第35話

 自分はこの地獄で、命の取捨選択をずっと行ってきました。


 助けられる命、助けられない命、助けるとコスパの悪い命、助ければ利益の大きい命。


 いつの間にか自分は、ずいぶんと人の命を安く見積もるようになってしまった気がします。



 目を虚ろにしながら、自分を救えと絶叫する助かる見込みの無い兵士。


 そんな連中を、自分は何度も何度も相手にし続けました。


「何とか言えよ、言ってくれよ先輩ぃ!」

「……っ」


 平常時の自分であれば、きっと彼を見捨てる判断をしたと思います。


 ゴムージをここで治療しても、何の得にもならないからです。


 「逆らったら見捨てる」と前置きしておいたのに命令違反をした挙句、両足を失った彼はお荷物とすら言えましょう。



「見捨てないでくれぇ……」



 助ける理由がない。その魔力は自分にとっての命綱、無駄に浪費すべきではない。


 そう理解していたからきっと、「理性」の部分が最後まで自分を躊躇わせていたからです。



「────大丈夫です、ゴムージ」



 数秒の躊躇いの後。


 自分は溜め息を吐いて、男の前に屈みました。



「安心してください、自分はお前を見捨てません」



 今、自分がゴムージを見捨てても、きっと誰も責めなかったでしょう。


 自分に残された回復魔法1回分の魔力は、命綱です。


 魔力の有無は、今後の自分の生存率に直結します。



「そのまま、ゆっくり深呼吸してください」

「え、あ」

「───【癒】」



 だというのに、自分はなけなしの魔力をはたいて、治癒魔法を使い、ゴムージの足の出血を抑えてやりました。



 この男は放っておいて、他に生き延びる道を探す。


 戦力が減ってしまったが、それをリカバリーする何かを考え、生き延びる。


 それが、おそらく冷静で正しい判断だったでしょう。



「さて、落ち着きましたかゴムージ」

「う、あ、ああ」

「さて、もうこれで懲りましたね? これからは、自分の指揮に従ってもらいますよ」



 他人に甘いこと、この上ありません。


 自分の、他人を助ける悪癖もここまで来てしまったかと自嘲したことを覚えています。



「もう自分に逆らわないと誓うなら、新米1人くらい運送キャリーして見せましょう」

「あ、ああ。誓う、誓うから」

「よろしい」



 こうして自分は、両足の動けない新米兵士を治療して魔力を殆んど使い切ってしまいました。


 この時、自分は残り【盾】を一発撃てるかどうかという魔力残量でした。


 魔力も医療資源も失ってしまった今、自分は無力な15歳の小娘に成り果てたのです。


 そんな代償を支払ってまで、彼を治す意味はあったのでしょうか。


「ならば後は自分せんぱいに、任せてください」




 しかし後から思えば。


 この時、彼を治したのは決して良心や優しさからではあり・・ません・・・でした。


 自分の直感────、いえ、自分の中の「誰か」の声に従った結果だったように思います。


 その自分の中の「誰か」はこの極限状態において、ゲームに生き残るための最適行動を自分に示し続けていたのです。


 そして恐らくその「誰か」が、満身創痍のゴムージを治して力を借りることが、生存への最適解であった事を感じ取ったのでしょう。


 だから、貴重な魔力を使ってゴムージを癒したのです。







 魔法で両足の止血を終えた後も、彼はかなり消耗している様子でした。


 意識は何とか保っていますが、目は虚ろなままです。


 かなり失血していますからね、まともに動かすのは危険でしょう。


「腕は動きますね、ゴムージ」

「あ、ああ」

「じゃあ貴方には、角待ちをしてもらいます」


 そういうと自分は、彼を背負って立ち上がります。


 こんな状態の新米に、難しいことは要求できません。


「おい、何をするつもり、だ」

