第24話 部署決め

 体育祭の企画、運営にあたり幾つかの部署が制定されている。

 広報部、備品管理部、会計部、その他エトセトラ。取り立ててこだわりはなかったので、会話の流れを読みながら俺は何処かに所属するつもりだった。


 現在、人が足りていなさそうなのは広報部だ。

 それこそポスター貼りや看板、地域住民への交付等が業務である。一般公開されている我が校の体育祭は、去年もそれなりに賑わっていたと思う。

 

 部署決めは友人と話し合って決めてよいとのことだ。

 その指示あってか、複数人で同じ部署を立候補する生徒が多かった。

 かくいう俺も話し合いに巻き込まれている。


「てきとーに広報部でよくないっすか」

「……私は真にいと同じ部署ならそれでいいわ。ね?」

「俺はどこだって構わない。……なら広報部にするか」


 ただし原則のルールとして、各クラスの実行委員はふたり共に同じ部署にする必要がある。複数人での同時参加はありだが、相方の意見も重要ということ。

 これは統率を取りやすくするための処置だそうだ。


 確かに各クラスの実行委員がバラバラに所属してしまえば、今後の運営が円滑に回らなくなる可能性が増えるか。俺は楠木に意見を問うてみた。


「楠木はどうだ、広報部でも大丈夫か?」

「あたしもどこでもいいかな~、碓井に任せるよ」

「あい、りょーかい。じゃあ広報部ってことで」


 楠木は手をひらひらさせながら了承を口にした。

 正直部署説明を聞いた感じは、最も楽なのは備品管理であり、最も大変なのは広報部だと予想している。それを体現するかのように備品管理部担当の生徒会役員前には人だかりができていた。かたや広報部はガラガラという様相だった。


 俺は立ち上がり、前の方に進む。


「あ、広報部所属希望で。メンバーが――」


 そうして、広報部担当の生徒会役員に所属希望者の名前を伝えていると、不意に隣から声を掛けられた。なんともまあ、相手は――珍しい人物。


「お話し中、失礼するわ。ちょっといいかしら?」

「あ、会長お疲れ様です。どうぞどうぞ!」


 思わず一歩下がってしまった。眼前には濃い濡羽色の髪。

 どこか威圧的な鋭利な瞳。姫乃百合が無表情を貼り付けて立っていた。

 日向に笑顔を向けていた時と同一人物とは到底思えなかった。


「碓井君よね。こうして直接話すのは久しぶりだと思うけれど」

「そう、っすね。日向を介して話すことはちょくちょくありましたけど」

「……なぜ、貴方がここにいるの?」


 ストレートすぎる質問にたじろいだ。本来の性格はこれだ。

 誰も寄せ付けない孤独な一匹狼。優秀過ぎるが故に理解されない。

 感情の読み取れない言葉。俺は小さく息を吐いた。


「日向が実行委員を断ったんです。理由は察してるんじゃないですか」


 本日何度目かの説明。姫乃会長は微かに首肯した。


「ええ、一応。大方、桜木さんがアレコレと騙したのでしょう」

「騙したって。……ただ、まあ否定はしないです」


 デート中であろう梨花と日向。火に油を注ぎたくはないので胸中だけで留めておく。緒川といい、姫乃会長といい、熱量が凄まじいので言葉選びが大変だ。

 こんな目立つ位置でよくもまあ、聞いてきたものである。


「……仕事が出来ればとりあえずはいいわ。事情は日向君に直接聞くから」


 わーお、日向という名前を呟いた時だけ表情が和らいだ。

 すげぇなアイツ。どんな魔法を使って姫乃会長を落としたのだろうか。俺が入学したての頃、二年生にとんでもない美少女が在籍していることを聞いた。

 それが姫乃会長だった訳だが、ある意味浮いていた。


 この難攻不落な性格を想えば道理とも言えたが。


「碓井君、ひとつ聞きたいのだけれど」

「……珍しいですね。俺に質問だなんて」

「日向君を攻略する方法を教えて頂戴。わかっていると思うけど、彼は優柔不断よ。そんなところも可愛いと思う。ただ私は恋人という関係に進みたいの」


 これまた剛速球な質問だった。俺の身体に穴開いちゃうよ。

 誰かを介して尋ねてこない以上、それだけ真剣味が汲み取れる。ハーレムメンバーの中で誰が抜き出ているかと考えれば、恐らく現状は梨花が強いのだろう。


「攻略って言われても。……何が知りたいんですか」

「男子目線で貰って嬉しい物とか、して欲しい事とかよ」


 好きがわからないと先日日向は俺に冗談交じりに話した。

 あれが本当か嘘かは知る由もないが、本当だとすれば、そもそも彼女らが恋人という座を手に入れるのが難しい説さえある。付き合う気がないとも言っていた。


「彼、そろそろ誕生日じゃない。誰かに尋ねようにも、私は男子の知り合いが少ない。ネットで調べても真偽は定かではない」

「それで、俺に白羽の矢が立った、と」

「えぇ。どうかしら?」


 流れは掴んだ。

 

「……いいですけど、時間も押してるみたいなんで」

「そうね。なら今度また聞くことにするわ、彼の誕生日までに」

 

 すっかり日向の誕生日を忘れていたな。

 ……まあ何かを送りあうとかは幼少の頃に既に辞めている。姫乃会長の提案を承諾しつつ、壁掛け時計を見れば事実時間は押していた。


 他の生徒らも凡そ所属部署を定めたみたいである。

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