第47話【背水の陣】
「コイツ、あの時彗を応援してるって言ってたよな。何でソイツがあんな事を言っているんだ…?」
アルタイルはヘリオスの顔を見ながらそう呟く。髪の長さや体格、翼の長さに声質、何から何まで三日前に会った彼らの記憶での“あの青年”と完全に一致している。あの特徴的なショルダーバッグと彗への協力的な態度、印象にしか残っていないのだ。
だが、今懸念すべき点はそれでは無く、如何にして彼と再び出会い、そこから流布した噂の撤回をしてもらえるかだ。比較的狭いプテリーガとは言え、彼は各地に引っ張りだこの人気者。現在彼のいるところに数時間後到着したと思えば、次はまた別のところにいるかもしれない。
ヘリオスはその旨をアルタイルに話した。レラブもそれを聞き、電話を入れてみてはどうかと案を出したが、流石に取り合ってくれないだろうとヘリオスは却下した。
すると何故かアルタイルが、レラブの協力に突然感謝をし別れの挨拶を伝えた後、ヘリオスを店の外へと押した。
「えっ、急にどうした」
困りながらもされるがままに店外へとヘリオスは向かった。そろそろ四時半を回る時間だ。まばらではあるが、朝の散歩に出かけている老人や、憂鬱そうに出勤するサラリーマンがチラホラと見受けられる。
その為アルタイルは人目につかない場所に移動しようと言い、遠くに鬱蒼としている雑木林の方へとヘリオスを連れて行った。
「ここなら大丈夫そうだな」
彼は辺りをキョロキョロと見渡した後に一息ついた。
「ちょっとここの人に聞かれちゃまずいような作戦を思いついちまってな」
「と言うと?」
ヘリオスは彼がこんなに真面目な感じになるのは珍しいなと思いながら相槌を打つ。
「あれだ、俺らがあっちに行けないのであれば、あっちから俺らの方に来てもらった方がいいと思ってな。つまり、俺たちの変装を解除して守星であると言うことを知らせるんだ」
「えっ、それは流石に危険す――」
二人は構えた。何故ならヘリオスが「えっ」と言ったと同時に何者かもそう言ったからだ。
「まずい! 聞かれたか!?」
アルタイルは三つの目を今日に動かしながら辺りを見回す。ヘリオスは小回りの利くよう鎌の状態で夜霧を取り出し、辺りを歩いた。
彼らがここまで警戒するのは、決して気のせいではないハッキリとした音を、それも二人同時に聞いたからだ。それに雑木林や野生動物が発することが出来ないような、れっきとした“声”をあの作戦を伝えた後に聞こえたからでもある。こんな偶然あるはずがない。
ヘリオスは何となくで感じた音の発生源へと向かう。そして一段と茂っている藪を鎌で切り裂いた。
「ひゃっ」
そこにはその藪に隠れるように屈んでいた人物がいた。アルタイルは固まっているヘリオスの方向へと歩き、
「何かいたのか?」
と言ってその方向を見た。そして彼も固まった。隠れていたものは恐る恐る彼らの方向を見て引きつった笑顔を浮かべながら、ポツリと一言。
「ハ、ハーイ……」
アルタイルは何故かすぐにヘリオスより後ろの方へと向かい、ボソッと彼に伝えた。
「俺……女性恐怖症なんだよ……あとは頼んだ」
その者は茶色の髪をした女性であり、そして何より目を引くのは銀白色の“鎧”だ。ヘリオスは彼女に尋ねた。
「ダムゼル?」
彼は、いや彼女はそうだと頷いた。彼女は籠のようなものを持っており、その中には山菜などが入っている。
上から話しかけるのは気が引けると感じた彼らは、とりあえず彼女を開けた場所へと連れていった。
「どうしてここに?」
ヘリオスがそう質問すると彼女は、
「朝食の調達に」
と言った。兜が影響していたのか、あの機械的な響きを持つ声とは違い、非常に澄んでいた。
ヘリオスがアルタイルに対して、一応この作戦を聞いたかどうかを確認した方が良いか、と小声で尋ねる。少しの沈黙の後、ヘリオスがその事について単刀直入に聞いた。
「もしかしてあの話を聞いたの?」
ダムゼルはビクッとでも言わんばかりに固まり、首を縦に振った。彼女は少し脅えている様子だった。それもそのはず、一緒に行動していた二人が、敵視していたはずの守星なのだから。オセロに不信感を抱きながらも、やはり心の奥底では彗のことをまだ信用していなかった。
二人は知ってしまった以上、彼女を連れて行くかどうかを相談した。そして結論が出た後、ヘリオスがダムゼルに対して言う。
「俺たちはこれからオセロのもとに行ってくる。俺たちは彗、星々と友好関係を結び、それらを繋ぐ機関としてこのままではダメだからな。既にレラブさんにも、もうじきここを出ると言ってある。そして、恐らくは負けることは無いかもしれないけど、何かあるか分からないから君とはもう同行はできない。君の身分的にもね。だからもう俺たちのことは忘れて」
ダムゼルは俯いている。ヘリオスはアルタイルと顔を見合わせた後、彼女に言った。
「それじゃあ、俺たちはもう行くから。じゃあね」
彼らがレラブの店のある方向へと続く道に向いた後、後ろから声が聞こえた。
「自分も、この立場上彗には何回かお世話になったことあるから、あの人たちがやっぱりこういうことをするとは思えへん。せやからアンタらのこと応援するわ。頑張って」
さっきまでの暗い顔とは裏腹に、彼女は微笑んでいた。お互い手を振り、そして彼らヘリオスとアルタイルはこの雑木林を出た。
「オセロが今いるテレビ局は凡そ分かってる。だからあとはその前で騒ぎを起こすだけだ。心の準備はいいか?」
アルタイルがヘリオスに聞いた。ヘリオスは勿論だと覚悟を決めたように言う。彼らはレラブから貰ったお金を手に、仇のいる場所へと向かうのであった。
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