「先ほど裏を取れていた敵の銃撃拠点を、制圧しに向かいます」

「アホか……、俺たち2人で、どうやって」

「そこを突破できなければ、自分たちはそのうち殺されますけど」


 なので自分は、新米にも出来る分かりやすい仕事を振りました。


 角で待って、敵が来たら撃て。彼の仕事は、それだけです。


「そこを突破するしか、ねぇってのか?」

「ええ。手榴弾が一つでもあれば、一気に楽になるんですけどね」


 残念ながら、ここまでの死体に手榴弾はありませんでした。


 大通りに転がっている沢山の死体をあされば、手榴弾1つくらい補充できそうですが……、人目の多い場所に姿を見せるリスクが高すぎます。


 自分の服装は血濡れた白ワンピース。大通りに姿なんて見せたら、さぞ目立つでしょう。


 背後から手榴弾を投げ込んで一掃する作戦は、ナシですね。


 となると、手持ちの武器───手銃と小銃で、背後から奇襲をかけるしかない。


 せっかく誰にも見つからないまま敵の裏を取れたので、これをぜひ利用したいところです。


「自分が敵を誘い出すので、お前は誘いに乗って追いかけてきた敵を銃撃してください」

「あ、ああ」

「間違って自分を撃たないでくださいよ」


 撃ち合いにおける必勝パターンの一つ、裏取り。


 それは敵の背後から、見つかる前に奇襲するFPSの最強の戦術です。


「自分は銃撃の経験がありません。まともに小銃を扱えるのは、ゴムージ、おそらくお前だけです」

「お、俺だってまだ本当に人を撃ったことは」

「撃ち方は知っているでしょう」


 自分は衛生兵なので、銃の扱い方も知りません。


 自力でリロードも、おそらくできないでしょう。


「この手銃は単発式なんですね? 一発撃てば使い物にならない」

「あ、ああ」


 そもそも、敵から奪ったこの手銃は単発式でした。小銃が壊れた時の予備、あるいは咄嗟の近接戦で使う用のお守りの様です。


 だから、自分はどんなに頑張ろうと、1人しか殺せなかったのです。


「お前が、主力です。頼みましたよ、ゴムージ」


 最初から彼に戦ってもらう他、自分に最前線を突破する方法なんて無いのです。







「声的に、あの銃撃拠点に10名ほどの敵兵がいると想定されます」

「10人……っ」


 自分たちは息を潜め、再び先ほどの銃撃拠点の裏に移動してきました。


 敵はおそらく、小隊規模。気配的に、多めに見積もって10名と仮定しました。


「む、無理だろ。そんなの突破出来っこねぇ……」

「出来ないと負ける、それだけです」

「そんな無茶苦茶な! おい、まさか俺を囮に1人だけ逃げようって腹じゃねぇだろうな!」

「そんなつもりなら、わざわざ貴重な魔力を使って助けませんよ」


 お前じゃあるまいし。


「自分が1人で突撃します。しかしこの手銃の性能からして、どんなに頑張っても仕留められるのは1人」

「あ、ああ」

「だからお前は、裏路地に逃げ込んだ自分を追ってきた兵士を待って、撃ち殺してください」


 彼にそう命令を下した後、自分は後ろ手に小さな手銃を握りしめました。


 たった一発の、撃ったことすらない実銃。


 これを敵に命中させる必要は、必ずしもありません。敵に自分という存在を認識させ、脅威を感じさせればそれでいいのです。


 あくまで自分は囮、本命はゴムージによる角待ち作戦。


 ですが欲を搔くなら、この一発で誰かを仕留めておきたい所です。


「それでは、お願いしますね」


 自分は、暗い路地に座り込んだ部下を流し見た後。



 血に濡れたワンピースを靡かせて、静かに敵の拠点へと歩いていきました。








 硝煙の香りの乗った風が、色濃く吹き荒れる中。


 自分は姿も隠さず、堂々と敵の背後へと姿を見せます。



「■■■ー」



 裏路地を出てすぐのところに、大きな家がありました。


