第7話 カナエと神父

「おい! 十六夜!! 眠ってるのかこの愚弟め」

「どうだリア、状況を説明しろ」

「はい神父様、ボクの弟が裕二さんと共に吸血鬼と対峙し、裕二さんだけが殉職しました」

「そうか、裕二お前はよく頑張ったな。ゆっくり休め。もう数十年待ってくれ、すぐそっちに行くからな」


 血の匂い、それに街もほぼ半壊状態。これは生粋の吸血鬼の仕業、それも結構上位の吸血鬼。

 死なないでくれよ十六夜君!! 私は嫌な予感と十六夜君の気配を感じれなくなり、急いで家に出ると、遠い場所から血の匂いがする。

 しかもここまで充満するってことは相当の死者が負傷者がいると考えられる。

 血の匂いを頼りに向かうとそこには、神父と白と金色の色の修道服を着た少女がいた。

 少女の腕の中には十六夜君がいる。私は何食わぬ顔で近付く。


「これは酷いね〜吸血鬼の仕業かな?」


 私が軽口を叩き近付くと、少女は一瞬で剣をこちらに向けてきた。反応が速い、それにあの剣──この娘、吸血鬼ハンターの中で特例の存在。


「何しに来たカナエ?」

「別に特段用がある訳じゃないよ? そこにいる少年を渡してくれればそれでいいよ」

「ふざけるな! 吸血鬼風情に弟を渡せるか!!」


 鋭い視線が私に刺さる。この娘今弟って言った? つまり十六夜君が毛嫌いしている姉。

 これはこれは非常に厄介だな? まぁでも私の敵ではないけど、笑みが思わず溢れる。


「リア、その子を渡して上げなさい、そうすればお前は何もしないんだろ?」

「流石は神父様だねー、よく分かってらっしゃる。もし渡さないって云うならば、ここで殺し合いをしても私は構わないよ?」

「上等だ。吸血鬼風情!」


 リアと呼ばれている十六夜君の姉は剣を構える。

 吸血鬼である私に怯えることもなく、本気で倒そうとしている。殺気が強いな、この娘特例な存在である以前に強い。


「やめとけ、お前では勝ち目がない。渡しなさい」


 渋々とリアは十六夜君を渡す。受け取り、地を一瞬で強く蹴り、距離を取る。

 距離を取ってから十六夜君を観察する。

 頬が少し切れているだけで後は無傷。あそこにある吸血鬼の死体にこの傷。考えられるにきっと戦ったのだろう。それで生き延びたのか。

 この子には素質がある。もしかしたらrewriteに近付ける存在なのかもしれない。


「神父様!! なんで」

「リア、お前では天と地をひっくり返しても勝てないだろう。それは私にも言えることだ」

「まぁこの子を返して貰ったし、私はここにいる用がないからお暇させて貰うよ。それともまだ何かあるかい?」


 リアは殺意を思い切りぶつけてくる。あぁ怖いな、弟思いなんだなと実感させられる。

 でもね、


「君じゃあ私には勝てない。分をわきまえろ」


 強烈な圧をリアにぶつけてみる、すると瞬時に神父が動き、リアの前に立つ。ちぇつまんないの、どんな表情をするか見たかった。


「我聖女を虐めるではないぞ」

「聖女ね。あんんたら吸血鬼ハンターはいつのまに、神を信じるようになった?」

「チッ、吸血鬼風情が分かった口を利くな」

「こっわ、少なくとも私と君の仲じゃないか。ねぇ神父様」


 ニコッと微笑んでやったのに「くそ吸血鬼が」というふざけた返答が返ってきた。

 流石にちょっとムカつくな、一発蹴ってから帰るか? と思った時、十六夜君がうなされていた。

 今はとにかくこの子の無事が第一優先だ。

 十六夜君をお姫様抱っこして私は地面を蹴り、空中に飛ぶ。そしてそのまま浮遊して帰る。


「じゃあねくそ神父! もう二度と会わないことを願っているよ」

「ほざけ、貴様の命はいつか刈り取る」


 神父に背を向け帰る。街も酷いね、上位吸血鬼は厄介ってことを人間たちは嫌にも理解しただろう。

 まぁどうせ……何かのテロ事件で落ち着かせるのが人間。


「十六夜君、私は君の戦いを見てみたかったよ。君が吸血鬼相手にどんな接戦を繰り広げるのか」


 まぁ聞かれたら嫌だって言われそうだな、怪訝そうな表情をして、クスクスと私は一人で笑う。

 さぁて何処に行こうか、あの家には戻れない可能性がある。


「どっちにしろ当分はあの家にはいかない方がいい」


 十六夜君の姉であるリア、あの娘には顔を覚えられただろうし、勿論戦えば私が勝てる。


「けどなあの娘、特例だから非常に面倒くさい」


 考えていると髪がフラフラと揺れる。少しは君も風に当たってみな、地上は悲惨なのに空は夜空が綺麗。

 本当、人間も吸血鬼もくだらない。争って何の意味がある?


「ねぇ十六夜君」


 私は眠っている彼に語り掛ける。きっと聞かれてはいないのだろう。それでも口は止まらない。


「もし私が君を吸血鬼にすると言ったらどうする?」


 返答は返ってこない、当たり前だ、彼は今眠っているのだから、なんで私が君にこう言ったのかも自分で分かっていない。

 そう何となくだ、何となく思い、言葉にした。

 別に意図がある訳でも何でもない。ただの突発的に出た言葉。

 そろそろ本格的に移動しないと、彼が風邪を引いてしまう。


「それにお前ら、くそ共が追いかけて来るしな!」

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月夜のブラッド リア @sigure22

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