構築戦士、隻腕転生

カラーコンタクト

第一話 終戦

 「くっそ……!」

 20年前、我が国ナーガ帝国とワンダ王国との間で始まった戦争。

 ワンダ王国との国境にミスリルの鉱床が見つかったことで始まった戦争は、今では帝国軍部を支配している一部貴族の金儲けのためだけに続けられている。


 先日決まった作戦により我々帝国は戦線の横に当たるトレントの森を押さえられるはずだった。

 俺の率いる第二隊は魔法を使えるものも多く、森での戦いにも慣れている。

 誰もが勝利を確信していた。

 国も、民も、俺自身も……。

 森中に仕掛けた罠に敵兵がかかったのを確認しに向かう。

 この調子なら勝てる、そう思っていた。

  

 そう……思っていたんだけどな……。


 戦術兵器、ドラゴンブレス。

 技術大国のワンダが作り出した兵器であり、俺たちの敗因。

 名前通りの威力の火球を出すそれを放てば罠だろうと鉄の鎧だろうと意味をなさない。


 森のほとんどは火の海になった今、どこへ向かったって誰かも分からない焼死体がひとつ増えるだけだ。


「はは……これでも英雄なんて呼ばれ方もしてたんだけどな」


 わかっている、今の戦いが歪でおぞましいものであることくらい。

 市民は日々ありもしない平和を願って国中を逃げ回り、兵士は平和を願いながら人を殺す。

 そうしてかろうじて手に入れた戦果で貴族がより肥えていく。


 誰もこの戦いに期待していない。

 誰もこの戦いに希望なんて見出していない。

 誰もこの世界で生きようとしていない。


 それでも戦った。

 理由なんてない、それが与えられた役割だったから。

 そうある様に望まてれいるように


「まぁ……それでも」

 意味なんてない、期待も希望も生きる意思も捨てた。

 そんな道具にもなれない死に損ないでも矜恃がある。

 理由を挙げようとすればいくらでも出てくる。

 死んだ仲間の為にとか、忠誠を誓った国の為にとか。

 

 でも……どれも嘘だと思う。

 正直なんでまだ立っているのかも曖昧だけどひとつはっきりしている。

 俺は俺自身の為に負けたくない。


「俺って、ここまで負けず嫌いだったけな」

 俺は物語の主人公の様な善性も貴族どもの様な悪性もない。

 怒りで強くなることもなければ絆の力で覚醒する訳でもない。

 だから今の俺すべてを賭ける。 


 目の前で光るそれを見つめ右腕の魔力回路に魔力を注ぐ。

『創剣』

 与えられた異名は俺の戦い方から来ている。

 戦場で次々剣を生み出し投げ、切りつけ、刺す。

 それを見た連中につけられた異名。


「けど、作れるのは剣だけじゃない」

 そう、俺の魔法は構築魔法。

 知っているものなら生き物以外なんでも作れる。


「そういう訳で……借りますよ皇帝様!」

 尊敬なんてしてないし、なんならちょっと嫌いまである皇帝。

 そんな皇帝がことある事に持ち出し自慢する帝国の象徴とも言える盾。

 曖昧な笑いを見せながら何度も思ってもいないお世辞を並べたそれを生み出す。

 帝国の神話で最強を誇った馬の神が描かれたそれで龍の息吹を受け止める。


「やっぱ……無理か」

 右腕は焼け落ち、虫の息で倒れた俺にワンダの兵が近づいてくる。

 白い鎧に赤い線が入ったそれは俺たち帝国のそれとは違い、様々な魔法陣と魔法文字が彫り込まれていた。


「なんだ……武士の情で……剣で殺してやろうってか?」

「生憎、ワンダは技術の国、そういったものは煙たがられる」

「ははは……そりゃいい、俺もそっちに生まれたかったよ」

 

 あぁ、こりゃダメだな。

 無くなった右腕はともかく他の所からも痛みが消えてきた。

 

「なぜ……最後の攻撃を受けた」

「……プライドってやつだろうな」

「そうか……貴殿は立派だな」

「よせよ、帝国じゃ敗者にかける言葉じゃないぜ」

「それでもだ」


 ……本当に、俺は生まれる国を間違えたな。

 俺が生まれて直ぐに始まった戦争。

 終わらせ方はお互いわかっている。

  

「……その兵器、帝国の東側、ティーンの辺りでぶっぱなしてやんな」

「そこに……いるのだな」

「あぁ……連中は俺たちが死ぬ分にはいいだろうが自分たちに関して言えば切り傷だって作りたがらない」

「わかった……上に申告しておこう」

「はは……連中がビビって漏らすのを地獄から見ててやるよ」

「あぁ、必ずこの戦争を終わらせよう」

「あぁ……まか…せ……た」


 後にナーワン戦争と呼ばれるそれはドラゴンブレスによりナーガ帝国の東側の街ティーンが焼かれたことによりワンダ王国の勝利で終結した。


 自分たちの拠点が燃やされ焦った貴族達によって終わった戦争では多くの被害を出した。

  そのことをワンダが追求したことによりナーガの貴族制は終わりを告げ民主主義の時代が始まった。

 

 この戦争を終わらせた飛龍作戦を立案した兵士は旧トレントの森の復興を任されたくさんのゴーレムと共に日々たくさんの木が植えられて行った。


 その森に人が住めなくなるほど魔物が住み着いた頃、一人の赤ん坊がである小屋の本を読んでいた。



「この施設……あいつのなのか」

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