 どうやら敵は、その家の庭に陣取っている様子です。その数は……7人ですか。


 塀越しに様子を窺っていましたが、後ろを気にしている敵兵はいませんでした。


 まあいきなり背から敵が出てくるとか、想定していないでしょう。


 何せ背後の大通りは、サバト軍が制圧しているはずなのですから。


「■■■!」

「■■■■ー」


 敵は、家屋を覆う石造りの壁を盾代わりにオースティン兵と撃ちあっていました。


 誰か富豪の家の庭を、銃撃拠点に使用しているようです。


 なるほど、その家の壁は低く兵士にとって撃ちやすい高さであり、四方を覆われているので拠点としては理想的な作りをしていました。


 良い場所に目を付けましたね。



「さて」


 そして、壁が四方で覆われている状況は、自分にとってもありがたいです。


 自分も伏せるだけで、敵の銃撃を躱す事が出来るので。


 敵が気づいていないうちにゆっくりと、自分は手銃を取り出して目と鼻の先に立っていた指揮官らしい男に銃口を向けます。


「……リコイルって、どのくらいでしょうか?」


 以前自分に与えられていた風銃は、ほとんど反動がありません。


 魔法により、反動が制御されているそうです。


 ですが、これは実銃。自分の筋力の無さも鑑みて、かなり低めを狙った方が良いでしょう。



 当たるも八卦、当たらぬも八卦。


 一番偉そうで、指示を飛ばしている敵の兵士の心臓に狙いを定め、


「───っ!!」



 自分はこの世界で初めて、実弾銃を発射しました。






 結論から言いますと、自分の銃は割といいところにあたってくれました。


 思ったより反動は大きかったので、心臓直撃とはいきませんでしたが……、敵前線指揮官の左肩を撃ち抜くことが出来ました。


 おそらく、肺は破った筈です。前線に衛生兵でも配備していない限り、治療は不可能でしょう。


 初めて撃ったにしては、上々ではないでしょうか。



「さて、と」



 敵たちは凄まじい形相で自分の方へ振り向きました。


 そして、自分という敵の存在を認知しました。


「こっちですよ」


 すかさず、当初の予定通り自分は屈みこんで、裏路地の方向へと走っていきました。


 このまま、路地裏までついてきてくれたりはしませんかね。


「■■■■、■■っ!!」


 敵の慌てた声が、裏路地に響きます。


 そして間もなく、数名の敵が裏路地側の壁に張り付いた気配を感じます。


 流石に不用意に、路地裏まで追ってきてくれはしないですね。


 ならば、追わざるを得ないようにするだけです。



「■■■ァ!!」



 敵は自分が路地裏に逃げ込んだ直後、手榴弾を投げ込んできました。これも、想定通りです。


 未知の敵が背後に現れた時、きっと敵は手榴弾という強力な兵器に頼るだろうと信じていました。


 広々とした塹壕戦ならともかく、こんな距離の近い位置で迂闊に手榴弾を使えばどうなるか教えてあげましょう。


「───【盾】」


 自分は残りの魔力を全て使って、投擲を行った敵兵の目の前に【盾】を出現させてやりました。


 手榴弾には2種類のタイプがあります。それは時限式で爆発するタイプと、衝撃に反応して爆発するタイプ。


 そして手投げの手榴弾の多くは、衝撃に反応して起爆するタイプであり、



「■■!!?」



 敵の投げ込んだ手榴弾は、自分が路地に隠れたまま展開した【盾】にぶつかり大爆発を起こしました。


 その爆発で自分が狙ったのは、敵の撃破ではありません。自分達と彼らを遮る、壁の破壊です。


 そう、敵は不用意な手榴弾の投擲により、大事な「家の壁」を崩壊させてしまったのです。


 これで、自分達の隠れている裏路地と敵の拠点を遮るものが何もなくなりました。


 ついでに運良く、爆風に巻き込まれたらしい敵が1人重傷を負ったのが見えました。


 これで残りの敵は、5人。



