第44話【不信と不審】
「ちょっと先行っといてくれへん? 飯食うてくるから」
そう言ってダムゼルは横に曲がって行った。だが、その方向にはこれと言った建物が無い。あるとすれば雑木林のみ。一体どこへ向かうのかと思いながらも、彼らは宿へと向かうことにした。
「俺たちって一応彗に対する不信感の調査っていう目的で来たんだよな。なんかすごい別の問題の解決を頑張ってるけど」
アルタイルは少し不満そうに言う。
「確かにこんな所にいたら原因ってそうそう見つからないよな。でもまぁ、こっち終わらせてからでも間に合うでしょ。とりあえず、今日起きたことをまとめよう」
ヘリオスはベッドに座り、メモを手にしてアルタイルに言った。
異常なまでに繁殖しているソウリョクソウとその特徴、草むらから飛び出していた腕、やたらと強い風、佇むドラゴンと周辺の枯れ草、荒れ狂う巨大なムカデ。ヘリオスがそれらをメモにまとめた後、彼らは黙ってしまった。
暫くの沈黙の後、アルタイルが口を開く。
「なぁ、お前も気づいたかもしれねぇけどよ…… あの草原の下にあるのって、あの街の住民の死体なんじゃねぇか?」
「それ俺も思ってた」
しかし、あるひとつの結論に至っても謎は深まるばかりだった。再びアルタイルが話を始める。
「もう一つ気がついたことがあってな。実はあの粘菌と前に起きた事件、関係ないかもしれねぇ」
「と言うと?」
ヘリオスは組んでいた手を解き、メモとペンを手に取る。
「あの時のは大量絶滅と砂漠化って言ってるだろ? でもソウリョクソウはうるせぇし、森もある。クロクダホコリがあっちこっちにあっても絶滅は起きてるかもしれんが砂漠化なんて一個も起きてねぇ。あの店主も砂漠はあの地域しかないっていってたろ?」
確かにな、とヘリオスは思った。アルタイルは続けて話す。
「それに前、
その時、扉が勢いよく開いた。
「その話、ほんまなんか?」
ダムゼルだ。食事から戻って来ていたらしい。
「えっ、まぁ」
アルタイルは困惑しながらも頷く。するとダムゼルは頭に手を当て、何やらブツブツと言っていた。
「あの大量絶滅は酸が原因? 酸性雨と似たようなものなんか? でもあの所には黒い物体がめっちゃあるってニュースで聞いたし。まさか、あの人がちゃうこと言ってるとか。いや、あの人の言うことに間違いは今まで無かったしなぁ」
「“あの人”っていうのは?」
近くにいたヘリオスがその事について聞いた。
「あぁ、何年か前ににいきなり出てきたインフルエンサーのことやな。その人の言うことは何でも当たってなぁ。テレビにもよう出とるんやで。あの絶滅の件とかも扱ってたわ。でも不思議なことに今起きてる“これ”についての予言は何も言っとらんかったわ。そしたら『俺でも予想できなかった、何故ならこれは彗がした事だからだ。奴らの科学力は底を知れない』って言ってたんや。せやから皆も、そうなんやって信じとる」
――原因見つかったな
二人してそう思った。するとダムゼルがまたブツブツと言い始めた。
「うーん…… アンタら前のと今のは関係ないって言ってたよな。確かに酸も粘菌も関わりないし、第一こんなことする目的もわからん。考えてみればなんか胡散臭くなってきたな」
するとアルタイルがヘリオスの服を少し引っ張り、こちらへと寄せた。そしてコソコソと小声で伝える。
「アイツ、彗への不信感結構揺らいでんじゃね。もしかしたら正体ばれても俺らに協力してもらえるかもな」
すると、ダムゼルは何かを思い出したように、あっと声を漏らした。
「せやせや、アンタらに会ったら言っとこうと思ってたことがあったんや」
ダムゼルはベッドに腰をかけ、ふーっと寛いだ。彼が今から話そうとしていることは、そう、あの救助者が言っていた事だ。
数時間前。彼らは、レラブの店の近くへと着陸した。
「大丈夫か? 見た感じどこも怪我とかはなさそうやな」
少し汚れてはいるが、服にも目立った傷は無い。とりあえず栄養を摂らせるため、店の中へと入ることにした。中は皆働きに出ているのか少し静かだったが、酒の匂いはむせるほどに充満していた。
「えっ、どうしたんや、そのねーちゃん。えらい痩せとるやんか。すぐ適当な飯持ってくるわ」
レラブは急いで店の奥へと入っていった。数分後、彼が持ってきたのは田舎の定食屋のような素朴な料理。味はかなり良さそうだ。彼らは彼女が食べ終わるのを待った。がっつくように掻き込む訳でもなく、食欲がないようにも見えない。ただ黙々と震える手で食器を扱っていた。
食べ終わると、彼女は深々と頭を下げ、ダムゼルにお礼を言った。あの弱々しい声ではなくなり、ハキハキとしている。少し元気が戻ったようだ。
「助けて頂いてありがとうございます。もうあのまま干からびるかと思いました」
「ええんやで別に。元々人助けるんが仕事やしな。で、回復したら聞こうと思ってたんやけど、あそこで何があったんか教えてくれへんか? 今自分は地上の調査をやらされてるし」
そう言ってダムゼルはレラブの方を一瞥する。すると、彼女は暗い顔をして下を向いた。ダムゼルは慌てて、話したくなかったら話さなくてもいい、と伝える。しかし、彼女は話すことにしたようだ。
「いえ、話します。私の見たこと聞いたことが役に立つのなら」
彼女は決心した顔をダムゼル達に向けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます