第2話 十六夜とカナエ

 俺はカナエさんの発言に耳を疑った、吸血鬼? あの空想の生物、人の血を吸い、日の出に弱い空想上の伝説の生物。

 そんなのあり得る筈がない。


「……今世間で騒がれている変死や怪死事件」


 フッとカナエさんが鼻で笑った、さっきまでの笑顔は消え、まるで見定めるかのように見てくる。

 背中に悪寒が走る、この人は一体どこまで知って、何者なんだ?


「そこまで理解できているんだ、君が言う、その事件と吸血鬼は関係しているよ」


 血を吸う生物──吸血鬼、それに変死、怪死。

 俺はスマホを取り出し、変死と怪死の死亡方法を調べようと思った。

 そんな時、もう十件以上溜まったrewriteの通知が目に入った。

 あの時も気になったがこのrewriteってなんだ?


「どうしたの十六夜君? rewrite」


 カナエさんは身を乗り出し、スマホの画面を覗き込んでくる。何か言うのかと思っていたが。

 カナエさんは怪訝そうな表情をしていた。


「rewriteか、君、とんでもないものに気に入られたね」

「え?」

「君の質問に答えないとだったね。君を助けたのはただの偶然さ、吸血鬼に襲われそうになってたから助けた。ただそれだけに過ぎない」


 冷たく、淡白に言葉を並べられる、特に何か期待をしていた訳ではないから何とも思わない。それより一つ。


「もう一つ質問いいですか? 貴女も吸血鬼ですか?」

「どうしてそう思うのかな?」


 含みのある言い方に笑みをし、カナエさんは聞いてくる。吸血鬼という存在を完全に信じている訳ではない。

 けれど、あんな簡単に人? 吸血鬼? の首は飛ばない。吸血鬼の身体が強靭なのか、人間と同じ程度の耐久値なのか、それも分からない。

 どっちみち、バケモノでもないと首を飛ばせない。

 俺は彼女が吸血鬼と確信を持っている状態で、質問した。


「俺を助けたから、吸血鬼相手に殺したから」


 今、主語が全くなく咄嗟に出てきた言葉を口にした、多分理由として成立しない。いやする訳がない。


「ふふっ、十六夜君、人と喋るの下手すぎじゃない?」

「だから言っているでしょ? 人と喋る機会なんかないんですよ」

「君、本当に面白いねぇ! まぁ私は君が言う通り吸血鬼だよ」

「いざ言われても実感がない。空想上の伝説の生物」

「君──君ら人間が知らないだけで、結構身近に私たちはいる。さぁどうする?」

「どうするって?」


 カナエさんの言葉の意味を気づかなかった。

 妖艶な表情に変わり言う。


「私を警察にでも突き渡す?」

「そんな事はしませんよ。まず信じて貰える可能性は低いし、何より命の恩人なので」


 相変わらず鼻で笑い、俺の顔を観察するかのように見てくる。


「やっぱ君を助けて正解だったかもしれない」

「そっすか」


 面白い、面白いって何処がだよ、この人のツボがよく分からない。


「ねぇ十六夜君、家族はいないの?」


 またその質問か、そんなに家族がいることが重要なのか? 俺には理解ができない。


「いますよ。一人だけ、年は少ししか離れてない姉が」


 家族と言われ、真っ先に思い浮かぶのが、あの姉貴しかいない、いつも家に帰って来ず、会ったと思ったら最近はどうだ? としか言わないくそみたいな姉貴。


「仲はいいの?」

「さぁ? 俺は滅多に姉会わないので何とも言えないです。あっちはまず面倒くさいとしか思ってないかもだけど」

「やっぱドライだね」


 確かにこれはドライかもしれない。でも仕方ないと思ってしまう。

 傍に居って欲しい、姉貴は一切いなかった。逆に顔を見たくない時にはウザイくらいにいる。

 唯一の家族である彼奴(あね)が心底嫌いだ。


「吸血鬼はやっぱ血を吸うんですか?」

「そこ気になっちゃう? まぁ吸うよ。たださっきの彼奴は禁句タブーを犯した」


 禁句? 一体何のことだ? 理解できていないと、追加の説明が入った・


「私たち吸血鬼は人の血をう。だけど出血大量にし臓器を食い破ってはならぬ」


 臓器? あの時、確かに人は倒れてた、致死量の血を流していた。そこまでしか見れなかった。

 後は暗かったのと、あの男によって阻まれた。

 スマホが振動し、画面には通知が来る。

『rewrite』と表示される。まただ、一体このrewriteとはなんだ?


「どうしたの十六夜君?」


 スマホにきた通知のことを言うか迷ったが、カナエさんは何か知っていそうだった。

 それを加味して正直に教えた。すると、カナエさんは苦笑の表情を浮かべる。


「rewriteか、rewriteの意味って知っている?」

「書き換える」

「そう、正解だ、でもそいつは違う」

「その言い草だとこのrewriteが何者か知っているんですね?」

「まぁね。だけどそれを君には教えれない」


 カナエさんは悪戯っ子のような顔をし、言い切る。

 端正な顔立ちをしている為、彼女の表情、一つ、一つが絵になる。

 多分、カナエさんは嫌がらせで教えない訳ではない。本気で教えるつもりがないと思う。だったらメッセージを見るだけだ。

 スマホを操作し見ようとした時……ベットに倒れていた。


「何の真似すか?」

「君こそ何の真似? それを開いたらもう戻れなくなるよ、パンドラの箱だから」


 パンドラの箱、もう戻れなくなるという言葉を聞いて、やめる所か余計に知りたくなった。

 この好奇心、興奮は収まりそうにない。

 静止を聞かずにメッセージを開く、そこには『月の血鬼』と書かれていた。


「あぁ見ちゃったんだね? 見たからには生かしてはおけない」

「俺を殺すんですか? だったらどうぞ」


 まだ好奇心は止まらない、月の血鬼、気になる、一体何なのか知りたい。だけど、死に対しての恐怖心は一切ない。

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