 そして、この状況を自分は作りたかったのです。


 敵からすれば銃を持った敵が背後を取って、いつでも路地に隠れながら狙撃できる状況です。


 背後を取られたまま、正面のオースティン兵と撃ち合うなんて正気の沙汰ではありません。


 しかし路地裏に手榴弾を投げ込めば、どうなるか先ほど思い知ったはずです。


 だからきっと自分達を排除する為、敵は絶対に乗り込んでくると自分は読みました。



「■■■■!」



 敵の判断は早く、すぐさま2名の兵士がこちらに向かって突撃してきました。


 自分がもう弾も魔力も尽きているハリボテ兵士とは思わなかったのでしょう。


 彼らはちゃんと自分を、危険な敵として判断してくれたようです。


「……こっちですよ」


 そのまま自分は、狭い路地裏でサバト兵と正面から相対することになりました。


 今の自分は魔力が尽き果てて、【盾】を出すことすら出来ません。


 だから精一杯の虚勢を張って、必死に敵を睨み付けるのでした。




 今、自分が着ている服は真っ白なワンピースです。


 ところどころ血で赤く染まったこの服は、それはもうよく目立ちます。


 そんな自分が、裏路地の奥で堂々と立って睨み付けたら、敵の目線はどうなるでしょうか。



 ───裏路地の角、足を失って壁際にもたれていた「新米兵士」に、きちんと注意を向けられるでしょうか。



「今ですゴムージ!」

「お、オォ!!」



 敵が銃を構えるより早く、ゴムージが敵兵に向け小銃をぶっぱなしました。


 この男は、かなり生き汚い性格です。


 そんな彼が生殺与奪の権を自分の作戦に握られている以上、きっと最高のパフォーマンスを見せてくれると信じていました。


「やったぜ、当たったぃ!」

「■、■、■っ!!」


 血反吐を吐きながら、撃たれた敵兵はゴムージを睨みつけます。


 サバトの勝ち戦の、最後の詰めで戦死しようというのです。


 それはもう、凄まじい未練があるでしょう


 その凄まじい形相の敵に対し、


「悪いな、俺のために死んでくれやぁ!!」


 ゴムージは何のためらいも無く引き金を引き切ったのでした。





 これで、敵の残存戦力はあと3人。彼らさえ倒せば、拠点制圧です。


 こちらの戦力は、ゴムージと自分の2人。武器弾薬は、先ほど殺したサバト兵士さんから頂戴しました。


 新米と衛生兵の2人というか細い戦力ですが、実はこれでも十分すぎます。何故なら、



「おお、何か敵が勝手に死んだぞ」

「対面のオースティン兵ですね。これで、もう残存戦力はわずかです」



 自分達は彼らサバト兵を、包囲しているのです。


 前後に注意を払わねばならない戦況というのは、どのような優秀な部隊であっても壊滅しかねない絶体絶命の窮地なのです。


「……今です、敵が2人とも前を向いています。狙撃してください」

「よし来たぁ!」


 目の前で仲間が撃ち殺された事に動揺したのか、迂闊にも目前のサバト兵の我々への警戒が途切れました。


 そのタイミングでゴムージをけしかけ、サバト兵の1人を射殺します。


 これで敵は、残り1人。たった1人で前後に注意を払うなんて事は出来ません。


 これが、包囲されるという事の厳しさなのです。


 まぁもっとも、


「さて、そろそろ味方陣地に突っ込みますよゴムージ。自分に背負われたまま、銃を乱射して下さい」

「え?」

「そろそろ時間切れです。間もなく大通り側から此処へ、サバト部隊が詰めに来ますよ」

「えええ!?」


 背後の大通りをサバトが制圧しているので、包囲されているのは自分たちも一緒なのですが。


 前線部隊が壊滅しそうだという情報が後方に渡れば、すぐさま後詰が送られてくるはずです。


 さっきから破滅の予感がビンビンしていましたが、そろそろ限界っぽいです。



