第46話【白と黒に身を包み】
ヘリオスは暫くの間メモを眺めながらベッドに横たわっていた。するとアルタイルが彼を数回軽く叩く。
「ここじゃ満足に話せんから外行こう」
どうやらアルタイルも色々と整理がついていない様子だ。ヘリオスは静かに承諾し、メモを破ってそれを目の着く場所に置く。寝心地の悪そうな鎧をガシャッと言わしながら寝ているダムゼルを横目に、彼らは音をなるべく立てずに扉を出た。
[散歩に出かけてくる]
外はまだ、月?の薄光と静寂が充ちた至極色の空間であった。見慣れない星座を天井に、良く馴染む虫の音が辺りに響き渡っている。水彩画のように淡い黒で染められた田園が、夜風に吹かれて優しい音を奏でている。
そんな場所で若年サラリーマンとジャージ姿の男児が二人、明日の予定について話し合っていた。
「とりあえず明日どうするよ。これまで通り地上を調査するか、例のインフルエンサーの所に行くか」
「実際もう地上には用事はなさそうだよね。原因は分からないけど色々と性質とかも分かってはいるし」
ヘリオスはメモを見ながらそう答える。
「よしじゃあ、あのペテン師の所に殴り込みに行くか! あ、そうだ。ダムゼルは誘うか?」
ダムゼルはそのインフルエンサーを不審に思い始めている。仲間としてもかなり心強いかもしれない。だが、ヘリオスは首を横に振った。
「やめておこう。あの人一応結構有名な人らしいから、万が一警察沙汰になった時とか身分とか信頼が危ぶまれるし」
それもそうだな、とアルタイルもその案に賛成したようだ。とりあえず予定の決まった彼らは特にすることがないため、時間潰しに例のインフルエンサーに会うための口実を作ることにした。
「あなたのファンなので来ました」や、「こちらの星で出版する本に書かせて欲しい」などと言ったものだ。暫くはその様に真面目に考えていた彼らだが、良い案が出なくなってきたのか次第に「あなたを攫うために来ました」だのとふざけ始めた。
そうしている内に夜は開け、濃い青色を発する恒星スピカが顔を出してきたのだ。
「ここに来てもう三日かぁ。早いなぁ」
ヘリオスが腕を組み夜明けを眺めていると、アルタイルが彼の腕を引っ張りレラブの店の方へと向かいだす。
「まずい、給料貰ってないぞ! 忘れる前に行こうぜ!」
ヘリオスもすっかりその事が頭から抜けていた。
彼らは店の扉の前に到着した。流石に開けていないだろ、とヘリオスは思っていたが、意外にも扉はすんなりと開いた。
「あれ、えらい早いやん。まだ四時やで」
レラブは日光の差し込む店内で、一人机を拭いていた。そしてヘリオスがレラブに対して、地上の調査を辞退することを伝える。調査事態が本来の目的ではないため仕方は無い。だが、二人は少し名残惜しい様子であった。演技などではなく。
「そうか、あんさんら異星の人やもんな。そらずっとはいられへんし。ちょっと待っててな」
そう言うと彼は店の奥へと入っていった。数分後、彼は一つの茶封筒を持って戻ってきて、それを二人に渡す。
「これ、給料な。百万入っとる。あ、ダムゼルには内緒やで、アイツは一日五万での協力やからな。文句言われたらかなんし。ちなみになんでか聞いてもええか?」
レラブは店の奥から二杯の水も持ってきて、机に置く。そして、まぁ座り、と促した。
「ちょっと地上で恐ろしい体験をしたって言うのと、有名なあの予言ができるっていうインフルエンサーと会ってみたいからかなり日が空くことになるからですね」
ヘリオスがそう告げた後に水を軽く啜る。
レラブが、その人に会いたいという理由を聞くと、今度はアルタイルが答えた。
「まぁ、そいつがクロクダホコリを撒いたのは彗だって言ってるのをダムゼルから聞いてな。こっちは彗には色々とお世話になってる身だし、その事について詳しく聞こうかなって」
するとレラブはあの時と同じように豪快に笑い出した。
「ワハハハハ! そうか、あの団体に反感持ってるのはまだ俺らの星だけやもんな。まだ知らんちゅう訳か。普通ならアイツらに好印象持ってるやつにはここで一発シバいてるんやけど、まぁあんさんらは俺らに協力してもらったからな。ま、応援だけはしといたるわ」
すると扉辺りからパサッという音が聞こえた。どうやら新聞が届いたらしい。レラブはそれを拾い上げると、おっ、と呟いた。
「丁度いいな。今からその言ってる人が出る番組が始まるらしいわ。急いでるわけやなかったら、とりあえず見ていき。見た目ぐらいは知っといた方がええやろ」
彼は店の天井付近に置かれているブラウン管の様な古臭いテレビを点けた。画質は意外にも良い。スーッと番組のロゴが画面外から現れ、真ん中に留まる。そして消えていった。
――どこかで見覚えがあるな
ヘリオスはそう思った。
そしてアナウンサーがハキハキとした口調で挨拶をし、出演者の紹介をしていく。
「そして特別ゲスト、百発百中の予言者のオセロ・アールスタグヤさんです! こんな朝っぱらから来て頂きありがとうございますね」
アナウンサーは彼に向かって軽く頭を下げている。そのオセロ・アールスタグヤという人物は肩に機械のような鳥を乗せている普通の青年だ。だが、ヘリオスとアルタイルにはどこか見覚えがあった。いや、見覚えどころじゃない。会ったことがあるのだ。
「どうしたんや、そんな動揺しだして」
レラブは、軽くうろたえている彼らに困惑している。そう、そのオセロは、以前彼ら二人にこの店の場所を教えたあの青年だったのだ。
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