第3話【通信機】

 三つの銀河が映し出されたこの空間でヘリオスは一人唖然としていた。

 シリウスは少し待ってて、とヘリオスに伝え彼女のもとへと向かった。口を開け周囲を見渡すヘリオスのもとへ、暗闇から誰かが近づいてきた。


「やぁ、ヘリオス君。どうやら成功したようだね」


 ヘリオスはその一言でアズマに気がついた。声のする方向に向くと、アズマがポケットに手を入れながら彼に微笑んでいた。鮮やかな髪色を除いて、ほぼ黒いため気が付かなかったようだ。


「あの手続きは一種の試練でもあってね。あそこでリタイアするものもかなりいる」


 アズマは感心したように腕を組んでいた。が、アズマはおもむろに手を口の前へと持っていき、少し何かを考えているようだ。目線もヘリオスの後ろの方を向いている。


「ふむ」


 アズマは一言呟いた。心做しか、睨んでいるように見えたため、ヘリオスはアズマと後ろを交互に見ていた。


「ん?嗚呼、すまない。こっちの事だ。それで君の能力のことなんだが、どうやら“引力操作O.グラビテーション”というものらしい」


「O.グラビテーション?」


 ヘリオスは聞き返した。


「嗚呼、そうだ。その能力は物体と物体を引き寄せたり、引き離したりするものらしい。そして使い方なんだが……もうすぐ帰ってくるな。よし、この話はシリウスに任せよう。彼は優秀だ。いつでも頼るといい」


 そういいアズマは扉の奥へと消えていった。すると、誰かの足音がこちらに向かってくるのが聞こえた。


「お待たせ。ちなみにこの子がカペラね」


 シリウスの横には、眼鏡をかけたボブの髪型をしている女性だった。


「カペラです。よろしくお願いします。ヘリオスさん」


「こちらこそよろしくお願いします」


 二人は軽くお辞儀をした。

 なんとカペラはシリウスとは違い、地球人と瓜二つの見た目をしていた。


 ――まぁ、宇宙だし。似てることもあるよな。


 ヘリオスは一切不気味に感じることなる納得した。“宇宙だし”、この一言で如何なる超常現象も解決してしまいそうだ。

 カペラはまだ仕事が残っているため持ち場に戻った。するとシリウスの手からなにやら脊髄注射程の大きさをした注射器が現れた。


「えっ、そ、それって?」


 いきなり出てきた上、無駄に威圧感を放つその注射器にヘリオスは困惑した。そして、痛そうだなと顔をしかめていた。


「あぁこれかい? 私たちはこの通信機を注入することで、ここと中継して通信ができるようになるんだ。でもまぁ注射は痛いから嫌がるのも無理はないよねぇ。でも安心していいよ。我々は痛みを感じない体だからね」


 ヘリオスはつい、えっ、と言葉を出してしまうほど驚いた。生前、痛みなんてなければいいのにとつくづく思っていたから少し喜んでいた。しかし不満はまだある。


「でもなんで頭なんですか?なんかすごい違和感感じるんですけど」


 当然のごとく頭に刺そうとするシリウスに対して言った。注射は大体腕に刺すもののため違和感を感じるのは当然だろう。


「ん?別に手に刺してもいいんだよ?でもそれだといちいち手に向かってしゃべらないといけなくなるけど」


 シリウスはそのシュールな姿を想像したのか、少し笑いながら答えた。


「ささっ、これをつけて早く次のところに行こう。ここの名物“才器さいき”が君を待ってる。あ、使い方は連絡したい相手の名前を言えば勝手に繋がるからね」


 シリウスはおよそ五秒ほどで装置を入れるのを終わらせ、ヘリオスの手を引っ張り通信室からそそくさと出た。

 ヘリオスは、あの注射器を刺されても何の痛みを感じていなかった。しかし不快な感覚と妙な脱力感に襲われていたが、シリウスに手を引かれたため倒れることなく走ることができたようだ。


