第2話 神宮寺先生のふしぎな休日

1 INZM


2024年10月29日


明日は、クリニックの休診日。

今日は夕方から嵐のような天気だ。

カーテンを開けてみると、空の向こうにイナズマの光が見える。

ここの所、何かと忙しくてなかなかゆっくりすることもなくて、久しぶりに一日空いた休みになったのに明日もこの天気だと憂鬱だな。


リビングに降りていくと、曽根さんが用意しておいてくれた夕食が置かれている。

でも、父さんも曽根さんも姿がみえない。こんな天気なのに二人とも出かけたのか。


今夜はこの後、何をして過ごそうか…読みかけの本もあるし、たまっているテレビドラマもある。さてなにをして過ごそうか。

明日は自分の誕生日というのに平日ということもあって何も予定がない。

祝ってくれる彼女でもいればいいんだろうけど、しばらく彼女と呼べる人もいない身だし、仲のいい友人たちは皆仕事と自分の事でそれどころではないだろうし、しばらく連絡もとってないからな。



「ピンポーン」

曽根さんが作ってくれた夕食を食べながら考えていると、玄関のチャイムが鳴った。

こんな時間にしかもこんな嵐の中、誰だろう。

ドアフォンのモニターを見るとこの雨の中、雨合羽を着て帽子をかぶった男がうつり、銀色のパックに入った郵便物をモニターにうつした。

「宅配ですか?すぐに取りに行きます。」

そう言って玄関にいくと、すでに誰もおらず荷物だけが置かれていた。


「・・・俺宛?何だろう?」

荷物は、銀色のクッションのあるパックに黄色の宛名シールが貼ってある。

「こんな荷物が来る予定はなかったと思うけどな。」

俺は、その荷物を開けてみた。

中には、随分前の型のテレビゲームソフトのカセットが入っていた。

それ以外には何も入っていない。

そういえばこんな年代のゲーム機本体がどこかにあったはずだ。

小さい頃に叔父さんが使わないからっていくつかのソフトと一緒にくれたゲーム機だ。単純なつくりではあるけど、割と面白いゲームもあって父とたまに遊んだことがある。

父は割とゲームが得意でしかも子供相手でも手加減をしない。俺は何度も負かされて、悔し涙を流したことが。


俺はその荷物を不審に思いつつも、好奇心のほうが勝って物置からゲーム機を引っ張り出してきてつなげてみた。

丁度いい、今夜はこのゲームで遊んでみよう。


ゲームのタイトルは「INZM」。イラストには3人の男が書かれてて後ろにイナズマが走ってる。きっとイナズマというゲームなんだろう。

イラストの下に書かれたキャプションには

「音を奪われた世界、鍵となるINZMを手に入れ世界に音楽を歌声を取り戻せ。」とある。


裏面を見ると、「激しい明滅があります。ご注意ください。」と書いてある。どんなゲームなんだろう?ワクワクしながら起動した。

オープニングの画面でプレイヤーを選ぶ画面が出てきた。俺一人なので

  ▲ 1player

を選ぶ。プレイヤーの名前を入力する画面になり、JIN と入力した。


すると、ドン!!という大きな音と共に、雷に打たれた衝撃があり、強い光に包まれた。強い力に引っ張られるような感覚に襲われて、抵抗することもできずそのまま意識を失っていた。