「是非、突っ込みながら拠点の最後の敵を仕留めてくださいゴムージ。そうしなければ、自分達は敵兵を背に銃弾飛び交う前線を突っ走らなければならなくなります」

「お、おい正気か」

「ゴムージ、お前は自分の肉盾です。背後からの銃弾は、お前で受け止める所存です。撃たれたくなければ、仕留めてください」

「ああ、もう、クソッタレ!」



 自分の立てた作戦はかなり上手くいったのですが、それでも一歩足りなかったようです。


 間も無くここに、サバト兵が詰め寄せてくる気がします。


 自分達は今すぐ飛び出して、目の前のサバト兵と交戦せねばなりません。


 現状、一番これが生存率の高い作戦とはいえ、十中八九死んじゃう気がします。


「行きますよ!」

「おお、おおおっ!!」


 背後に迫る敵の気配から逃げるように、自分とゴムージは裏路地を飛び出しました。


 敵はギョっとした顔でこちらを向いて、そして銃口を向けてきました。


「ひぃい!」


 銃弾の1発が自分の腹をかすめ、そしてゴムージの腕を貫きました。


 その1発が自分達にとって致命の一撃でなかったことは幸いでした。


 しかし、敵が撃ち抜いたゴムージの腕は銃を持っていた腕であり、


「あ、馬鹿、何をしているんです」

「撃たれたんだよ! 痛ってぇ!!」


 ガチャーン、と大きな音をたてて。


 ゴムージは大事な命綱である小銃を、地面に落としてしまったのです。


 もちろんそれを拾いに行く余裕なんてありません。


「……■■■!!」


 敵は既に、再度自分達に銃口を向けていました。


 しかも、今度はきっちりストライクコース。重たいものを背負っている自分に、避ける手段はありません。


 どうやら、自分の撤退作戦は失敗ですね。割と、頑張ったつもりだったんですが。


 まぁ、元々無理ゲーに近い条件だったんです。次はもっと、上手くやりましょう。



 ああ、いいえ。


 もう、自分に次なんて無いんでした。


 だってこの戦争はゲームなんかじゃなくて、硝煙の匂いや火傷の痛みも本物で、敵が自分に向けて撃ってくる銃弾は実銃なのです。



 最期まで自分は愚かでした。


 戦争ゲームなんかの経験を使って、実際の戦争を生き延びようだなんて、おこがましい事この上ありません。


 自分なりに全力で生き抜こうとしましたが、自分はここまでのようです。


 今までたくさんの人に支えられて生きてきた命だというのに、無駄にしてごめんなさい。


 死ぬ前に、せめて。孤児院の皆の、安否を知りたかったです。




「まだ走れるな、トウリ」




 そう、死ぬ覚悟を決めて居た折でした。


 厳しくも恐ろしく、そして誰よりも前線で頼りになる軍人の声が聞こえてきたのは。


「……あ」

「退くぞ」


 その男は自分の背丈程の剣を振るって、自分に銃口を向けていた敵兵を真っ二つに切り裂きました。


 彼は肩から血を流し腹に包帯を巻きながらも、平然とした顔で立っています。



「ガーバック、小隊長殿」

「ふん、運の良い奴」



 自分は慌てて、彼の背へと向かって走りました。


 何故ここに彼が居るのか、どうして彼は助けに来てくれたのか、何も分かりませんが。


 1つだけ言えるのは、ガーバック小隊長の背中に居さえすれば、この前線の何処よりも安全なのです。



「どうして、その」

「少佐殿の仰せは、負傷兵の撤退を支援し戦線を維持せよ、だ。こんな命令じゃなきゃ、てめぇなんぞ助けに来ねぇよタコ」


 そう言ったきり、小隊長殿は黙って走り去っていきます。


「あっ、その」

「……」

「ありがとうございます、小隊長殿!」


 その背は、とても頼もしくて。


 自分は置いていかれまいと最後の体力を振り絞り、戦場で一番安全な男の背中と共に味方陣地へと撤退したのでした。


 

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