鶴の恩返し編
第36話 罠と鶴
―――都を出発して、数日後。
「おっかぁ、背中のキズはどうだ?」
大八車を押しているイチゴが、心配そうに大八車に乗っているお婆さんの背中を見つめる。
「かなり良くなってきたぞ」
ニコが身を乗り出してお婆さんに問いかける。
「やっぱり桃の
「そうだな。あの
その会話を聞いていた大八車を押している桃太郎が心配そうにお婆さんに尋ねる。
「でも母上、
「たしかにな。でも少量ずつ間隔を開けて食べれば、その負担も軽減されるんじゃ」
ニコが嬉しそうにお婆さんの手を取る。
「それに母ちゃんの肌はピチピチでとっても綺麗だよ。これも
お婆さんは優しい笑顔でニコの頭を撫でた。
先頭で必死に大八車を引っ張っていたお爺さんが、お婆さん達が楽しそうに会話している事に不満を募らせる。
「バ、ババァ達、楽しそうじゃの。 わしはこんなに一生懸命に働いてるのにずるいぞ!」
「なんじゃジジィ、嫉妬でもしてしもうたか?」
「し、嫉妬なんざしとらんわい! わしはそんな器が小さくないわい!」
「ジジィ、器に大きな人間は愚痴ったりはせんぞ」
お爺さんはその言葉を聞いて言い返そうとしたが、また「器が小さい」と言われると思い我慢した。
―――すると、遠くの方から「カッカッカッカッカーーーッ」と動物の鳴き声がした。
「な、何の鳴き声だ?」
イチゴは大八車を押す手を緩め辺りをキョロキョロと見渡した。
「これは鶴の鳴き声だポン」
ニコのそばにいたブンブクはピョンと大八車に飛び乗り喋った。
「兄さん見てください。 あの木の後ろで大きな羽がバサバサと羽ばたいてます」
「本当だ。 鬼気迫る鳴き声だし、羽ばたいても飛べないみたいだな」
「兄さん行ってみましょう」
「おう!」
そういうとイチゴと桃太郎は木の後ろにいる鶴の方へと走って行った。
木のところまで到着し、二人はゆっくりと鶴の方へと顔を覗き込む。
そこには虎挟みの罠に右足を挟まれた鶴の姿があった。
鶴は「カッカッカッカッ」と必死に鳴き、罠から逃れようと暴れていた。
虎挟みのギザギザした鋭利な金属の板が、鶴の足に食い込んでいる。
その悲惨な状況に二人は生唾を飲んだ。
「おい、イチゴ。 何があったんじゃ?」
イチゴ達が鶴のところに来て間もなく、お爺さん達も鶴のところへ来た。
「なんじゃ、ブンが言った通り鶴じゃったか。 こりゃ猟師が仕掛けた罠じゃな」
お爺さんは虎挟みの罠に慣れているのか、この状況にもほとんど動揺はしてない様子だった。
しかし、三人の子供達は罠に掛かる動物を見るのが初めてで激しい動揺をしている。
特にニコの動揺は顕著で目に涙を溢れんばかりに溜めていた。
「か、母ちゃん……何とかならないの……」
ニコはお婆さんに救いを求める。
「難しいの、これは猟師が仕掛けた罠じゃ……おら達が勝手に外すことはできん……」
ニコはお婆さんの袖を掴み、何度も引っ張る。
「母ちゃん、お願い……鶴を助けて……」
あまりワガママを言わないニコがこんなにも必死になって懇願することにお婆さんは戸惑った。
この経験から世の中の厳しさを伝える事ができるかもしれない。
しかし、お婆さんはニコの願いを受け入れた。
「ジジィ、イチゴ、桃太郎、鶴の罠を外してやってくれ」
お爺さんは戸惑った表情でお婆さんを見つめる。
「本当に外して良いのか?」
「良いんじゃ。 何かあったらおらが責任を取る」
お婆さんからはっきりとOKサインをもらった三人は虎挟みを協力して外した。
「ガジャン!」
鶴の足が抜けると虎挟みは勢いよく音を鳴らした。
鶴は足を引きずる感じで立ち、お爺さん達の方を見つめていた。
そのときわずかに頭が下がり、まるでお礼のお辞儀をしているように見えた。
すると鶴は、翼を大きく広げ大空へと飛んで行った。
鶴は上空で旋回をし「カッカッカッカッーーーッ」と鳴いた。
しかしその時、遠くの岩の陰からお爺さん達を見つめる怪しい眼差しがあった。
F.T.PUNK ~昔話でヒャッハーしようぜ‼️~ サムライダイス @Samuraidice
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