どれぐらい意識を失っていただろうか。体を揺さぶられる衝撃で気が付いた。

「ん?ここは…?」

目の前には男が二人、心配そうな顔で俺の顔を覗いている。

一人の男が、人差し指を口の前に突き立ててシッという仕草をした。

よく見ると二人の男は、黒いサングラスをかけている。

二人とも20代後半だろうか、程よく鍛えた筋肉を惜しげもなくノースリーブのベストからのぞかせている。

男の俺が見ても見とれるほどのきれいな顔立ちをしている。

二人で何か話しているようだが、何も聞こえない。ただ二人が目を合わせて頷いているだけだ。


そして、気味が悪いぐらい無音だ。


いったいここは何処なんだ。周りを見渡しても見覚えのある景色ではない。

コンクリート打ちっぱなしのビルがところどころに立っているが、爆撃でも受けたのか、屋根が吹き飛ばされたようなビルもある。

人の気配はほとんどなく、というか生き物の気配が感じられない。見渡すと、カラスの様な鳥が見えたが、まったく鳴き声すら聞こえてこない。

人はおろか、鳥などもさえずるのをやめてしまったかのようだ。


俺は確か、リビングでゲームをしていたはずなのに。

音を奪われた世界。そうゲームには書いてあった。まさか、ゲームの世界に入ってしまったというのか?

その時、ポケットに何か違和感を感じた。スマホがいれっぱなしになっている。ポケットに入っていたスマホを確認してみた。


【2224年10月29日】


2224年!!俺が今いるのは200年後なのか?リビングでゲームをしていただけなのに。いったい何が起こっているんだろうか?

そもそも、ここはいったいどこなんだ?


顔を上げると、男達がジェスチャーで着いてこいと言っている。俺は、不審に思いはしたがここにいても何もわからないのでとにかく着いていくことにした。

男たちに着いていくとあるビルの地下のほうに入っていく。少し警戒心はあるが、とにかくここがどこなのか、ヒントが欲しくて俺はついていった。男たちが地下の一室に入ると、扉を閉めろとジェスチャーで言う。

重い扉を閉めると、男たちはサングラスを外して言った。

「JIN。やっと見つけた。俺はSHO。」

SHOと名乗った背の高いほうの男が、そう言って俺にイナズマの模様の入ったサングラスを差し出してきた。

「なんで、俺の名前知ってるの?」

「KC、説明してやってくれ。」

もう一人のKCと呼ばれた男は、俺ににやっと笑って説明してくれた。

「JIN、驚いているよね。ここは東京。君がどこから来たのかはわからないけど、今は2224年だよ。

このサングラスでみんな意思疎通をしているんだ。今この地球には音がない。先の宇宙戦争でエイリアンに音を奪われたからね。

つけてみて。このスイッチを入れて、俺のほうを向いてみて。」

KCと呼ばれた男の右上に文字が浮かんだ。

『使い方わかったかな?』

外すとKCがニコニコとこちらを見ている。

「相手の考えていることがわかるってこと?ってことは、俺の考えている事が丸わかりになるってことなの?」

「そんな丸裸にされるような道具じゃないよ。最初はそれでトラブルもあったらしいんだけど。実際声に出して言う想い以外が漏れてしまわないように、調整されているから大丈夫。

あ、独り言とかはたまにはっきり見えたりするから。気を付けてね。

外はすべての音が奪われている。だから、外の世界は無音なんだよ。でも、ここのシェルターは防音装置が付いていて、この中だけは音を出すことができる。

俺とSHOはここで音楽を生み出しているんだ。奴ら、エイリアンたちに対抗するためにね。」

周りを見ると、ギターやドラム、トラックマシーンなんかが置かれている。まるでスタジオのようだ。


「JIN。実は俺たちは、お前を探していたんだ。ずっと。宇宙戦争の後、俺たちの世界に三人の勇者が現れ、世界を元に戻すと予言されていたんだ。その三人がここに集まったってわけ。」

