リレーのバトンをつなげ?!

・恵実はおばあちゃんの家を訪れ、近ごろの悩みを打ち明ける。浄化技の効かない怪物の襲来について憂の活躍を何度力説しても、神さま見習いたちは本気でとり合ってくれなかった。


恵実「みんな、あたしの力だって誤解してるんだ。それに魔女の捨てゼリフから、憂はひどい目に合わされているかもしれない。次にフロイデの怪物に遭遇したら退治できる自信がないんだ」

おばあちゃん「そうだったのかい。大変だったねえ」

恵実「あたしの言うこと、おばあちゃんは信じてくれる?」

おばあちゃん 「もちろん。だって恵実ちゃんはウソをつく子じゃないもの」



・おばあちゃんは立ち上がると、部屋の押し入れのふすまを開け、奥まった場所にしまっていた宝石箱をとり出す。


おばあちゃん「恵実ちゃんにあげよう。この箱の名前は、エンジェルジュエリーボックスさ」

恵実「かわいい〜!あっ、フタの裏に鏡がついてる!」

おばあちゃん「箱にはおまじないが掛かっていてね。毎日大切にみがいていれば、持ち主の願いごとが叶う。きっと恵実ちゃんの力になってくれるはずだよ」

恵実「ありがとうおばあちゃん!」



🌸



・運動会の季節がやってきた。恵実のクラスからクラス対抗リレーの出場者を決めなければならず、立候補を除いた残り一枠をかけてあみだくじが行われた。選ばれたのは恵実だった。恵実の五十メートル走の記録は十一秒九である。


恵実 「どどどどうしよう〜?!」

セキ「こうなったら徹底的に鍛えるしかねェな」

リマ「セキの特訓には誰もついていけないわ。恵実、まずは体力をつけるわよ!」

恵実「いやだ〜〜っ」



・恵実は学校から帰ると、荷物を置いて手洗いうがいをしたのちに、自室の壁棚に飾られたエンジェルジュエリーボックスをキレイな布でみがく。箱の中には父からもらったレジンのキーホルダーや、リマとおそろいで買ったイヤリングなどの恵実の宝物がしまってあった。そして体操着に着替え、リマと一緒に街をランニングする。途中恵実は公園のすべり台に寄りかかり、そのまましゃがみこんでしまう。


恵実「も、もうムリぃ」

リマ「わかったわ、少し休憩ね」

恵実「……あたしにはできないよ、リレーの選手なんて」

リマ「恵実……」



・すすり泣く恵実をリマがなだめていると、二人の足もとに野良ネコが集まって鳴きはじめる。


リマ「みんな恵実のことを心配してるみたい」

恵実「ネコさんたち、ありがとう」



・リマは動物と会話することができる。リマ曰く、野良ネコたちは二人に見せたいものがあるのだという。ネコのあとを追い茂みの奥へと進んでいくと、顔に白い布地をあてがった少年があぐらを組んで座っていた。


リマ『あの子はたしかメィの家来の、』

恵実『シャルが言ってた、見習いボディガードだ!』

見習いボディガード「何奴なにやつ!」



・見習いボディガードの蹴りが、恵実のすぐ後ろの木に直撃する。


恵実「わわっ!あ、あたしだよ、桜貝恵実!クルーズ船で一緒だったよね! 」

見習いボディガード「げ……コホン。前に会ったね、うん。なにか用?」

恵実「えっと、今なにしてたのかなって」

見習いボディガード「瞑想だよ。気配察知の訓練。メィお嬢さまをお守りするためには、一瞬の隙も許されないからね」



・ふい打ちの足技に驚いたネコが見習いボディガードめがけて飛びかかる。それを本人はひらりとかわしてしまった。


見習いボディガード「こんな風にさ」

恵実「わ、わぁ…… 」

見習いボディガード「用が済んだならさっさと帰ってくれない?」

恵実「待って!せっかくだからずっと聞きたかったことがあるんだけど!」

見習いボディガード「手短に」

恵実「見習いボディガードって、あたしと同じくらいの年齢だよね。なのにメィのそばで働いてるってことは、もしかしてメィのことが好きなの?!」



・見習いボディガードは自身の表情を隠すおおいがあってよかったと安堵した。なぜなら今、開いた口がふさがらないからだ。


見習いボディガード「そんなわけあるか!僕の母さんとメィ奥さまの親交が深いから、メィお嬢さまとは腐れ縁ってだけだ!男と女ってだけでくっつけないでくれるかな、全く!」

恵実「ご、ごめん!」

見習いボディガード「そんなくだらないことを聞くために僕を探してたのか?」

恵実「ううん。実はリレーの選手に選ばれちゃって。トレーニングのためにこのあたりを走ってたんだ」

見習いボディガード「ふーん」

恵実「ふーんじゃなくて!一大事なんだよ!あたし運動オンチだからさあ……」

見習いボディガード「それなら僕が基本のフォームを教えてあげようか」



・恵実はリマとともに公園を発つ。重い足を交互に動かし、同じ歩幅で前に進んでいく。冷えこんだ空気が渇いたのどを刺激する。それでも規則正しい呼吸を保ち、二回息を吸っては吐く、をくり返す。


見習いボディガード「ペースが乱れてる!あご引いて!」

恵実「はあ、はあっ……ねえリマ、あたし、うまく走れてるかな?」

リマ「ええ!一等賞も夢じゃないわね!」

恵実「それはないって!!」



🌸



・恵実とリマのランニングには多くの助っ人が駆けつけてくれた。神さま見習いはもちろん、クラスメイトの友だちと走ったり、恵実の家族が様子を見に来てくれたり、時折見習いボディガードが運動の指導をしてくれたり。最初は渋々参加していた恵実だったが、だんだんやる気に満ちていく。


