第45話
「入室許可を願います」
「入り給え」
アルノマさんの機転で、無事に部下との親睦を深められた翌日。
自分は朝一番に、とある人物に呼び出されていました。
「トウリ・ノエル衛生兵長。入室しました」
「うん。よく来てくれた」
その人物とは、今回の遠征において自分の直属の上官となる方で。
「お久しぶりです、アリア少尉」
「ああ、久しぶり。それと今、私は大尉である」
「それは、大変失礼いたしました。アリア大尉殿」
レンヴェル少佐のご息女であり、マシュデールで共に治療に携わったアリア大尉なのでした。
「私は今回の遠征から、大隊を1つ任されることになった」
「それはおめでとうございます。アリア大隊長殿」
「ありがとう」
アリアさんは大尉に出世して、大隊長になっていました。
小隊が5~10部隊ほど纏まると中隊になり、その中隊を更に複数纏められると大隊と呼ばれます。
その総人数は、1000人近くに及びます。この世界の人口において、千人というのは凄まじい兵数です。
「貴女の衛生小隊も、私の大隊に組み込まれることになった。これからは、私の指揮に従って動いてもらう」
「了解いたしました」
聞けばアリア大尉は、他の指揮官級の人材はシルフ攻勢で殆ど討たれたせいで、その人材不足を補うべく異例のスピード出世になったみたいです。
「まぁ、いつもの父の身内贔屓もあるのだろう。やめてくれと言っているのだが」
「……いえ、自分は適切な任官だと思います」
「ははは、ありがとう」
アリア大尉は、現在の自身の階級に何とも言えぬ顔をしていました。きっと、やっかみも多く買っているのでしょう。
彼女は以前、色々と陰口を叩かれているのを知っているらしい発言をしていました。
コネ出世と言うのも、苦労が多いようです。
「レンヴェル少佐は、最前線で自ら大隊を率いるおつもりらしい。我々は、レンヴェル少佐殿の後を追って移動することになる」
「ご勇敢な事です」
「今回の遠征軍では、我がアリア大隊は最後方に配置される。貴女達が私の大隊に配置されたのは、私が一番安全な位置にいる部隊だからだ」
「成程」
「貴女達の護衛も、私の大隊が請け負っている。貴女達は周囲を気にせず、ただ治療に専念してくれればいい」
「ありがとうございます」
どうやらアリア大尉は、レンヴェル少佐の計らいでかなり安全な位置に配置されたようです。
そして自分の衛生小隊も、その安全な場所にいるアリア大隊に護衛されて移動するのですね。
衛生部は軍の生命線ですから、大事に運用してくださっているのでしょう。
「あ、それと貴女の小隊の護衛だが。顔見知りが良いだろうという事で、ヴェルディ中隊に任せるつもりだ」
「ヴェルディさんですか」
「ああ。ヴェルディ少尉には歩兵中隊を一つ任せている。貴方達は、そのヴェルディ歩兵中隊と共に行動してもらう予定だ」
ヴェルディさんは前線から退いて指揮官になると聞いていましたが……、中隊長になられたのですね。
確かに彼ならば、話しやすくて助かります。
「明日、ヴェルディ少尉を貴女の部隊と引き合わせよう。午前7時に、部隊全員を集合させて私に顔を見せ給え」
「了解しました」
「その後貴小隊は、ヴェルディ少尉の指示に従って訓練を受けてくれ。以上、何か質問はあるかね」
「いえ、何もありません」
「そうか」
アリア大尉の話を聞いて、トウリ衛生小隊の立ち位置がなんとなくわかってきました。
どうやらマシュデールの時のような前線衛生部を、向かった先々で設営していく仕事のようです。
後はいつも通り、後方で治療に専念すればいいだけの様子ですね。
「トウリ。ここからは軍人としてではなく、貴女の知己として話をするが。……いきなり重い役割を背負わしてしまって、申し訳ない」
「いえ、そんな」
「貴女の年齢の兵士に小隊長の役目を振るなんて、正気の沙汰ではない。……せめてもう一人だけでも、前線衛生部の生き残りが居ればよかったのだが」