SHOが俺にそう言った。

「俺が勇者?どういう事?」その俺の質問を聞いていたのか聞いていなかったのか話はどんどん進んでゆく。


「それからね、体のどこかにその人のモチーフの刺青があるんだよ。ほら、俺は鏡なんだよね。ほら、首のとこ。その下に名前もあるでしょ。」

KCが首を差し出してきて、それをよく見ると鏡の刺青の下にKCと書かれている。

「JINには額の所にあるよ。イナズマの刺青。その下にJINってかいてある。」

壁にかかってた鏡で確認すると確かに額の所にイナズマの刺青とJINの文字があった。

なるほど、だからさっき俺の名前もわかったんだ。

「ちなみに、俺は目の下にある。これは勾玉の刺青なんだ。」

たしかに、彼の眼の下には勾玉の様な刺青とSHOの文字。

「この三つは三種の神器で、鏡、宝玉、そしてイナズマは宝剣なんだよ。で、君が揃えば三種の神器が揃うんだな。

俺も、SHOも実は鏡と宝玉を見つけている。この三つのアイテムが揃えば、奴らに対抗できる音と力を手に入れることができるんだ。」


どうやら、夢を見ているらしい。俺は夢の中でゲームの世界に迷い込んでしまったようだ。元の世界に戻るにはきっとこのゲームをクリアしていかなければならないのかもしれない。これは、困ったことになったと頭を抱えた。夢なのなら早く覚めてほしい。そう思ったが、なかなか覚める様子はない。そもそも、夢ってのはこんなにもリアルなものだっただろうか。昨日寝る前にみたアニメのせいなのかもしれないな。

俺は腹をくくることに決めた。


「なるほど、で俺はその宝剣とやらを見つければいいわけだ。」

「さすがJIN。話が早いね。」

SHOが嬉しそうに言った。

「でも、どうやって?土地勘もなければまだここがどこなのかすらわからないのに。それに、俺は元の世界に戻れるのかな?」

「元の世界に戻る方法は、俺たちでもわからない。でも、俺たちの世界に音を取り戻すにはJINの力が必要なんだよ。宝剣の場所には大体目星をつけてはいるんだ。」

SHOは俺の目を見て、いった。


「わかったよ。元に戻るために手を貸すことにする。」

そう俺が言うと、KCとSHOがハイタッチをし、俺にもハイタッチを求めに来た。

「ほら!!ハイタッチ!!」

2人にハイタッチをするとそのまま二人にハグされてしまった。

どうやら、この二人は底抜けに明るい人種らしい。二人の笑顔はどこかで見たことがあるような気もする。さて、どこの誰だったのか…?

なんか、学生時代の雰囲気があって懐かしい気持ちになった。


2,博物館


「JIN,早速なんだけど。2ブロック先にある崩れかけた博物館に、古代の文字で書かれた石碑の一部があるんだ。そこに書かれた文字に、宝剣のヒントが書かれているはずだ。」

そう話すSHOをKCが話を遮った。

「ちょっと待て。あの博物館はエイリアンが管理していて、なかなか入場できないんじゃなかったか?俺たち地球人は一部の選ばれた人間しか入場できないし、入場するにはIDがいる。」

「そう、なかなか入れないんだけど。実は入れる方法があったりするんだよね。KCもJINもこの服に着替えて。」

そう言ってSHOが投げてよこしたのが、清掃員の制服だった。

200年後も清掃員の制服はあまり変わってないようだ。

グレイのつなぎに着替えた俺たちにSHOは計画を話してくれた。


「あの博物館は閉館後に清掃に入るんだ。この制服は清掃会社から失敬してきた。IDはある筋で作り変えてもらった。網膜スキャンがあるから、このコンタクトレンズをつけておいて。

清掃員として潜り込んだら、古代遺跡のフロアに向かう。そこに石碑があるはずなんだ。そこまで潜り込んだら、こっちのもんだろ?」

「お前どうやってこれを手に入れたんだ?」

KCが不思議そうな顔をしていった。

「ちょっと、知り合いがね。まぁ、昨日知り合ったんだけど。

最近寝不足だっていうから、仕事代わるよって借りてきたんだ。だから今ちょっと眠ってもらってる。あ、大丈夫。危害は加えていないから。」

SHOはいともなげにそう言った。

俺たちは着替えてから、博物館へ向かった。


街の中は本当に無音だ。風の音も、鳥のさえずりも、今乗っている車の走行音さえも何も聞こえない。

俺はKCにこの世界の音がどうなったのか聞いてみた。

『この世界の音は何故消えてしまったの?どうやったらこんな無音にできるの?』

『100年ぐらい前らしいけど。例えば、子供の声とか赤ちゃんの泣き声。ピアノとかの練習音。こんな音って生活の音なんだろうけど、人によっては耳障りになって苦情を言う人が増えたんだよ。』


