第5話【急襲】
「アルタイルさんのところのソーサイスという武器らしいです。俺はこの武器に決めました」
ヘリオスは肩に担いでいる、その二メートルの巨大な金属の棒を眺めながら答えた。
「そ、そうか。よかったな」
シリウスは、その見下ろすソーサイスに圧倒されたか、少し後ずさった。
「気を取り直して、と。これから製造部門のレグルスのところに行くんだが、残念ながら今回も君一人で行ってもらうことになるかなぁ。理由はー、まぁ入ってみたらわかるさ。私は外で待ってるから、何かあったら呼んでくれ」
シリウスは倉庫を出ると、壁にもたれかかり待機の姿勢をとった。倉庫の扉はヒュン、と低い音を立てながら閉じた。アルタイルの言っていた通り、倉庫のの正面に「製造」というプレートが横に書いている扉があった。
小難しいタイプの人なのかな、とヘリオスは思い、気を引き締めて部屋へと入る。すると、まるで真夏に暖房をガンガンにつけているかのような、すさまじい熱気にあおられた。
カンカンと金属を打つ音があたりに激しく鳴り響いている。押し寄せる熱波と轟音に耐えながら前に進もうとした途端、
「ああああ!ちょっとストップストップ!それ以上は入っちゃダメ!」
奥の方から声が聞こえてきた。しかし、視界がぼやけるせいで誰かは見えなかった。チラッと下を見ると黄色い線で四角が描かれていた。範囲は大人一人分ぐらいしかない。
「皆一回休憩入っていいよー! ちょっと待ってね、今そっち行くから」
向かってきたのは、黒い作業服を着た褐色の女性だった。そして何がとは言わないが、大きかった。奥に揺らめく炎の影響か、少し赤く見える髪をポニーテールにしている。シリウスよりも淡く青みがかった白い目をしており、四白眼であった。
「やぁやぁ、君が新しく入ってきたっていうヘリオス?初めましてー! 私はここで製造を担当しているレグルスって言うんだ。よろしくー! おっ、握手する?」
手を差し出したヘリオスに対し、レグルスは握手を試みた。しかしヘリオスは、ヒッと声を出して手を引っ込めてしまった。驚くのも当然であろう、レグルスは腕が4本あったのだ。
「やっぱりそうなるよねぇ。私以外みんな2本腕だから仕方ないと思ってるよ。でも大丈夫! あいつよりは気持ち悪くないから」
ヘリオスは、あいつ?と思いながら恐る恐るレグルスと握手を交わした。ゴツゴツした手を予想していたが、そうでも無い。むしろ柔らかかった。
「それをベースに作って欲しいのかな?」
レグルスは腰に手を当てながら、ソーサイスを見上げていた。威圧するかのような金属の塊に、レグルスは臆することは無かった。このような武器は見慣れているのだろうか、そう思いながらハイと言い、レグルスに渡す。
「お、案外軽い。じゃあこれを借りていくから待ってて」
そう言ってレグルスは自分の作業場であろう方向へと、陽炎の中に消えていった。去り際、
「それにしても面白い武器だなぁ。変形でもするのかな」
と言っていた。興味自体はあるようだ。
部屋を出ると、シリウスは窓の外のある一点を凝視しながら待っていた。
「お、出てきた。どうだった? めちゃくちゃ暑かっただろ。あの黄色い線は安全地帯らしくて、あそこを出ると発火するらしいんだ」
シリウスは怖がらせるように話している。ヘリオスはもう少しで線から出るところだったため、危なかったと胸をなでおろした。すると、シリウスはパンッと1度手を叩き、
「よし。大体案内できるところはしたから、今日はもう休んでいいよ。役割と才器は明日に渡されると思うから。とりあえず今は休憩室にいるといいかな。じゃっ、おやすみ」
と言いシリウスはどこかへと消えてしまった。ヘリオスはサラッと言われた"明日"の定義が分からぬまま休憩室を探し始める。
「休憩室は確かここら辺で見たな」
ヘリオスがここに来た時に、応接室付近でそれっぽいものが見えたため、その方向へと向かっていった。休憩室の扉は応接室の右斜め前に二つあったため、ヘリオスは手前の扉へと入っていった。
休憩室はかなり広く、食堂のような作りとなっていた。床から生えているかのごとく、脚と床が結合した質素なテーブルが立ち並んでいる。そのテーブルに対して、二対の背もたれがついた普通の椅子が眠っているかのようにひっそりと佇んでいた。
調理場と思しきカウンターは営業時間が過ぎたのか、シャッターが閉まっている。
「食堂……か? もしかして間違えたのかな」
ヘリオスは来た扉を引き返し、もうひとつの扉へと入った。さっきの部屋と比べるとかなり狭い部屋だった。そこには二つのソファが気まずそうに向かい合って設置されていた。
部屋の奥には自動販売機のようなものが設置されており、そのにはH2という文字が書かれているだけだった。
「水素? ――!?」
突如としてヘリオスに強い目眩と息苦しさが襲った。熱中症と似たような感覚であったが、それよりも強力であり、ソファーに座り込み動けなくなってしまった。
朧気な意識の中、僅かに聞こえる耳に誰かの話し声が聞こえ、ぼやける視界に二つの人影が映りこんだ。
「お――すぎ――」
「――ないだろ――み――えるか? ――にいちゃ――! だから」
ヘリオスにはボソボソとしか聞こえなかった。しかし何かが勢いよく壁に突き刺さる甲高い音だけははっきりと聞こえた。
「――くそ! ――だ――かえすぞ」
人影が視界から消えたと同時に、バンッと扉が開く音が部屋に鳴り響いた。
「エク――! ――にげ――きみ――ほど」
白いパーカーのようなものを着た人物が、ヘリオスのもとに近づいてきた。そしてその人物がオレンジ色の棒状のものをヘリオスの太腿に突き刺すと、ヘリオスの意識はすぐに回復した。
「……ッ!俺は一体」
「お、気が付きましたか?」
混乱するヘリオスの前に立っていたのは、上記の通り前開けをした白いジップアップパーカーを着る、二十代程の女性であった。髪は短く鮮やかな赤色で、何より特徴的なのは赤い単眼であった。
「大丈夫でしたか? どうやら先程いた連中の手によって、水素欠乏にされたようです。僕達守星は水素を活動の源としていまして、この辺りにその水素をエネルギーに変える核があるんです。それが僕達の急所なんですよ。炉心核みたいなものです。原理はよく分かってなくてですね、シリウスさん曰く"よしよし連鎖反応"っていうものだったような……」
彼女は、核の位置している自らの胸の中心を軽く叩いて言った後、その"よしよし連鎖反応"とやらについて深く考え始めた。しかし彼女は何も得ないままその話題を打ち消した。
「いえ、そんなことはどうでもいいですね。で、恐らくあなたを襲ったのはエクスロテータでしょう、最近活発化していますし。今は応急処置をした程度ですので、そこの機械からエネルギーを摂取してから休んでいてください」
と、マニュアル通りの行動をしているように彼女はサラッと説明をして扉の方へと向かった。
「ま、待って。君は?」
ヘリオスは彼女を引き止めた。ある意味命の恩人であるから、名前ぐらいは知っておきたいのであろう。どうせまた会えるのに。
「僕ですか?僕はアンタレスって言います。ここの護衛担当であり、貴方の同期でもあります。数十年差はありますが」
そう言ってアンタレスは部屋を出た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます