第15話 「なぜ部屋は何もしなくても汚れるのか」「……無駄にものが多いからです」「必要なものだらけだって」「使っているとこ見たこと無いですよ」
「ふーん。髪がねえ」
デウスのとっても長い説明によるとアタシらの髪は便利なセンサーらしい。全然知らんかった。
「その機能は先程実感していただいたと思いますが、良いことばかりではないみたいですね」
「うん。なんかすごいたくさんいろんなことが分かったよ。すごかったけど、アタシの脳みそじゃとてもついていけねえ。ドローン撃つのは上手く行ったけど、その後は駄目だったな」
「普通なら無意識で処理できる部分を意識的にヤラなければならないみたいですね。そりゃあ負荷がかかりますよ。いくらハードの性能が向上しても、処理が追いつかないなら万全な運用にはなりません」
ようは今のアタシには身の丈に合わないってわけだ。
「これって使いこなせるようになるもんなの?」
「徐々に慣らしていけば能力の向上は出来ると思います。それこそ髪の伸びる速度で慣れていけばいいんじゃないですかね」
「気の長い話だなあ。まあ簡単に強くなる方法は、そう簡単にはないよ」
筋トレみたいなもんか。いや脳トレか。
だけど、まじで銃は当たった。外れる気がしない、当たって当然といえるくらいの気持ちになり実際にあたった。あの感覚に長く浸りたいわけじゃないけど、自在に使えれば確かに狩りには便利だ。
再現できるかはわからないが、あの感覚は残っている。
「オン・オフできればいいんですけど人間の感覚って基本に意図的にオフに出来ないんですよね」
デウスが何処からかハサミを取り出す。
「まてまて、何だそのハサミは」
お前アタシの髪を切るつもりか?まさかね。
「切らないんですか?」
ロボットがキョトンとするんじゃないよ。切らんよ。もったいない。
「慣れるかもしれないだろう?」
「切るなと言うならきりませんけど……」
デウスと話している間に、少しずつ感覚が鋭敏になっているのを感じる。
ようはアタシがこの感覚に慣れればいいわけだ。自慢ではないが我慢ができて偉いと褒めてもらったこともある。いざとなればデウスに止めてもらえばいいわけだし。これに慣れれば敵なんていなくなる。
害獣を狩って狩って狩りまくって、大手柄の大儲けだ。
アタシの名前を教科書に乗せてやるぜ!
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「ちょっとだからな?ちょっとでいい。5mmくらい。おい、ジョキンって聞こえたぞ!」
本日何回目かの目眩から電撃を浴びたアタシは悟った。流石にいきなりこの長さは無理。
筋トレも訓練もできるギリギリをせめるのが大事とデウスも言っていた。
大体急にこんなに髪がモサモサになってしまったら家族もびっくりする。
どうせ髪なんてほっとけば伸びるのだ。多少切ったっていいだろう。
「さっき少し切った時の反応から計算して、これくらい切らないと日常生活も困難ですよ。とりあえず肩の長さで揃えましたけど、気分はどうです?」
「……今のところ、変な感じはしないな」
自分の心音やデウスの瞳孔、上で働いてるスライムが這いずる音。
かなり分かることが増えたが、見える範囲も、聞こえる音も常識の範囲だ。
「変な感じ、ですか。五感以外の髪による超感覚。正直めちゃくちゃ興味があります。切った髪調べてもいいですか?」
「いいけどさあ」
うーん。正直ちょっと恥ずかしいし、超感覚というよりアタシの妄想の気がして、あんま突っ込んでほしくないんだが、こいつが自分から興味を持つのって珍しいんだよなあ。
枝毛とか混じってたらやだな。
「そういやこれって都市の人たちも連中も同じってことか?」
「いえ、人体機能拡張の形質はゴモラ、もっというとその前段の企業由来のはずです。遺伝改造の話しましたよね?それです」
そこの機械で出来るやつか。
「ゲノム編集技術の隆盛に合わせて、人間の進化先の研究は『妄想』から『困難だが手の届く研究』になりました。特に人間に感覚器の追加を目的にした研究は主流でしたね。その成果の子孫といいますか成れの果てといいますか、とにかく髪の感覚器化に成功した研究成果の子孫がマキナさんみたいですね」
「なるほど」
ご先祖様がいろいろやったのね。
遺伝子改造はアタシにも意味があったんだな。思ったのとちょっと違ったけど。
「でも、もう意味ないって言ってなかったか?なんで急に髪に興味が湧いたんだ?」