部屋を去り際、アリア大尉は口調を砕けたものに変え、申し訳なさそうに謝ってきました。
確かに、自分みたいな若造がいきなり小隊長に任命されるのは異常です。
「南部方面軍と合流できれば、経験豊富な衛生兵を融通してもらえるよう打診するつもりだ。それまでの短い期間ではあるが、どうか小隊の上に立つものとして頑張ってくれ」
「本当ですか」
どうやら、南部方面軍と合流さえできれば自分は小隊長の任務を解いてもらえるっぽいです。
それを聞いて、凄くホっとしました。
「随分と、安心した顔になったな」
「正直なところ、少しばかり荷の重さを感じていました。隊のほぼ全員が年上なので、自分はどのように統率すれば良いか困っていたのです」
「そうだろうな」
昨日みたいに隊員同士が喧嘩しそうな状況であったとして、指揮するのがガーバック小隊長であればどうなったでしょうか。
恐らく、威圧感でエルマさんはそんな話を切り出せなかったでしょう。
もし切り出していたとしても「それは戦争に関係がある事なのか、無駄口をたたく権限が今のお前に存在するのか」と男女平等な鉄拳制裁が加えられて、二度とその話題を口にしなくなったでしょう。
……そう考えると、暴力による恐怖政治ってかなり楽なんですね。
そういった手段で部下を統率しようとする軍人が多いのも、納得です。
「貴女はただ、頑張る姿を見せていればいい。そうすればきっと、周囲の部下も力を貸してくれるでしょう」
「はい。未熟ではありますが、粉骨砕身して頑張らせていただきます」
「頼む」
しかし、自分に暴力的な手段で部下を従えるつもりはありません。
また、そもそも筋力的にできません。
なのでこれから、いざという時に部下に信頼して従ってもらえるよう、誠実に振る舞っていかねばならないでしょう。
そうすればきっと、皆力を貸してくれます。
────そう、思っていたのですが。
「あの。自分は午前6時に起床し、グラウンドに集合せよと命令したはずですが」
「来ないね」
就寝前。
自分達を護衛してくれる中隊長との顔見せがあるので、小隊メンバーに早朝6時にグラウンドへ集合するよう布告を行いました。
いざ出征すれば、ブリーフィングのある朝5時より前に目覚めなければなりません。
その肩慣らしとして、この時間に設定したのですが……。
「点呼を取ります。ケイルさん、アルノマさん、エルマさん、オーディさん、ブチャラッティさ……」
トウリ衛生小隊の総勢11人中、集合したのは僅かに6名でした。
自分の最初の召集命令の、半数が遅刻という異常事態です。
「他の方はどうしていますか」
「すみません、私が見た時には起きていたように思うのですが」
「……遅刻した女性は、エルマさんが。男性は、ケイルさんが様子を見に行ってもらえますか」
「了解、リトルボス」
兵役を経験したことがない人って、こんなものなのでしょうか。
いえ、アルノマさんやケイルさんなど、ある程度年配の方はきっちり時間を厳守して集合してくれました。
ある程度、社会経験のある方は時間を厳守してくれるものです。
しかし、先行部隊である我がトウリ小隊に配属されたメンバーは15歳のラキャさんを始め、看護兵さんも10代の若手が多いです。
その若手の面々が、ことごとく遅刻していた様でした。
「それと、アルノマさん。その」
「私がどうかしたかい」
しかも問題は、遅刻だけではなく。
「貴方はどうして、化粧をしているのでしょうか」
「ああ。マナーだからね」
舞台俳優のアルノマさん。彼はちゃんと早起きして、時間通りに集合してくれたのは良いですが。
何故かバッチリ、舞台に出るようなメイクを決めて現れたのです。
「その、化粧は従軍行動に必要がないので、ご遠慮いただきたいのですが」
「どうしてさ。別に、何も悪い事ではないだろう」
「患者さんの処置を行う時に、その」
「患者さんだって、どうせなら美しい顔の人にケアしてもらいたいはずさ。化粧は、私にとっての戦闘衣装。時間はきっちり守ってるんだ、これくらいは許してほしいな」
