第45話【黒の傀儡は光を求む】
「私はいつも通り出勤していました。その時はあの黒いモノも無く、ソウリョクソウも当たり前のように路肩に生えていました。……午前十時頃でしょうか。同僚の一人が窓の外を指さして『何かおかしい』と言っていたのです。なのでみんなが一斉に外を見ました。そしたら、外の景色が夜みたいに暗くなっていたんです。遠くの景色も見えないほどでした。空は気持ちのいいぐらい快晴なのに。その同僚は窓を開け外をのぞきこんでいました。私もおかしいと思いましたが、その時の仕事がかなり忙しくて直ぐに机へと戻りました」
すると救助者である彼女は俯き、黙ってしまった。少し震えが再発したようにも見える。
「ゆっくりでええから、深呼吸して」
彼女は言われた通り深呼吸をしたり、水を飲んだりしてなんとか気持ちを落ち着かせた。
「……すいません、続けます。するとその同僚が咳き込み始めたんです。でも彼は生まれつき体が弱くて突然咳き込むのはいつもの事だったんです。近くにいた人も笑いながら彼の背中をさすっていて、私も特に何もしませんでした。でも今回は様子が変だったんです。彼の体からは、特に目や口の中から黒いブツブツができ始めました。みんなも困惑して『なんだこれ』と言いながら離れていきました。咳き込んでいる彼も、痒いと言ってその出来物を触りました。するとそれは触れられた瞬間黒い煙を出したんです。外の物と同じぐらい黒かったです。近くにいた人はそれを吸い込んで彼と同様に咳き込み始めました。私は廊下に近かったので直ぐに離れて下に助けを呼びに行きました。しかし、下の階も……」
ダムゼルは考えながら相槌を打った。
「なるほどな。それともう一つ質問するけど、部屋に篭ってた時になんか聞こえへんかったか?」
彼女はじっくりと思い出しながら話し始める。
「確か、窓ガラスに何かが当たる音が多く聞こえました。あとは、う……」
ダムゼルは、泣き出しそうになっている彼女を宥めながらレラブに言った。
「ちょっとこっちの方で保護する事にするわ。せやから今から部下に電話するし相手してあげて」
ダムゼルは店の外へと行った。
「あっ、おい! ……こりゃ参ったな。あーあの、好きな食べもんとか、あります?」
「大丈夫です」
「あぁ……はい」
その後彼女は無事搬送された。
「ざっくり説明するとこんな感じやな」
ダムゼルは救助者から聞いた話と、あのオフィスビルで見たものをヘリオスとアルタイルに簡潔に説明した。
「触れたら煙を出すってことは、あの黒いモヤがクロクダホコリの胞子なのか」
ヘリオスはメモに書き留めながら言う。
「さっき窓に何かが当たる音が結構聞こえてきたって言ってたろ? それってその粘菌を吸い込んだ人が窓に張り付いてあんな風になったっていうことだよな」
「自分もそう踏んでるわ」
アルタイルの考えにダムゼルもヘリオスも同感だ。しかしそんな行動に彼らは疑問に思っていた。するとヘリオスがある一つのたとえを出した。
「あっそうだ。地球にはハリガネムシっていう寄生虫がいるんだよ。簡単に言ったらそいつはカマキリとか色々な虫に寄生して、成熟したらそいつを水に飛び込ませて水中に産卵するってやつ。そいつは水に反射した光を頼りに飛び込ませるんだけど、なんかそれと似てない?」
厳密には水に反射した光ではなく、水平偏光というものに引き寄せられるのだが、アルタイルとダムゼルはそれに納得していた。しかしヘリオスは自分ではあまり納得していないようだった。その理由はあの巨大なムカデの存在だ。
「でも、その理論ちょっと引っかかってるんだよ。帰る時にでかいムカデいたじゃん?」
いたな、とアルタイルは頷く。
「実はあいつにもあの粘菌みたいなのがついてたんだよ。でもアイツ光の多い出口っていうか草原とは逆の方向に来たじゃん?」
だがアルタイルはそれでも粘菌による走光性に納得していた。
「でもあのムカデってなにかに抵抗しながら進んでたじゃん。それってやっぱり光の方向に行こうとしたけど、俺たちを食いたかったからなんじゃね?」
「そうなのかなぁ」
そう議論していると、ダムゼルがそのムカデについて聞いてきた。
「さっきからムカデ言ってるけどどのムカデや? まさかあの足跡のちゃうやろな」
多分その足跡の主だ、とヘリオスが言うと、ダムゼルは悔しそうに後ろに倒れた。
「うああぁぁぁ、ズルいなあんたら。自分も会いたかったわ」
彼は翼をバタバタとして嘆いている。そこまでして何をするのか、とアルタイルが尋ねた。
「決まってるやん。た……おすんやで」
すると彼は起き上がり、彼らに聞いてきた。
「まさか、殺してないやんな」
「まぁ戦おうとはしたけど、粘菌が拡散したらダメだから逃げてきた」
ヘリオスはそう答える。彼は嬉しそうにした後、この二人が戦えるのかと驚いている様子だった。
そして彼らは風呂に入り、明日に備えて床に着いた。
「明日はムカデ見つけに行くか」
二人は口を揃えて言った。
「遠慮しておく」
[二日目の収穫]
・クロクダホコリと呼ばれる粘菌が覆い尽くしている。
・それは生命に寄生し、宿主の体を蝕む。
└感染した生物に走光性を与えるようだ。
・それはプテリーガ全土に広がっている。
・適応している生物も存在している。
・前のものは砂漠化を引き起こすほどのものだった。
└原因は酸のようだ。
・前にも起きていたものが再発した?
└原因が違うため再発したわけではないようだ。
・なにか関係性はあるのだろうか。
└無さそうに見える。
・あるインフルエンサーが彗が原因だと広めたようだ。
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