第3話 眷属にされる!?
「君は本当に命が興味なさそうだ」
妖艶な顔付きになったカナエさんは、ジワジワと近付く。彼女が吸血鬼ってことに徐々に実感する。
力を入れても一切動く気配がない、俺、それなりには力はある方だぞ? それなのに動かないか。
カナエさんは細く、華奢な身体をしているのに、俺よりだいぶ力が強い。
「やるならば早くして下さい、ジワジワとやられるのは御免です」
ガブっと首を噛まれた、あぁこのまま血を吸われて死ぬのか、頸動脈辺りならばほぼ死確定だ。
血を吸われていると身体中がゾクゾクとする。
プファっと音と共に、口に血がついたままのカナエさんが見下ろす。
「……──俺を殺さないんですか?」
「んー、君の血って案外美味しいね、だからまだ生かして上げる」
「てっきり殺されるかと思っていましたよ」
血が美味しいから生かす、吸血鬼らしい発言。
正直、生きても死んでもどうでもよかった。もし生きれるならば好奇心を解き明かす。
「うーん? 最初から殺す気はなかったよ。でもrewriteは知らない方が身の為だった」
もう少しでも知っちゃったから遅いけど、とボソと言われた。それほどまでrewriteは知られたくないか。
くっそ滅茶苦茶気になる、でも今は言うべきではない。
「吸血鬼のタブーの話をしてくれましたよね?」
「え、うんしたね。それがどうした?」
「吸血鬼は血以外に固形物を食べるんですか?」
タブーの言葉の真意を知りたいと思って、素直に聞いてみた、カナエさんは口を開こうとせず、何ならば俺の上に乗っかってきた。
腹部に少し重みを感じる、カナエさんが顔を覗き込んでくる。
白い肌と白の天井を見上げている。
「さっきも言った通りタブーを犯した奴は食べる、後は君の知っている通りさ」
「ここ最近起きてる変死、怪死事件。全て吸血鬼の仕業」
「さぁね。少なくとも彼奴は絡んでた。後は知らない」
まぁ今はそれに関しての興味は薄れている、どちらかっていうと、rewrite──月の血鬼が気になる。
「そうだ、スマホ貸して?」
「そう言いながら勝手に取ってるじゃないですか」
カナエさんは言葉と行動が不一致している、手慣れた手付きでスマホを操作している。
一体なにをしているか、おおよそ予想ができる。
「rewriteのメッセージでも消してるんですか?」
「そんなことはもうしないよ、ただどんなのが来てるのか見てるだけ」
スマホを操作するのはいいが、そろそろ降りてくれないかな? 決して重くはない、重くはないけど、色々と目のやり場に困る。
上に乗っかられてから気づいたが、カナエさんは凄い薄着だ、少し肌も露出している。
なるべく見ないように目を泳がせている。
「どうかした? さっきからキョロキョロして」
「別に何もないすよ」
やばい、完全にバレている。全てではないが、俺が挙動不審になってたのには気付かれた。
どう言い訳する? まずこの人に言い訳が通らない気がする。
「もしかして私に見惚れた?」
その言葉に胸がドクンっと脈を打った。決して見惚れてドキッとした訳ではない。
強いて言うならば蛇に睨まれた蛙の気持ち。
そう......それに違いない、彼女に見惚れる──そんな訳はない。
「まぁどっちでもいいけどね」
彼女は興味なさそうにスマホに目線を戻す。
「いつまで俺の上に乗ってるんですか?」
「えっ、上に乗っかられて嬉しくない?」
どうして嬉しいと思うんだよ? と言い掛けた時、
「大体喜ばれるんだけどな......」
カナエさんは少し寂しそうな顔付きをした。すぐに笑顔に戻った。
「残念ながら俺にはそんな性癖ないです。なのでいい加減降りて下さい」
起き上がろうと身体を動かすが、一切ビクともしない。岩でも乗ってんのかと勘違いするほどに。
だが、俺の上には岩ではなく、華奢で力が異常に強いカナエさんが乗っている。
「なに許可なしに起き上がろうとしてるの?」
「さっきから降りて下さいと言っています」
くっそ、本当に一切動かない。ただでさえ体勢的に力が入らないのに、ビクともしない。
「俺のスマホで一体なにしているんすか?」
「君が言ってた変死、怪死事件についてね」
「自分のスマホないんすか?」
「えあるけど?」
だったら自分のスマホを使って調べろよ、そして降りろ。そう、はっきり言えればよかった。
「ねぇ十六夜君はさ、吸血鬼の眷属については知っている?」
「自分の部下ですよね」
「うん。簡単に言えばそうだね。どうやってなるか分かるかな?」
血を与えればその吸血鬼の眷属になる。
急になんでこの話を振ってきた? まさか……。
カプッとまた噛まれた、もしこれで血を与えられたら俺は眷属になる。
まぁそれはそれでいいかもな、
「……やめた、君に血を与えるの」
少し残念そうな表情をしながらカナエさんは退いた。
今完全に眷属にされ掛けた。
身体を起こし、カナエさんからスマホを取り上げる。
「あ」と小さい声が聞こえた。
「変死、怪死事件の犯人は普通の吸血鬼ではない」
その言葉に耳を疑った、普通の吸血鬼ってだけでも驚きだ。それでも普通とは違う吸血鬼。
これは人が動いていい代物なのか?
「あっそうだ!」
急にカナエさんが声を上げる、それと同時に何か嫌な予感がする。
俺はすぐに気付いた、この嫌な予感が当たっていることに……。
「やっぱ君を眷属にする。だけど普通とは違う方法でね」
「普通とは違う方法ってなんす……か」
碧眼の瞳が真っ直ぐこっちを見ている、唇に柔らかいの当たった。キスをされたってことに気付くのに二秒くらい掛かった。
「これがもう一つの方法」
カナエさんは嬉しそうに微笑む。その表情に思わず見惚れた。
頭がクラクラする。脳内がバグるような感覚に陥る。
心臓がドクンドクンと脈を打っている。
「もし君の心が私に振り向いた時にはもう眷属さ」
◇
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