やんわりアルノマさんを嗜めようとしたら、何が悪いのだといった態度で言い返されてしまいました。
話を聞いてくれる様子は、無さそうです。
「小隊長。むしろ貴女こそ、そろそろ化粧の勉強などを始めた方がいい。きっと、喜ぶ患者も増えるはずだよ」
「……」
「それとも、軍規に触れるのかい? 昨日貰った資料の中には、何も書いてなかったが」
……確かに、軍規に化粧の記述はなかったとは思います。
しかし化粧に使った粉などが、患者の処置中にポロポロと零れ落ちることがあります。
それが万一、患者さんの創部に落ちてしまったら、目も当てられません。
なので、自分としてはなるべく化粧をしてほしくないのですが……。
「……」
軍規に書かれていない以上、確かに彼の言うとおり自分に化粧を制限することは出来ません。
何なら、森林迷彩としての化粧を研究している軍人もいます。
無駄に反感を買わないためにも、あとでやんわりお願いしていくことにしましょうか。
「すみません、遅れましたぁ」
「ごめんなさーい」
10分ほど待つと、姿を見せなかった看護兵やラキャさん達が集合場所に現れました。
「ふわぁ……」
ラキャさんは寝ぼけ眼をこすっており、まだパジャマ姿です。
どうやら彼女は、かなり朝が弱いみたいですね。
「もう時間過ぎてたか~」
「本当に申し訳ありません……」
一方で看護兵達は目は覚めていたようで、ちゃんと軍服を着てきてくれたのですが、
「……何で看護兵さん達も、バッチリ化粧を決めてるんですか」
「え? いやだって」
「化粧をしている時間があるなら、集合時間に間に合うよう行動してください」
「いや、だってラキャちゃん寝てたし、まだ良いかなって。そもそも呼び出されたの、7時だよね?」
どいつもこいつも、化粧をしっかりキメてやがりました。
何故、集合より化粧を優先……?
「あの、エルマ看護長。首都の病院内では、派手な化粧は許可されるものなのでしょうか」
「……私はマシュデール出身なので、首都については何とも言えませんが。私の所属する病院では、見苦しくない程度になら許可されていました」
「そんなものですか」
「……とはいえ、彼女たちの化粧は過剰に見えますけどね」
「だって、病院と違ってここルールないし」
遅刻してきた看護兵達に、あまり反省の色は見えません。
これは、流石に怒った方が良いのでしょうか。
いくら人望がある小隊長を目指さないといけないとはいえ、軍規の違反には厳しいところを見せないと、規律がなぁなぁになります。
……嫌われるかもですが、遅刻者には罰則を設けるとしましょう。
「化粧についても、本音を言えば禁止したいところですが。軍規に書かれていないので、現時点では不問とします」
「やった」
「……ただし本日、遅刻してきた5名の方は朝食、昼食を抜きとします。軍隊は時間厳守です。今後、このようなことがないように気を付けてください」
「げっ!!」
自分が遅刻の罰で食事抜きを宣告すると、何人かは物凄く不満げな顔をしました。
そこまでやるか、と言った表情です。
体罰が無い分、とあるお方に比べて非常に軽い処分なのですが……。
遅刻したのは自分なのですし、それくらい受け入れてください。
「メシ抜き!? 本気で?」
「そんな……、たったそれだけの事で!?」
「いや、集合時間は大事だよ。明日からは遅刻しない様にね」
「えー、朝早すぎますって」
……これが、これが新兵というやつですか。
あまり他人の事を悪くは言えませんが、意識が自分達と違いすぎます。
多少の遅刻は許されるもの、上官の罰則には反抗するもの。そんな、彼らにとっての当たり前が見てとれます。
この方達は、『上官の命令は絶対』という軍人の常識なんて持っていないのです。
「ラキャさんは早く着替えてきてください。寝巻で大尉に面会するつもりですか」
「はーいぃ……」
