部活動に正式に加わる事を決めてくれ、明日には入部届を持ってきてくれる手はずになっている。まだまともに活動も出来ていないのにも関わらず部員が五人に増えたのは本当にありがたく、新入部員として頑張ってくれる葛巻さんのためにも俺も自分が出来る事を色々頑張ろうと思っていた。



「……にしても、俺がVTuberか。もうネットでの活動には関わらない事にしようと自分の中で思っていたのに……」



 俺は部屋の隅に置かれた段ボール箱に目を向ける。中には過去に俺が使っていたあるものが入っていて、それがきっかけで辛い事にはなったけれど過去の俺にとってはそれが楽しみの一つになっていた。だからこそ捨てられなかった。良い事ばかりではなかったけれど、悪い事ばかりでもなかったから。そんな事を考えていた時、部屋のドアがノックされた。



「賢士、ちょっと良いか?」

「ん……どうぞ」



 ドアを開けて入ってきたのは父さんだった。



「もしかしてもう眠るところだったか?」

「いや、明日の予習してたよ。それで何か用?」

「夕飯の時にも話は聞いたけど、学校生活は楽しめてるかなと思ってな。俺の仕事の都合で母さんと賢士にはついてきてもらったし、生活で困った事があったらやっぱり聞いておきたいと思ったんだ」

「特にはない、かな……まあ、部活動でこれからは忙しくなるだろうけどさ」

「たしかVTuber部だったか。クラスメートと後輩を含めた五人での活動になるのは聞いたけど、本当に大丈夫か? VTuberってネットでの活動にはなるんだろ?」



 父さんが心から心配した様子で問いかけてくる。



「大丈夫……だよ。今回は俺一人の活動じゃないし、一年しかやらないからそんなに深くまで関わる気もないし」

「そうか……まあ友達とは仲良くな。お前の事だから過去の事を話す気は無いだろうけど、もしかしたら知ってる子だっているかもしれないからな」

「久慈さんとその従兄で生徒会長の一戸先輩は聞き覚えある声って言ってたし、ちょっと危ないかもな。まあ久慈さんは気のせいだと思ってくれてるだろうけど、一戸先輩は過去の俺に覚えがあるようだった。一応黙っててはくれそうだし、より気をつけるようには言ってくれたけどさ」

「それはよかったな。だったら、その一戸君にだけは話しておいても良いんじゃないか?」

「それはたしかに……」



 父さんの言う通りかもしれない。本当は誰にも話さずに一年を終えて引退すべきだろうけど、相談出来る相手が増えるのは悪くないし、それが生徒会長の一戸先輩となればより融通をきかせてもらいやすくはなるかもしれない。一戸先輩なら口は固そうだし。



「そうだな。ちょっと考えておくよ」

「ああ。あ、それと用事がもう一つあるんだ」

「なに?」

「えっと、実に話しにくいんだけどさ……この家に一人住む人が増えるんだ」

「……は?」



 突然の事に俺の頭はフリーズする。



「夕飯の時にはなにも言ってなかっただろ。というか、母さんは賛成してるのか?」

「母さんは良いって言ってくれてる。たしかに突然の事だし、お前にも苦労かける事にはなるけど、出来れば賛成してくれると助かる」

「父さん……」



 申し訳なさそうにする父さんを見て俺は嫌だとは言えなかった。



「はあ、わかったよ。それで、どんな人が来るんだ?」

「お前と同じ高校生の女の子だ。実は取引先の社長さんの娘さんなんだけど、社長さんと奥様がしばらく留守にするんだ。でも、大切な娘を一人きりには出来ないという事で俺に白羽の矢が立ったんだ」

「いや、なんでだよ。俺がいるのは話してるんだろ?」

「話したんだけど、その娘さんはあまり異性と関わろうとしないタイプな上にそもそも結構人を寄せ付けないタイプみたいなんだ。一応、幼馴染みはいるようだけど、これを機に異性にも慣れてほしいからウチに頼みたいって言ってた」

「そんな無茶苦茶な……はあ、まあわかったと言った手前、すぐに覆すのも男らしくないから良いよ。それで、その子はどこの高校なんだ?」

「お前と同じ岩桜高校みたいだ。向こうからその件について話しかけてくるようだからお前は明日になったらその子を連れて帰ってきてくれ。わかったな?」

「わかった」



 父さんは嬉しそうに笑うとおやすみと言ってから部屋を出ていった。そして俺はと言うと、そのままベッドに寝転がり、ため息をついていた。



「はあ……異性、それも同年代と住むなんて突然すぎるだろ。でもまあ、わかったって言っちゃったし、色々気を遣いながら過ごすしかないよな」



 再びため息をついた後、俺は部屋の電気を消した。そして明日からまた頑張っていく決意を固めた後、眠るために目を閉じた。

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桜がまた咲く頃に~岩桜高校VTuber部活動記録 九戸政景 @2012712

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