第11話【蟷螂の斧】

「お、おい、兄貴。やっぱりやめようぜ。ここアイツらの管理する場所だからよ……万が一でも守星いたら――」


 気弱そうな一人が先頭にいる人物に話しかけている。しかし食い気味に言い返された。


「うるせぇ! これだから新参はわかってねぇなぁ。だからこそボスに命令されたんだ」


 兄貴と呼ばれる人物は路地の影から銀行を見ていた。彼が合図をすると、奥から更にゾロゾロと黒い服に身を包んだ者たちが出てきた。

 全員単眼だ。恐らくこの付近の強盗集団だろう。


「うぅ〜。成功すれば俺たちゃ億万長者だぞ!」


 その中の一人が酷く興奮していた。しかし、相変わらずあの“気弱”はビビっており、一番最後尾に行ってしまった。手に持った小さなナイフをガタガタと震わせている。


「見た感じ今は通行人が少ないな。何があったか分からねぇがチャンスだ。お前ら、俺が合図したら乗り込むぞ。準備はいいな!」


 "気弱"以外は、おう! と声を上げた。


「うるせぇ! バレたらどうする!」


 日が少し傾いてきた頃、道行く人々が更にまばらになってきた。


「よし。行くぞ!」


 路地から黒ずくめの集団が溢れ出す。彼らはナイフや銃を携えながら、一直線に銀行に向かい乗り込んだ。


「動くな! 手ェ上げろ! いの、ちが、惜しけりゃ……」


 “兄貴”の声が徐々に弱くなっていく。それもそのはず。目の前にはポルックスがいたのだ。


「なんだ貴様ら。我々に何か用なのか? 強盗とは言うまいな」


 ポルックスは冷静に仕事を続けていた。流石と言ったところだろうか。

 そんな中、付き添いの護衛の兵がでてきた。彼らは銃口を強盗達に向け威嚇する。一部の兵は一般客を避難させていた。


「ああああ、クソッ! どうにでもなりやがれ!」


 “兄貴”が果敢にも彼らに突っ込んできた。それに続き他の連中も走ってきた。一人気弱を除いて。


「何ッ! コイツら」


 あまりの威勢に兵は少し慄いた。彼らが銃口を足か胴かで迷っていた時、突如“兄貴”がその場に倒れた。足を押えており、その足からはダラダラと血が流れていた。


「貴様らは下がって作業を手伝っておけ」


 いつの間にかポルックスが兵の前に出ていた。彼の手首の付け根からは細い爪のようなものが飛び出しており、それに付いた血を拭っていた。中心がくり抜かれたデザインをしており、剣の形をした輪のようになっている。


「あまり動くな。血圧が上がって出血しやすくなる」


 “兄貴”を傷つけられたことにより怒った強盗達が、次々とポルックスに襲いかかる。が、それをただ流れ作業かのように刺して行った。しかし刺す位置は、腕や足などの急所では無い所。


 向かってくる者を処理した後、ポルックスは玄関付近で腰を抜かして唖然としている“気弱”の所へ向かった。


「さっさと救助を呼べ。でなければ我が責任を問われるのだ。さぁ早く!」


 動揺する彼にポルックスは怒鳴りつける。さっきまでヘナヘナと座り込んでいたとは思えないほど背筋を伸ばし、電話を探しに飛び出した。

 ポルックスは横たわる強盗達を冷ややかに見下ろしていた。


 日が落ち、星が顔を出し始めた頃、ヘリオスとアンタレスが帰ってきた。救急車とパトカーが銀行の方向から多数行ったり来たりしていた為、疑問に思ったのだろう。


「ただ今戻りました〜。今はどういう状況ですか?」


 アンタレスが警察の一人に質問をした。多数の黒ずくめの人物が担架に乗せられ、銀行から出てきている。玄関前ではポルックスと健康そうな黒ずくめが警察に事情聴取を受けていた。そんな状況、不思議に思わないはずがない。


「ん? あぁ。散光星雲に強盗が入ってね。その彼らがたまたま居合わせた守星さんに鎮圧されたんだよ」


 二人は、あの人ならこんな状況にするだろうな、と思っていた。彼らが散光星雲に到着すると、警察に声をかけられた。


「守星の方々ですね。どうぞこちらへ」


 中へと案内された二人はポルックスの元へと向かう。


「なんだ貴様らか。道中こいつらを見なかったか?」


 ポルックスは救急車から見える強盗達を指さした。勿論二人は見ていない。なので首を横に振った。


「この二人ってもしかしてポルックス“さん”のお仲間さんですか?」


 “気弱”がこちらに気がついた。彼はポルックスのことをさん付けしていた為、二人は少し引いていた。どこに尊敬できる箇所があるのだろうか、と思いながら。

 なのでヘリオスは、まぁそんな感じの、と少し濁して答える。


 しばらく談笑(ポルックスは一度も笑うことは無かったが)したあと、“気弱は”一応共犯であるため警察に連行されることとなった。


「まぁ彼は目撃情報などから判断して釈放されるでしょうね」


 アンタレスは、建物を赤く照らしながら去ってゆくパトカーを見つめながら言った。郷に入っては郷に従え、ヘリオスはここの法律については知らないが、そうなることを願っていた。関わりは無いが、一見すると犯罪に手を染めるようには見えなかったのだから。

 すると突然、三人の頭の中に誰かが焦ったような声が鳴り響いた。

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