これは、どうやって意識を変えるべきでしょうか。
平時である今ですら満足に部下に言う事を聞いてもらえていないのに、いざという時に自分は彼らを統制できるとは思えません。
やはり、自分には威厳とかカリスマとか、そう言うものが不足しているようです。
……ああ。早く、南部方面軍と合流して小隊長の任務から退きたいです。
軽くげんなりしつつも、着替えに行かせたラキャさんの帰りを待っていると、
「あの、ラキャさんはまだ戻ってこないのですか?」
「さっき、急におなかが痛くなってきたって、トイレに籠っちゃいました」
「……」
食事抜きで絶望の淵に沈んだラキャ2等衛生兵は、トイレから出てこなくなりました。
……まさか、無言の抗議とかじゃありませんよね、これ。
「あの、ラキャさん。もうそろそろ移動を始めないと、不味いのですが」
「ごめんなさい、本当に、お腹が痛くって」
「……」
そんな彼女が、腹を押さえながらトイレから出てきたのは、7時の直前でした。
アリア大尉の部屋まで走ったとしても、ギリギリ間に合わない程度の時間です。
「うぅー、ごめんなさいトウリ小隊長! も、もう大丈夫だから」
「……」
ああ。
これが、今の自分の指揮能力なのですね。
集合時間に間に合うよう行動してくれるのは、部隊の半分。
化粧をやめてくださいという、自分の意見は拒否されて。
罰則を言い渡すと、部下はトイレに籠って出てこなくなる。
……やはり、自分に小隊長は荷が重い任務です。
「この、愚か者がぁ!!!!」
結局、アリア大尉との集合時間には間に合いませんでした。
7時2分。それが、自分達トウリ衛生小隊がアリア大尉の執務室に集合できた時間です。
2分間の、遅刻でした。
「トウリ衛生兵長。貴様は半年間、西部戦線で何を学んできた?」
「はい、アリア大尉殿。自分は、何も学んでなどいませんでした」
激しい殴打音が、大尉の部屋に鳴り響きます。
遅刻して入室した自分達を見て、アリアさんは憤怒の表情で自分の頬を張り飛ばしました。
「衛生小隊が遅刻することの意味を、お前は学んで来なかったのか!」
「申し訳ありません」
「2分あれば、人は死ぬぞ。貴様はたった今、人を一人見殺しにしたかもしれんのだぞ!」
そういえば、今は亡きガーバック小隊長が言ってました。
レンヴェル少佐は、かなり暴力的な指導を繰り返すタイプの人だったと。
そのレンヴェル少佐の娘であるアリア少尉も、結構手が出るタイプみたいです。
「気合を入れて立て、トウリ。まだ話は終わっていないぞ!」
「はい、大尉殿」
自分に追従して部屋に入ってきたメンバーは、目の前で激しい暴行が繰り広げられ目を白黒させていました。
自分がヌルすぎるだけで、普通の兵士はこんなもんです。
せっかくなので、よく見ておいてください。
「まず、貴様が連れてきた衛生兵の一人。白髪の、すっとぼけた顔をしたお前だ!」
「は、はいィ!?」
突然アリア大尉に話を振られ、ラキャさんは泣きそうな目で返事を返しました。
自分も殴られると思ったのか、肩を竦めてガタガタ震えています。
「貴様、呼ばれたら階級と名を名乗れェ!!」
「はい、ら、ラキャ2等衛生兵、です!」
「ラキャか。貴様、どうして軍服の裾が翻っている!! お前は満足に、服を着ることすらできんのかァ!!」
「は、はい、ごめんなさぃい!!!」
ラキャさんの、服装が乱れていることにアリア大尉はご立腹のようです。
トイレから慌てて出てきたので、しっかり服装を整えられなかったのでしょう。
「歯を食いしばれぇえ!!」
彼女はラキャさんに向かって怒鳴ると、迷わず自分の頬を張り飛ばしました。
ああ、制裁はこっちに来る感じですか。
「貴様の指導不足だ。小隊長を任されたなら、服装くらいはしっかり指導しろ」
「はい、申し訳ありません」
……アリア大尉って、上官として接するとこんなに厳しい方だったんですね。
彼女の恋人だった兵士は、よく彼女に惚れようと思ったものです。
