第13話【破壊された散光星雲】

「ここは……散光星雲? 無事だったはずじゃ」


 それは何者かに爆破されたように、辺りに瓦礫が散乱し煤もそこら中に付着していた。更に不気味な程に綺麗な丸が、不規則に空けられている。

 吹き抜けた天井からは雨が降り注いでおり、ヘリオスにはそれがまるで銀行が泣いているように感じた。同行してきた兵も、こりゃひでぇな、と呟いている。


「かなり深い穴ですね。途中で曲がったりもしてます」


 アンタレスが穴の中を覗いている。ヘリオスはどんなものなのか気になったため、穴の元へと寄った。しかしそれは果てしない闇だった。


「よく見えるね。俺は何も見えん」


「えぇまぁ。僕たち単眼族は眼が発達しているので」


 ヘリオスは何かが這い出てくるような、そんな不穏な雰囲気を醸し出す穴に寒気を感じ、傍を離れた。

 ヘリオスは廃墟となった散光星雲の中を探索したが、特にめぼしい手がかりや、他の特徴的な痕跡は見当たらなかった。

 あるとすれば金属製の分厚そうな扉ぐらいだ。多分金庫への入口だから何も無いだろう、とヘリオスは思っていたため触れなかった。荒らされたのか、破壊され立て付けが悪くなったのか、扉も若干開いている。


「外も探索してみる?」


 じーっ、と穴の中を見つめるアンタレスに声をかけた。


「いえ、僕はもう少しこれを調査するので先に行っててください」


 何かいるのか?と思いながら外に出ようとしたその時、金属製の扉が開いた。


「ダメです! 出ちゃダメ! あーちょっと引っばらないで」


 奥から出てきたのは、白い髭を生やした中年の男性だった。身なりもいい。同行していた兵は銃口を向け威嚇した。


「ちょっとちょっと、怪しいものじゃないですって。ひとまず中に入ってください。今出ては"奴ら"に見つかってしまいます。あなた方は守星の方々ですよね?」


 ヘリオスは、えぇ、とだけ呟いた。アンタレスは一瞥しただけで、引き続き穴の中を眺めていた。


「ますますダメです! 早く中へ。話はそれからです」


 男は必死に訴えかけている。なのでヘリオスは彼の言葉に従うことにした。穴の傍から離れないアンタレスを説得しながら。


 扉の向こうは本当に金庫だった。そしてかなり広い。しかし貯蔵されているものは書類などではなく、食料や水、生活用品などだ。全員が中に入ると扉は重々しく閉まった。


「申し遅れました。私はディックというものです。ここ、スニィシュ自治国に住んでいたのですが、ついさっき、ほんとに数分前に政府の奴らが大量破壊機械やら監視用ロボットやらをここに送り込んで来たんです。それでこの有様で……」


 マジすか……とヘリオスはボソッと言った。そして二人も軽く自己紹介をした。兵たちは銃や装備を、金庫の空いているスペースに置いている。

 金庫の奥を見ると、ディックの他にも数人の生き残りがいるようだ。中には小さい子供もおり、毛布にくるまれ震えている。そして皆、シリウスと同じく指が六本あった。


「ちなみになんで金庫にこういった非常時の道具が?」


 ヘリオスは質問した。彼は一度も銀行の金庫に入ったことがないため、どういうものなのか分かっていない。しかし普通のものとは明らかにおかしいことには気づいていた。


「あぁ、それなら僕が説明しますよ。散光星雲は普通の銀行とは違って避難場所としても使えるんです。例えばこんな風に金庫をシェルターとして使えたり、生活用品が備蓄されていたり。でも中のお金に関するものは別の場所に移送されちゃいますが」


 ふぅん、とヘリオスは納得した。するとディックが恐る恐るアンタレスに質問をしてきた。


「あのー、ちょっといいですか?どうして貴方はあの穴をお調べに?」


「あ、それ俺も思ってた」


 ヘリオスも質問に乗ってきた。不自然なまでに拘っていたのだ。何かしら理由があるのだろうと、ヘリオスは踏んでいる。


「実はこの散光星雲の建物は――」


 アンタレスが話し始めた直後、突然鈍い揺れが襲ってきた。しかし五秒ほど経つと収まった。


「ふぅ、収まりましたか。続けますと、さっき言った通り、ここは避難場所も兼ねてて、そのためちょっとやそっとどころか、さっきのように地震が襲ってきてもビクともしないんですよ。なのに穴が、しかもあんなに綺麗に空くなんて到底考えられない事態なんです。爆弾は、まぁ強力なものを使えばあの様に壁ぐらいは破壊できるんですが。ディックさん、ここに来る時何か見ましたか?」


 確かにあの穴の周辺は亀裂さえ入っていない、ウォータージェットでくり抜いたかのように滑らかな断面をしていた。


「申し訳ありませんが、爆破された時に立った煙が晴れた時には既に空いていたので何も…… しかし心当たりはあります」


 ディックは真っ直ぐ二人を見つめて言った。


「C3-捕食者ラトルです」


 アンタレスは愕然としていた。


「ラ……ラトルってあの?」


 彼女はわなわなと震えながら聞いた。ポカンとしているヘリオスを見て、ディックは説明を続ける。


「えぇ、あのラトルです。ヘリオスさんに一応説明しておきますと、C3-捕食者ラトルっていうのはエクスロテータの開発したロボットのひとつで、非常に発達した消化能力を持っています。ロボットのくせに。その能力を使って地中を潜行出来るので、恐らくさっき地震も奴によるものでしょう」


「でも! ラトルはたった数分で居なくなったり、あんな綺麗に穴を空けたり――」


 ディックが、混乱するアンタレスの肩にポンと手を置き言った。


「アンタレスさん。文明は進化するんですよ。あなたが想像しているであろうラトルはもう……数十年前のものです」

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