恵実「みんながはげましてくれたおかげで、自信がついてきたよ!」

リマ「よかったわ!一人ひとりの力が小さくても仲間で集まれば、大きなことを成しとげられるのよ!」



・むかえた運動会当日。恵実のクラスにルカの姿は見えない。なぜならルカは見習いボディガードとして、明家めぃけの母娘とともにグラウンドの真正面の席を与えられていたからだ。


メィ 「おーっほっほっほ!明家めぃけの財力をもってすれば、桜が丘小学校に多額の寄付をして来賓席をゲットすることなんて、お茶の子さいさいですわ〜!」

メィ母「りーちゃん、声が大きいわよ〜」

見習いボディガード「お嬢さま、なんで僕が学校を休まないといけないんです?」

メィ 「もちろん、この場所が恵実の監視に最適だからですわ!さあスマホの録画をオンにして!恵実とセキさまの仲を引きさく研究材料にしますわよ!」

メィ母「あらあら。あとで恵実ちゃんの親御さんに動画共有してあげましょうね♡」



・見習いボディガードがスマホのカメラをのぞいていると、画面越しに恵実と目があったような気がした。恵実が来賓席に向かってくる。知り合いが近くにいるのだろうか。


恵実「おはよう!」

見習いボディガード「え、」

恵実「前に会ったときにお礼を言いそびれてたから。あなたのおかげでタイムが伸びたんだ!ありがとう!」

見習いボディガード「……どういたしまして」

恵実「今日はメィの付きそいだろうけど、せっかくだから楽しんでいってね!じゃあね!」



・恵実の背中を目で追う見習いボディガード。これもメィから仰せつかった任務である。


メィ 「……と、ちょっと!見習いボディガード、聞いてますの?!」

見習いボディガード「あーはいはい」

メィ「一年生の玉入れ競争が始まりますわよ!赤組がんばれー!恵実をやっつけろー!ですわ!」

見習いボディガード「お嬢さま、いつになく楽しんでおられますね」

メィ「ハッ!い、いえ、わたくしは庶民のイベントなんて興味ないですわっ!」

メィ母「あら〜?アレはなにかしら?」

見習いボディガード「どうかしましたか」



・メィの母が赤組と白組のカゴを指さす。その中にはなぜか、お手玉の代わりにりんごとかぶが入っていたのだ。他にも奇妙な現象はつづいた。つな引き用のロープが突然ツイストキャンディに変わる。パン食い競争のパンから足が生えて脱走する。台風の目では三角コーンの周りをまわると竜巻が起こり、近くにいた子どもたちが飛ばされてしまった。


見習いボディガード「これってもしかして」

メィ「もしかしなくても、フロイデのしわざですわ!」



・そのころ恵実と神さま見習いたちも異変を察知していた。しかしいくら気配をたどっても怪物の居場所がつかめない。


恵実「どうしよう、リレーが始まっちゃうよ」

セキ「恵実、テメェは集合場所に行け!」

ウメ「怪物のことはワタシたちに任せて」



・恵実は急いで席に戻り、リュックの中に忍ばせていたエンジェルジュエリーボックスを抱きしめる。


恵実「おばあちゃん、あたしに勇気をちょうだい」



・ピストル音を合図に選手が一斉に駆けだす。神さま見習いたちがかたずを呑んで見守る中、バトンを受けとるや否や恵実が行方をくらませてしまう。


シャル「恵実おねえちゃんが消えちゃったですぅ?!」

ウメ「このままだと人々が混乱する。リマ、恵実の生き写しの貴女が代わりに出て。少しの時間稼ぎにはなるはず、」

リマ「……いいえ。恵実は今もコースを走っているわ」

シャル「どうしてわかるんですか?」

リマ「恵実と毎日特訓したからよ。耳をすませば、一定の足音のリズムが聞こえるはず。恵実、その調子よ!がんばって!」



・リマにつづいて神さま見習いたち、そしてメィと見習いボディガードも声援を送る。すると恵実のエンジェルジュエリーボックスに明かりがともり、空高く浮かびあがった。その光が強まって二方向に放たれると、一つはマジシャンの怪物を、もう一つはグラウンド内の恵実を照らしだす。人ならざるモノを認識できないふつうの人には、なぜかボックスの存在にも気がついていないようだ。



・恵実がアンカーにつないだバトンはゴールテープを切った。気がゆるんでひざからくずれ落ちそうになる恵実の両肩を、見習いボディガードが後ろから支える。恵実はどこかで嗅いだような柔軟剤の匂いを感じていた。


見習いボディガード「まったく世話の焼ける」

恵実「えへへ……受けとめてくれて、ありがとう」

見習いボディガード「ムダ口をたたくヒマはないらしい。怪奇現象の黒幕のお出ましさ。あいにくお嬢さまと僕だけじゃ力不足でね。恵実、準備はいいか?」

恵実「うん!みんなで力を合わせれば、きっとうまくいくよ!」



・エンジェルジュエリーボックスの閃光に目がくらみ怪物の動きがにぶる。そのうちに神さま見習いたちが怪物を体育館へと誘いだす。恵実があたりを見渡していると、校舎の屋上から恵実たちの様子をうかがう魔女の姿を発見した。


恵実「憎しみの魔女!憂は無事なの?!」

見習いボディガード「恵実っ危ない!!」



・見習いボディガードの迎撃によりマジシャンのハットが視界をよぎった刹那のうちに、魔女はいなくなってしまった。怪物のくり出すトランプカードをメィと見習いボディガードが制するかたわら、バタフライ・エンジェルに変身した恵実がとどめを刺す。


恵実「おばあちゃん、助けてくれてありがとう」

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