そっちの趣味とかあった人かもしれません。
「次に。貴様ら、どいつもこいつもその濃い化粧は何だ!!」
「「は、はい」」
「貴様らは男に媚びに戦場へ出るのか? サバト兵に性奴隷を献上するために、我々の貴重な軍費を浪費するつもりか?!」
頬を張るのに飽きたのか、アリア大尉は自分の腹部の殴打へ罰を切り替えました。
腹を殴られ、自分は思わずその場に蹲ります。
あー、懐かしい感覚です。
ガーバック小隊長殿は鳩尾を穿った後、うずくまった瞬間に脛を蹴飛ばしてきましたっけ。
それを考えると、アリア大尉は有情ですね。
「トウリ貴様、誰か他の衛生兵が化粧をしている姿を見たか? そんな事も部下に伝えられんのか!?」
「はい、スミマセン」
「化粧箱なんぞ持ち歩く余裕があれば、1本でも多く包帯を持ち歩け! ひよことはいえ衛生兵だろ、この能なしども!」
アリア大尉の激昂は、続きます。
自分の背後では、顔を真っ青にしたアルノマさんや看護兵達が、殴られている自分を見下ろしていました。
一方、ヴェルディさんは……。恐る恐る、と言った顔で口をつぐんで様子を見ています。
……あ、これってもしかして。
「大変申し訳ありませんでした、全て自分の監督不行届きです。以後このようなことが無いよう、徹底して指導します」
「ふん、言われる前に最初からやれ」
自分は絞り出すように謝罪すると、やがてアリア大尉はどっかと椅子に座りました。
そしてヴェルディさんの方に向き直り、ふんと鼻息を鳴らします。
「とりあえず本題だ。そこにいるヴェルディ少尉───私の従弟だが、ソイツが貴様ら衛生小隊と行動を共にする部隊の長だ」
「よ、よろしくね」
「今から貴様らはヴェルディに案内させ、中隊と合流させる。そこで、衛生小隊もヴェルディ監督の下で各種訓練を受けろ」
「「は、はい! 大隊長殿!」」
「では解散、下がれ!」
アリア大尉は、鬼のような形相のまま命令を下しました。
衛生小隊のメンバー全員が、緊張しきった顔で敬礼してカクカクと退室していきます。
「次は遅刻することの無いように、トウリ」
「はい」
最後にそう言葉を交わし、自分とアリア大尉は別れました。
「……」
アリア大尉の最後の言葉には、あまり怒りの感情を感じませんでした。
むしろ、多少の慈しみも混じっていた気がします。
「な、何だあの女軍人さん……おっかねぇ」
「あの人が私達の上官……」
……そういえば、以前に彼女は言っていましたね。上に立つものは、怖がられるのが仕事だと。
アリア大尉の恫喝を受けて、小隊メンバーは全員、戦々恐々としていました。
「……」
今の激しい折檻は、もしかしたら自分のためにやってくれたのかもしれません。
自分では歳上の部下を十分に叱責できないと判断して、敢えて厳しく指導したのです。
衛生部に入るような優しい人間にとって、年下の娘がボコボコに折檻される光景は見るに堪えないでしょう。
それが、自分の責任から来る折檻であれば尚更です。
つまりアリア大尉は自分に代わって、恐怖で従わせる役割を引き受けてくれたと思われます。
「うぅ、やべぇ所に所属しちゃった」
ガーバック小隊長もそうでしたが、上官というのは基本的に疎まれるものです。
常日頃から陰口を叩かれている彼女にとって、恐怖の目でみられるのは辛いことに違い有りません。
だというのに、未熟な自分のためそんな役回りを引き受けてくれた彼女には、頭が上がりません。
「す、すまなかった小さな小隊長。……次からは、ちゃんと言うこと聞くよ」
「ごめん、ごめんね小隊長ぉ~。私が遅刻したせいで」
「いえ、お気になさらず」
そのアリア大尉の威光で、部下たちは命令に従ってくれるようになりました。
年下の娘が自分のせいで暴行される図というのは、想像以上に堪えたようです。
これも、アリア大尉の計算通りなのでしょう。
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