第5話 異変
「それで君は帰って来たと?」
「はい……」
何故今俺は怒られている? しかも人のベットにドカッと座っている吸血鬼に、そもそもこの人のせいだろ。
「まぁいいや、君が持って帰ってきた情報、私は少し知っているよ」
やはり知っているか、そもそも吸血鬼殲滅軍って名前だ、吸血鬼であるカナエさんが知らない筈はない。
一体あの連中はなんだ? と考えを巡らせていると、カナエさんから横やりが入った。
「「君が言うそのカルト集団は所謂吸血鬼ハンター。私たちの敵だよ」
吸血鬼が出る作品で結構多く出ている架空の集団。
悪魔でいう祓魔師。切っても切れない関係。
吸血鬼がいるならば実は悪魔もいるんじゃないか? と妄想が膨らむ。
「ん? カナエさん今なんて言いました?」
「だから私たちの敵ね」
え? 俺は困惑してしまった、私たち!? いやちょっと待て、俺も入っているのか?
「もちろん入っているからね」
釘を刺されたし心を読まれた。
あの時、彼奴は吸血鬼の匂いがする、それに眷属かと聞いてきた。え、俺まさかなんか匂いでもする?
自分の腕とか身体が臭うか確かめてたら、
「臭くないわい! 君失礼やな!」
枕が飛んできた、しかも見事に顔面にクリーンヒットした。鼻を抑える。
「私ちゃんとね清潔にしているからね!」
「誰も臭いとは言ってないすよ」
「じゃあなんで匂い嗅いだのかな?」
めっちゃニコニコだけど、圧を感じる。これ何を言っても火に油を注ぐ気がする。
そんな俺の気持ちとは裏腹にカナエさんはジワジワと近づいてくる。
あ、これ素直に言わないとぶっ飛ばされる。
「待って下さい! ちゃんとした理由を言うので」
「もしその内容で納得できなかったら殴るからね」
しぶしぶ俺は頷く、この人、力が強いから殴られたくないんだよな。
「……ということでありまして」
「まぁいいよ」
よし許された、何とか命を繋ぎ止めた。あぁこうなったのは全部あのイカれた奴のせいだ。
もう少し殴っとけばよかったか? まぁそれはそれで面倒くさくはなる。
仮に吸血鬼の眷属と噂でもされたら、袋叩きにされそうだし、やっぱ学校に行くのはリスクだ。
行くの辞めとこう。
「十六夜君って喧嘩強いんだね。君は喧嘩できないタイプと思っていた」
「唐突すね。別に出来ることならばしたくないすよ。ただやられぱなしは癪なだけす」
相手が誰だろうと関係なく突き通す。これは一種のポリシー。それにしてもやるんじゃなかったな。やってからだんだんと後悔をし始めた。
「ちょっと外に出ます」
ちょっと考え過ぎた、一旦外で頭を冷やそう。カナエさんの言葉も聞かずに出た。
もう一言くらい言っとけばよかったか? まぁ考え過ぎだ。あの人が家に来ることはない。
ポケットに入ってるスマホが振動する、まさかまた例のメールか? 少し期待してスマホを開いた。
だが、全く違い、画面には蓮の名前が表示されている。
電話? 彼奴からって珍し……そうでもなかった。
いつも気軽に掛けてくる奴だった。
「これで電話に出なかったらうるさいか」
通話ボタンを押し電話に出る。
『もしもし、どうかしたか?』
『お前一体何をした? 学校中で噂が馬鹿みたいに広まっているぞ!?』
『何の噂だ? 落ち着いて話せよ』
学校中で噂? 心当たりがないと言いたいが、一つだけ心当たりはあるけど、頼む外れてくれ! 俺の些細な願いは蓮の言葉で消えていた。
『お前が吸血鬼殲滅軍の一人をぶっ倒した』
あぁうん、バレたな、あの時、人は誰もいなかった筈、それなのに何で噂が?
