第4話 学校へ登校

「はぁー学校に行くの面倒くせぇ」


 一人でぶつぶつと文句を言いながら通学路を歩く、一見ただのヤバい奴だ。

 いやでも俺は学生だし......だとしたら単純に頭が可笑しい人か。

 どっちみち変な奴認識されても可笑しくはない。

 どうしてこうなったけ......全部はあの吸血鬼のせいだ。

 遡ること昨日の一言が始まりだ。


「十六夜君、明日から毎日学校行って!!」

「は? いきなり何を言ってるんすか?」

「あんな時間に私と出会したんだ、君は学校に行ってないだろう?」


 何も言葉が出ない、図星だからだ、俺はいつからか学校に行くのをやめ、いわゆる不登校状態だった。

 それなのにあの吸血鬼のせいで、今俺は学校に登校させられている。もちろん学校に行かないという手も合ったが、ベットを占領された為、渋々と向かっている。


「はぁ本当に面倒くせぇ、帰ろうかな?」

「さっきから何をぶつぶつ言ってるんだよ十夜(トウヤ)」


 背後から声を掛けられた。人の名前を勝手に改変し、十夜(トウヤ)と呼ぶのは一人しかいない。

 背後に視線を向けると、俺と同じ背格好の白を基調とした制服を着ている男。


「相変わらず人の名前を改変しやがって」

「気にするな、オレとお前の中だろ?」

「本当お前っていい性格してるな!」

「おう! オレもこの性格は大好きだぞ」

「褒めてねぇよバーカ!」


 まじでこいつといるとペースが乱れる。


「まぁそんなことよりお前が学校に来るのは珍しいな」

「ただの気まぐれだよ、またその内来なくなるさ」

「釣れねぇこと言うなよ」


 そう言いながら肩を組んでくる、一瞬、肩を退かそうと思ったが、すぐにやめた。

 退かしてもまたすぐ組んでくる。そういう人間だ。


「でも......タイミングが悪い時に来たな」

「それはどういう意味だ?」

「今っていうか、ここ最近学校に面倒くさい連中が来ている」

「それは蓮、お前以上にか?」

「ん? ちょっと聞き捨てならない言葉が聞こえたな?」


 蓮の言葉を無視し、面倒くさい連中というのに焦点を合わせてみる。何だろう妙に胸騒ぎがする。

 昨日からずっと身体の調子が変だ。


「十夜、顔を伏せろ」

「は? 分かった」


 妙に真剣な声色で蓮が言った。こいつがこんな真剣に言うってことは一つしかない。

 推測をするまでもない。さっきの面倒くさい連中より、面倒くさい人間が俺らの前に立っている。

 蓮は普段おちゃらけっているが、誰よりも心優しい。

 そんな蓮が言うってことは、一人しか思い当たらない。

「やぁやぁ天下の生徒会長様ではないですか!」

「伊織、そこを退け」


 あぁやはりだ、この世で一番会いたくない人に出会した。顔は見えない──いや見てない。

 だから一体どうな表情をしているかは分からない。

 けれど、予測ならばできる、きっと不愉快そうな顔している。


「ボクはそこの愚弟に用がある」

「奇遇すね、オレもこいつに用があるんで他当たって下さいよ〜」

「いい度胸だな」


 相変わらず蓮、姉さんを煽ってやがる、本当に肝が据わっている。そしてまたそれが面白い。


「雫様、そろそろ教祖様がお呼びです」

「もう? チッ、命拾いしたな伊織」

「お陰様で!」


 足音が聞こえ、だんだんと遠くになり、もう聞こえなくなった。


「教祖って何のことだ? 宗教団体でも来ているのか?」

「いやあれはどちらかっていうとカルト集団だな」


 カルト集団? そんなものがなんで学校に? そもそも姉に何の用?


「お前って吸血鬼を信じるか?」


 蓮の言葉を聞き、胸がドクンドクンと激しく脈を打つ。全身から血の気が引く感覚する。

 吸血鬼信じるか? 信じるさ! なんせ昨日二人も会った! 口から出そうになった言葉を飲み込む。

 カナエさんに口止めをされてないから、別に言っても構わないかもしれない。けれど言う気にはなれない。

 内心どっかで秘密にしようと考えているのか。


「空想の種族だろ?」

「オレもにわかに信じられないが、今世間を騒がせている怪死事件の犯人が吸血鬼とされている」

「それ……どこ情報だ?」


 その情報は正しいと思うが、どうやって蓮が知った? 俺は昨日出会したせいで知った。

 だけど普通は知り得る筈のない情報。


「さっきから話題に出ている集団の教祖からだ。胡散臭いとは思うが、実際に起きてる事件は不可思議で」

「妙に説得力があると感じ、一定数は信じ込む」


 蓮は首を縦に振る。吸血鬼を知っている、そのカルト集団は一体何者だ?


「そのカルト集団は吸血鬼殲滅軍、名の通り吸血鬼を殲滅するために出来たらしい」


 一見ただの頭可笑しい連中、もし昨日カナエさんに会ってなかったら、そう思っていただろう。

 吸血鬼殲滅軍、家に帰ったらカナエさんに情報提供しとくか、もしかしたら何か知っているかもしれない。

 まぁそんなことより……帰るか。


「十夜、帰るならば気をつけろよ、学校のそこら中にカルトの教員はいる」

「忠告サンキュー」


 一体この学校はどうなってるんだ? カルト集団がいるなんて、


「カナエさんには悪いけど、もう学校には来ないな」

「匂うねぇ〜吸血鬼の匂いがプンプンとするな!」


 俺はこの時、一人言を呟いたのを深く後悔した。


「お前吸血鬼の眷属か?」


 なんだこいつ? さっきから何処か変。そして何より嫌な予感がする。

 数秒後に予感が当たっていること気付かされる。

 細身で長身の男、白のシャツの上から赤と黒の混合したジャケットを羽織っている。

 明らかさまに学校の関係者ではない。

 じゃあこいつはカルト集団の人間! と気付いた矢先、チラリっと光り物が見える。

 考えるより先に身体が動いた。


「チッ、こいつ気付きやがった」


 小さく舌打ちしたのが聞こえた、男の右手にはナイフが握られている。危ねぇ! 咄嗟に動いてなかったら切られていた。こいつなんで刃物を持っている? それ以前に学校で振り回すか?


「吸血鬼もその眷属もブチ殺す!!」


 俺は眷属じゃねぇよと反論しようとしたが、すぐにやめた、この手のタイプは見たことがある。

 どんなにこっちが話しても聞く耳は持たない。


「はぁー、あんまりしたくはないけど仕方ないか」


 自分でも分かるくらいくそデカい溜息。やる気にはなれないけど──奴さんはやる気。

 これは不可抗力、それとただの正当防衛。拳を強く握る。

            ◇

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る