月夜のブラッド

第6話 吸血鬼との戦闘

　吸血鬼が飛び付いてくる。男は刀でいなし、後退させる。さっきから視線がうるさい。

　やればいんだろ！　本当に面倒くさい。

　俺はいつもの戦闘スタイルを構え、最速で吸血鬼の顔面を打ち抜く。

　顔が一瞬跳ね上がるが、何事もなかったかのように男に迫る。バックステップし距離を測る。

　手応えはしっかりある、けれどダメージを与えられたかいうと、何も言えない。

　やっぱ頑丈なのか？　だったら......効くまで攻撃するだけ！！

「なんだー坊主！　やっとやる気になったのか！」

　男は嬉しそうに余所見し俺に言ってくる。余所見すんじゃねぇ！　危ねぇだろうがと思った。男は後ろに目があるかのように吸血鬼の攻撃を避ける。

　避ける間際に一刀し、吸血鬼を切り刻んだ。このおっさん案外強い。

　おっさんと呼んでいいかなんか知らない。

　俺が攻撃できる隙がない、一刀された瞬間、踏み込むことはできたが、それと同時に嫌な予感がした為できないでいった。

　これはただの直感に過ぎない。まだ何か隠してる気がして仕方ない。

　すぐさまにその直感は当たっていることに気付かされる。

「この調子ならば勝てるぞ坊主！」

　おっさんの嬉しそうな一言、直後、俺の前でおっさんの体が真っ二つに分かれる。

　対角線にいる吸血鬼は不気味な笑みを浮かべ、手を見せつけた。

　その手にはさっきほどまでなかった。赤い剣。見た目は西洋のロングソード。

　赤い血で染まっているのか？　刀身が赤ってアニメや漫画でしか見たことないぞ？

　そんな軽口を叩ける余裕なくなったな、おっさんが唯一の生存できる為の希望だった。

　それなのにあっさりやられた。俺らが視認する前には真っ二つ。

「このままだと確実に死ぬな」

　さぁてどうする？　潔くこのまま死を受け入れいるか？　それともみっともなく抗うか？　どっちにしろ面倒くさいな。

「rewriteの......者」

「お前rewriteについて知ってるのか！？」

　俺の問いに吸血鬼は黙り込む。そして剣をこちらに向ける。

　あぁそうかよ、情報が欲しいならば戦って勝てか。

「俺は戦いは好きじゃねぇんだよ。おっさん悪いが借りるぞ」

　上下が分かれてるおっさんの下に歩み、右手に握られている刀を拝借する。

　もし俺がこの吸血鬼に勝ったら埋葬はしてやるよ。

　やっぱり──刀は重い、このおっさんも昔の人もよくこんなもん振り回してたなー、少し関心をしながらも一丁前に構えを取ってみる。

　まずこれが正しい構えかも分からない。それでも俺はやるしかない。自然と刀を握る手が強くなる。

　吸血鬼は突進してくる。剣を真っ直ぐに突き立て、凄まじいスピードで向かってくる。

　踏み込んでない癖に初速のスピードがえげつない。

「でもな！　スピードは俺の専売特許なんだよ！」

　剣先が当たる直前に身を翻し、カウンター際に一刀をお見舞いする。

　吸血鬼の身体から血飛沫が舞う。

　続け様に前蹴りを繰り出す。蹴りは吸血鬼の身体を捉え、倒れた。

　斬られたことによりバランスが悪くなっただろ？

　俺は嘲笑いながら刀を振り下ろす。

　次の刹那、俺の頬に何かが掠る、遅れて鋭い痛みが現れる。

　全神経を研ぎ澄ませ、バックステップを取る。

　と、同時に風圧が俺を襲う。「チッ」と舌打ちが周囲に響く。

「舌打ち？　どうした吸血鬼焦ってるのか」

　俺の問いに吸血鬼は答えずにひたすら突進してくる。さっきと違い、無象に剣を振り被る。攻撃が単調だから避けることは簡単。

　再びカウンターとして刀を振ろうと思った、その時！！　刀は破損をしていた、正確に云うと切っ先が消えている。

　そうか、さっきの掠れた鋭い攻撃。刀を折り、その折れた部分が飛んできた。

　一体何で折られた？　しかも謎の風圧、剣圧で折られた？　いやそれはない。

　もし仮に剣圧で刀が折られたとして、俺に大ダメージを負ってないの可笑しい話。

　つまり考えられる可能性、それはあの体勢から放った見えない攻撃──打突。

「地味に厄介なことをしてくれやがって」

　身体に焦りが見え始める、冷や汗もガンガンにかき、背筋には悪寒が走る。

　あぁ、やっぱ吸血鬼と人間ではここまでの力量の違いがあるのか、刀が折られた時点でもう勝機は無くなった。こんなことだったらカナエさんに全て聞いとけばよかった。

「まぁあの人が答える訳がないか、助けてくれカナエさん」

　俺は死を覚悟をした時、最後に出た言葉はカナエさんに助けを求める。非常に情けねぇな。

「馬鹿弟め！　ボクに迷惑ばっかり掛けて！」

　聞き慣れた声、そして今最も会いたくない人の声。一つの光と共に吸血鬼を一刀両断した。

「姉さん……」

　本当に情けねぇ、姉さんがきたことにより安心してしまった。会いたくなんかなかった。それでも一番心強い。

　姉さんはいつもと違う格好をしていた。制服姿ではなく、その服装はまるで聖女だ。

　一見シスターの修道服に見えるがそれとは違う、白と金色の混ざった色、胸には十字架のマークがある。

　右手には金色の剣、その剣は非常に神々しかった。

　吸血鬼の身体は真っ二つになり地面に倒れていた、鮮血が地面のコンクリートを染める。

　そうかこれで戦いを終わったのか、安堵をすると同時に悔しさが溢れ出てくる。

　rewriteの情報を一切引き出すことができなかった。

「くっそ、悔しいな」

　言葉に出てしまう、それはきっと姉さんに聞かれただろう。俺は弱い、それで合って姉さんは強い。

　生きていることに完璧に安堵を覚え、急激に身体が重たくなる。

　身体が動かねぇ、それに意識が朦朧と……糸が切れたように俺の意識は闇へと消えた。