『お前にやられたっていう奴が騒いでる。それでここからが問題だ。お前の姉貴が呼び出された』
『非常に最悪な事態だな』
姉さんが呼び出されたか、しかもどの程度の噂かは分からんが、十中八九俺とバレるだろう。
特にあの人に情報が行った時点で詰み。
だから蓮は焦って電話してきたのか、少し行動を考えないといけない。間違いなく締められる。
『オレの方でも何とかするが、お前はお前で気をつけろよ!』
『あぁわざわざすまん』
会話が終わり通話を切ろうとしたその時、俺の視界にある建物が、映画のような轟音とともに倒れた。
スマホ越しに蓮の怒声が聞こえる、数秒遅れて俺は反応した。
『おい! 十夜何だ今の物凄い音は!?』
『俺にもわかんねぇよ──視界のある建物が急に倒れた』
くっそ、上手く説明ができない! 言葉があやふやだ。一体この状況をどうやって説明しろと? 一体何が起きているんだ! 頭が混乱している時に俺の視界にあるものが映った。
それと同時に背中に悪寒が走り、心臓がバクバクと鳴り始める。
『蓮、落ち着いて聞いてくれよ。倒れた建物の上に人が立っている』
『は!? 何意味不明なことを言っているんだよ!』
蓮の言葉を無視し俺はひたすらに言葉を紡ぐ。
『赤い双眸に背中に羽を生やし、鋭い牙を持った人間が崩れた建物の上にいる』
あぁ最悪だ。頭の中では混乱しかないのに、身体は違う。冷静でいつも以上に視界がクリアだ。
遠い筈なのに何故か見渡せる。状況を全て理解が出来る。
それに人の動きもスローに見える。
本当に最悪だ、二日連続で吸血鬼に出くわすとは!
『おい十夜! 十夜!』
『蓮、悪い生きてたらまた後で折り返し電話をするよ』
最後に蓮はなんか騒いでたが、気にせずに終了のボタンを押し、スマホの電源も落とす。
昨日の吸血鬼よりあれはヤバい! 身体から危険信号が出ている。それより何で建物を壊した? まるで何かから逃げているようだ......。
「呑気に観察している場合か、まずは逃げないとな」
何か胸騒ぎがして仕方ない、自分の命が欲しいわけではない。ただこれから大事に巻き込まれる予感。
息を殺し、ゆっくり歩き出し、だんだんとスピードを速め走り出す。
まずは家に帰り、カナエさんに報告しないと、これが賢明な判断。
と思い家に向かって走っている時、ぶつかる、俺は吹き飛ばされ尻餅をつく。一体何にぶつかったのか見上げると、二十代後半くらいの男、白銀のような髪に赤い瞳をした男。一見普通の成人男子だ。
腰に掛けている刀を除けば、
「おい坊主大丈夫か?」
男は心配し手を差し出して来る。その手を掴み立ち上が
る。この男は味方なのか? 思考を巡らし考えも答えなんか出ない。
出る筈がないんだ、なんせ見た目以外の情報はゼロだから、武器があるから味方だったら助かるな程度の認識。
「どうした? そんなに慌てて走り出して?」
あ? 走り出すに決まっているだろ! 吸血鬼ましては建物が倒れればパニックになって逃げる。それが人間の生存本能。
多分、この男は俺が普通の人間が逃げ出す生存本能、ではないと理解している。
だからわざわざぶつかっても逃そうとはしない。
「あんた何者だよ」
「やはり冷静か、坊主お前は演技とか下手なタイプだな!」
うるせぇほっとけ、俺は人を騙すほど悪知恵はない。
なくたって生きていけると思っているタイプだが、今回に関しては別。
もう少し持っとけば良かったと後悔した。
「坊主備えろよ。奴さんの襲来さ」
男は薄笑いをしながら腰にある刀を抜く、尻目で背後を見ると吸血鬼が立っている。
あぁ本当にタイミングバッチリだな!!
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