 しかし突然シリウスが立ち止まったため、ヘリオスは勢いよく転んでしまった。


「おっとすまん、大丈夫か?立てたら少し見てて」


 なんで宇宙空間なのに重力があるんだ、と呟きながらゆっくりと立ち上がった。すでに脱力感はなくなっていたが起き上がるのにすこし苦労した。

 なぜなら床に近いほど体が重く感じたからだ。いや、重くなるというより引っ張られるといったほうが近いのかもしれない。そんな感覚をヘリオスは感じていた。


「えっと、今から何をするんですか?ただの壁の前に立ち止まって」


 そこには無機質な壁が立ち尽くしているだけ、それどころか少し右に視線を向ければ万華鏡のごとき星々が映し出されていた。


「ただの壁? 違うね。ここは倉庫の入り口だよ。瞬きするなよ。開くのは一瞬だから」


 そう言うとシリウスはポケットから空色をしたカードを取り出し、壁にトンッとあてた。するとその位置を中心とした紺色に光る円が出現した。

 下がって、とシリウスに言われたためヘリオスは一歩下がり、シリウスも同様に一歩下がった。すると円周から六本の紺色の線が伸び正六角形を形成した。

 その直後、六つの三角形に分かれ、それぞれが扇子のように畳まれ壁に収納された。


「どうだ面白いだろ」


 そう言いながらシリウスはその扉から延びる通路へ入っていく。


「もしかしてこれって敵に見つかりにくくするためのギミックですか?」


 カードキーで開ける。他とは違う扉をしている。完全にヘリオスはそうだと思い込んでいた。


「まぁ三割ぐらいは」


 ヘリオスは逆に三割はあるのか、と思った。


「実際外からは構造が丸見えだからね」


「じゃあ残りの七割っていうのは」


 あぁそれは、とシリウスが言い出した途端、どこからともなく声が聞こえてきた。


「おーう、なんか用事でもあんのかシリウス」


 廊下の左にある‘’エクスロテータ”というプレートが横に付いた扉から出てきたのは、ぼさぼさの純白の髪したジト目の小さな男の子のようだった。

 およそ背丈は一メートルほどだろうか。紺色のジャージのような恰好をしており、袖は異様に長く針金でも入っているのか途中で折れ曲がり、袖口に向かってピンと張っていた。前髪で隠れて見えづらいが、目が三つあるようだ。


「アルタイルー。横着せずにいるなら出てこい」


「ここにいるだろーがっ!」


 周囲を見渡すシリウスに袖による右フックがさく裂した。音的に本物の針金だろう。

 シリウスは右頬をさすりながら、


「紹介するとこのちっこいのが――」


「ちっこい言うな」


「――ここの倉庫番をしているアルタイルだ。ちなみにあの扉の七割はこいつの趣味のことだよ」


「別にいいだろそれぐらい」


 アルタイルは不服そうに立っていた。


「ちなみにこの子が八人目のヘリオスだよ」


 ふーん、と言いながら三つの目を器用に動かしながらまじまじとヘリオスを眺めていた。


「で、まぁここに来た理由なんだが、ヘリオスの才器の型を探しにきたんだよ。ここは君のほうが詳しいから案内してやってくれ。私は先にレグルスに依頼してくる」


 そう言ってシリウスは倉庫から出て行った。


「ここはいろいろな惑星から譲り受けたものとか、没収したものとか、交易の対価に使うものとか、まぁいろんなものがそろってる。お前の出身はどこだ?そのブースに案内してやる」


 腕をを左右に広げながら言った。見た目のわりに偉そうだな、と内心思いながら、地球です、と答えた。


「チキュー……チキューか。テッセリスとかパロモイオスとかと同じ感じか。よし、チキューはこことまだ関係がないからブースがない。だから適当なところに案内してやろう。ついて来い!」


 ヘリオスは不安に思いながらもアルタイルについていくことにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る