第6話【才器の完成】

 恐らくさっきの飛んできたものが開けたものだろう。その扉の穴からすきま風が入ってきていた。冷静さを取り戻したヘリオスは、アンタレスが言っていたものであろう機械の元へと近寄った。


「水素……か」


 太陽を取り込んだからか?と、ヘリオスは少しハテナマークを頭に浮かべながらも納得した。太陽などの恒星は水素を主成分とし、それを核融合させることで輝いている。

 黒光りする機械は青とオレンジのボタンが一つずつと、青色で書かれたH2という文字が印刷されている。非常に質素なものだ。


 ――絶対これだろうな


 ヘリオスが青色のボタンを押すと、文字の下辺りからゴンッと何かが落ちる音がした。音の方向を見ると小さな扉が開いており、青い飴玉のようなものが一つ転がっていた。

 訝しみながらもそれを口に放り込む。味は無く、どことなく冷たい。


 ――うーん…… ずっと口に入れてるのも不快だなぁ。噛み砕いて飲み込んでおくか


 鉄球を口に含んでいる感覚がする上、吐き出すのもいたたまれないのだろう。奥歯に挟み力を込めて砕いた瞬間、太い針金を脊髄に入れられたかのような、冷たい感覚が背中を走った。


「イッ……!」


 暫くしてあの感覚が無くなると、ヘリオスは首をさすりながら座り込んだ。さっきどころか、来た時よりも意識がはっきりとしていた。まるで眠い時にミントガムを食べた時のように。

 オレンジ色のボタンを押すと、下の隙間から棒が落ちてきた。


 ――これがあの応急処置のやつか


 そう思いながらヘリオスはもう二回ほど押し、それをベルトにぶら下げた。飴玉も同様にポケットに入れ、念の為携帯することにしたようだ。


 暫くボーッと夜が明ける(?)のを待っていると、外から大勢の足音が近づいてきた。話し声も聞こえる。こっそり扉を開けて外を覗いてみると、そこには翼の生えた者やトカゲのような者など、恐らく数百人ほどの様々な種族が、隣の食堂に吸い込まれていく様子が垣間見えた。

 その中に何やら見覚えのある人物もいる。シリウスだ。


「襲われたそうじゃないか。大丈夫か?」


「えぇまぁ何とか」


 シリウスは機械から飴玉を取り出し、向かいのソファーに座った。初日ではずっとニコニコとしていたシリウスだが、何やら今回は深刻そうな顔をしている。ヘリオスを心配しているから、という訳でもないようだ。


「エクスロテータという星が活発化しているのは知っているか?」


 シリウスは飴玉を見つめながら指で回していた。明らかに暗い。


「アンタレスという人から少し」


「そうか。まぁそのエクスロテータなんだが。近々どこかと戦争をするのではないかと噂になっていてね」


 ヘリオスは唖然とした。ここでの生活が始まって早々、戦争が始まるとは誰が想像しただろうか。


「で、その戦争に我々が介入することになった場合、君が駆り出させるかもしれないんだよ」


「……え。お、俺がですか?」


 驚くのも無理は無い。最初はもっとほのぼのとした生活になるとヘリオスは予想していたが、ここはあくまでも軍隊、そう甘い世界ではないようだ。シリウスは持っていた飴玉を口の中に放り込んだ。


「私もなるべく君は出したくない。しかし、"もしも"ということがあるんだ。皆常に暇ではないから出動できない時があるし、君は来たばかりだから顔が割れていないから潜入もしやすい。だから、今から君の戦闘スキルを測ろうと思うんだ。多分もうそろそろ君の才器もできる頃だろうし。さ、着いておいで」


 シリウスに促され、ヘリオスは休憩室を出た。まずは鍛冶場に行き、ヘリオス専用の才器を受け取りに行った。相変わらず1人だけだ。


「お、ヘリオスー!ちょうどいいね。じゃあそれ持ってきて。ダーメ、それはヘリオスのものなんだから。出来がよくて手放したくないのはわかるけど。ほら、わがまま言わない」


 霞でぼんやりとしか見えないが、奥の方で弟子というか部下というか、そのような人物と揉めているようだ。その人物は大事そうに抱いて離していない。

 暫くしてレグルスがヘリオスの元へとやってきた。説得に成功したようだ。


「ごめんごめん。あの子にとっては最高傑作みたいで。」


 ソーサイスの刀身は相変わらず鉄板のように厚く太いものだったが、木の葉のような楕円模様の穴が開けられた箇所が幾つかある。そのため重苦しさを感じながらもどこか爽やかさがあった。


「またそのデザインか。ほぼ皆の才器穴だらけだよ」


「イージャン別に。それもここの伝統よ」


 シリウスは少し呆れた様子であったが、ヘリオス的には非常に満足だった。


「あ、そうそう。それの能力なんだけど……扱い切れるかな」


 レグルスは不安そうに続けた。


「それには沸点と融点が決まって無いの。簡単に言うと自由に気体液体固体に変えられるって言うもので……」


「そうなのか。今から戦闘スキルを測る予定なんだけど、場合によっては暫く預けることになるかもな。気体のままどこかに行ってしまっては困るし」


 二人はヘリオスに視線を向けた。使いようによっては強いと考えられるが、少しミスをすれば失ってしまう。そのような物を、まだ浅いヘリオスに扱えるだろうか。二人はそう思っている顔であった。しかしヘリオスにはある考えがあった。


「あのー、アズマさんが言うには俺は引力操作O.グラビテーションっていう能力らしいんですよ。だからまだよく分かってないんですけど俺的には行けるんじゃないかなーって」


 あー、と声を上げシリウスとレグルスは見つめあった。そして二人は、ヘリオスの近くから少し離れて相談しあった。


「アズマさんが言うから間違いないと思うけどどうする」


「“引力“の範疇によるな。粒子間までの可能性もあるし、物体同士までの可能性もある」


「でも例え粒子間でも最初に使わせるのはマズイね、流石に」


「よし、最初は能力の把握からさせよう」


 二人はヘリオスの元に戻ってきて言った。


「能力を持っていたとしても最初から使える訳では無い。だから才器を扱うのはまだお預けだ」


「あー、まぁわかりました」


 シリウスがこっちに寄越すように合図したため、ヘリオスは渋々ソーサイスを渡した。シリウスは着いてきて、と言ってメインホールの方向へと進んだ。

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