「ゴモラのコンセプトは肉体の進化ですが、中期以降は禄に研究せずに、筋肉、骨、血、神経の改造によるスーパーアーミー作りに堕落してましたからね。僕のデータにはマキナさんみたいなのいなかったんですよね」
デウスにも知らんことあるのか。なんか以外だな
~~~~~
午後の訓練は、ずいぶんとよくなった。
焦らずに周りが見えるし、害獣の角を狙って撃つのも一度体が手本を学んだからか、何回かに1回は成功するようになった。なにより周りの状況を把握できるようになったのがいい。いちいち振り向かなくてもドローンが何処にいるのかだいたい分かる。これなら何処にいようがだいたい同じだ。
3機が余裕になると4機、5機と地下1階からぞろぞろと新しいドローンが降りてくる。出てくる。どうやらデウスは自分の部屋をドローン工房にしているらしい。
「足使ってください。囲まれて困るなら囲まれないように!立ち回りを意識してみましょう」
「なるほどね!」
アタシの裏から来たドローンをまとめて蹴っ飛ばす。硬くて重いがやれないことはないな。
「囲まれないように動き回って欲しいという意味だったのですが、……まあ、それもありですね。本物にも通じますし」
~~~~~
「今日はここまでにしましょう」
「まだ、行けるって」
楽しい。やっぱりこの訓練は楽しい。全身を使って、ドローンの動きを読んだり、こんなの無理だろ!って動きで突っ込んでくるドローンを避けられるとドキドキする。駄目だと思っても何回か繰り返すとどんどん出来ることが増える。ドローンは撃っても蹴っても壊れないからいつまでも遊べる。これ都市でやったら流行るんじゃないの?
倒すたびにドローンは増え続け、今日は最終的に8機のドローンに囲まれた。よくもそんだけ作っといてくれたぜ。
8機は手強かった。囲まれると余裕が無くなって、撃ち漏らしてしまう。髪を伸ばしたお陰でドローンの場所と動きはなんとなくわかるが、単純に体の反応が追いつかない。でも次はいける。次こそいける。デウスが加減しているのかドローンが当たってももうたいして痛くない。
「もう外は暗い時間ですよ。食事と休憩、睡眠と取る時間です。続きは明日にしましょう」
あれま、もうそんな時間かいつの間に。地下はずっと明るいから時間の経過がわからなかった。いわれると確かに腹が減っている。今日はずっと地下にいたのか。
「明日は絶対8機超えるぜ」
「3機でも十分だったんですが、髪伸ばしたこと見違えましたね。体の動きも合わせるように良くなっていきました。最高でも4機までと予想してましたので驚きましたよ」
「ハンター向いてるかもしれない」
本日伸びた髪をかき上げてみる。首の辺りがチクチクして痒かったり、ちょっと頭が重かったりするが、そんなの気にならない位よい。すごく良い。
今日の感じなら、髪をもうちょい伸ばしてもいいかもしれないなんて思ってしまう。いや、昼みたいになるのは嫌だけど。もう少しだけ。後ちょっと1センチ、いや2センチ位いけると思うんだよな。
とりあえず地下2階から上がって、アタシの部屋で晩飯を食べた。栄養バーの新製品、オムレツ味。味はほんのり甘くて栄養バーにしては柔らかい。色も黄色でオムレツっぽい。
母さんの作ったオムレツとは見た目も味も違うが、こういうものだと思えば悪くない。なにせ栄養バーは名前の通り、栄養価は完璧だ。そして安い。だったら名前なんて些細なことだ。
「あ、あと何かナイフみたいなの作れる?解体用じゃなくてそのまま首落とせ得るような大きいやつ」
「近接用の武器ですか?わかりました。明日までに用意しておきます。あと、マキナさん。それ8本目ですけどカロリーオーバーですよね?」
「昼はともかく、夜はいつもこれぐらい食ってるよ?ハンターだし、成長期だし」
ハンターは沢山食うんだよ。爺さんもそう言ってた。たくさん食べてお腹いっぱいになると気持ちよく寝れるのだ。
「まあ、栄養が足りないよりはいいですけど。」
「そうそう食わなきゃ大きくなれないしな」
ハンターとしてはまだまだ身長も体重もほしいんだよな。でかいに越したことはない。結構食ってるつもりなんだけど、なかなか増えないんだよなあ。寝て起きたら30cmくらいパッと増えてないかな。
髪が伸びる時に一緒に身長も伸びてくれてたらいいのに。
「……いくら栄養とっても寝ないと大きく慣れませんよ」
「母さんとおんなじこと言うね、お前」
たくさん食べて、たくさん寝れば、背も髪も伸びるはずだ。アタシはそう習った。
紅髪のマキナと無貌のデウス 蘆花 @rokada
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