第12話【初仕事】
「ヘリオスさん、アンタレスさん、あなた達に帰還命令が出されました! なので早急にお願いします!」
カペラだ。彼女は口調からして明らかに焦っている。何かあったのだろうか。
二人はポルックスに連れられて、最初に来た位置と同じ場所に立った。同行した兵たちも待機している。しかしポルックスは戻らずにいた。どうやらポルックスには帰還命令は出ていないらしい。
しばらく立っていると、ここへ来た時と同じように視界が暗転した。しかし二人は一度体験したため、もう驚くことは無かった。
メインホールから通信室に移動すると、黒光りする筋肉を持つ巨漢とシリウス、カペラが話していた。他にもアルタイルやレグルスなどもいる。アズマはその様子を傍観していた。
「何かあったんですか?」
ヘリオスが尋ねた。
「あぁ、おかえり。特にアンタレスには心して聞いて欲しい事なんだ」
「え、それは一体何のこt……」
アンタレスは何かを察した。ヘリオスも何を言うのかは、彼らの焦りから何となく予想出来ていた。
「エクスロテータが進軍を開始した。標的はクリースだ。勿論現在クリースの各国は、国民の避難、防衛の準備を進めている。ポルックスらに残ってもらったのもその為だ」
聞いている最中、アンタレスは沸騰した水のように小刻みに震えていた。
「ア……アイツらはまた同じことを……!」
今までの真面目な雰囲気からは想像できないほど荒れていた。ヘリオスには、彼女の過去に何があったのかは全く分からなかった。しかし心に抜けない毒針が刺さっていたことは、ハッキリと感じられたのだ。
「だが安心してくれ、アンタレス。先にクリースからSOS発信が来た。だから我々はクリースの味方だ。あの時は……アレだったが、今は我々がしっかりと守ることが出来る。だからまずは冷静でいてくれ」
シリウスは必死にアンタレスを宥めていた。
「でも、殺しはダメなんですよね」
「あぁ、我々はあくまで中立。例えそれが極悪人だろうと我々自身にはそれを裁く権利がない。だから堪えて欲しい」
するとシリウスはエクスロテータの世界地図を広げた。形はメルカトル図法に似ている。
「君は直接エクスロテータに向かい、なるべく注意を引いてもらいたい。ここに散光星雲が設置されているから、ここからのスタートとなるだろう。目標地点はここだ。海を隔てているが君なら大丈夫だろう。あと、ヘリオス。君にも向かってもらいたい」
シリウスはヘリオスの方を向きお願いした。彼にとっての初陣である為か、かなり真剣な顔だ。
ヘリオスはここでの仕事を舐めていた。彼の思っている以上に事はかなり深刻なようだ。しかし募る不安に圧迫されていては進むことは出来ない。彼は決心し、
「……やります」
するとシリウスは彼の後ろに回り込み肩を軽く叩いた。
「最初は不安なのは当たり前だ。だが、そう決心できるのはかなり素晴らしい。その精神、誇ってもいいよ」
シリウスは再び地図を広げたデスクの元へと向かい、ある一点を指した。
「私とポルックスはこの砂漠で彼らを誘導し迎え撃つ予定だ。その作戦にはアルタイルにも協力してもらうよ」
アルタイルは嫌そうな顔をしている。だが、シリウスがここからでなくてもいい仕事だと伝えると、少し嬉しそうな顔をした。
そしてヘリオス、アンタレス、シリウスの三人はメインホールへと向かった。まだ何も言っていないのに、廊下へと通じる扉からゾロゾロと兵が集まってきている。ざっと見て数百人は下らないだろう。医療班っぽい人も紛れている。
シリウスが兵を分配したが、ほとんどが彼の方へと向かった。シリウスの班は迎撃の為だ、仕方がない。だが、ヘリオスにとってはこの人数で大丈夫なのだろうかと、心配が勝っていた。
「じゃあ二人とも、健闘を祈るよ」
シリウスは、ヘリオス達がポルックスと共にクリースに行った時のように転送された。
「これの使い方はわかるので任せてください」
そう言ってアンタレスは壁を押す。すると、壁が展開し中に銀河の模型のようなものが入っているのが見えた。彼女はその中の“Sirius system”と書かれたボタンを押した。
彼女がボタンを押すや否や、さっきまでクリースが映し出されていた空間に、別の惑星のホログラムが現れた。
「これがエクスロテータです。行きましょう。今度は僕たちが命乞いをさせる番です。皆さん、準備はいいですか?」
すると後ろにいた兵たちが雄叫びを上げた。アンタレスは転送のボタンを押し、彼らを連れてエクスロテータの散光星雲へと移した。
視界の暗転が開けた後に目を開けるとヘリオス一行は、夜天を天井とした廃墟に佇んでいた。
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