そういえば、俺の現実世界でも同じような苦情をいう人たちがいると聞いたことがある。

子供の声が騒音だといって、こども園の建築が中止になったり、ピアノや楽器の練習が迷惑だからとご近所トラブルになっていたり。


『で、そういう生活の音を外に漏らさないようにする装置が開発された。それはそれでよかったんだけど、その後エイリアンたちが侵略戦争を始めた。エイリアンたちは、その音の装置を侵略にいいように使った。

エイリアンたちの弱点は音だったようなんだ。装置を改造し大きくして地球のすべての音を奪ってしまった。』

『今、国はほとんどエイリアンの手の者が握ってるんだ。俺たちはとにかくこの世界に音を取り戻したい。音楽を取り戻したいんだ。

そして、エイリアンたちからこの地球を取り戻したい。

そのためには、地球の音を奪っている装置をぶっ壊す必要があると考えた。

俺たちの仲間は今は地下に潜ってレジスタンスとして活動しているんだ。KCも俺も、生まれた時から世界はこんな世界だった。俺たちはレジスタンスの両親から生まれたんだよ。だから、生まれた時から一緒なんだ。』

『その装置ってのは何処にあるの?』

俺が聞くとKCが空を見上げて言った。

『あそこだよ。月なんだ。』

『月!!月までどうやって行くの?』

『月までは、この車で行けるよ。俺たちも何度かその月まで行ってるんだが、やっぱりイナズマがないとだめなんだ。』

『この車で!!』

『あぁ、この車空も飛べるし、月までなら大気圏も超えれるよ。一度飛んでみようか?』

そう言って運転していたSHOがハンドルの横のスイッチを入れると車がふわっと宙に浮いた。

『じゃ、このままビューンと博物館まで行っちゃいましょうか』

そう言って車はすごいスピードをだして進んだ。

未来ってすごいや。


博物館に到着して裏口から侵入する。

裏口のセキュリティでIDと網膜スキャンをすると、扉がすんなり開いた。

すでに博物館は閉館しており、ひと気が全くない。

音が全くない空間というのは、意外に騒々しいものだ。

音がない分、他の情報が一気に押し寄せてくるようだな。


清掃員の控室に入り、清掃道具をもって石碑の展示してあるフロアに向かう。

途中で誰かに遭遇するかと思っていたが、誰にも会わずに石碑フロアまでたどり着いた。

『さて、これをどう運び出すかだな。』

SHOが言った。

『運び出す?これを?それは無理でしょ?』

びっくりした俺はSHOに言った。

『でも、この石碑の文字を解読しないといけないんだよ?ここで解読できる人間はいないし。だから、運び出さなきゃ。』

『そんなことしなくても、文字の解読だけならこれで大丈夫だよ。』

俺はそういって、ポケットからスマホを出してカメラアプリを起動した。

やっぱり夢なんだろうか。こういう事は都合がよくできている。


『それ、カメラってやつ?俺たちの世界ではもう古の遺物だよ。へぇ、結構便利だな。』

KCが感心しながら手元を見ている。

『この石碑の文字だね。ヒエログリフなんだね。これ解読できる人いるの?』

その石碑の写真を撮りながら、俺が言うと、

『うん、レジスタンスのメンバーの一人にかなりマニアックな考古学を趣味にしている人物がいるんだよ。その人なら解読できるはずなんだ。』

とSHOが言った。

『なるほどね。』

そう言って、俺はスマホをポケットにしまい込んだ。


その展示室を後にして出口に向かった俺たちの前方から、一人の警備員が歩いてくるのが見えた。

いかんせん、音のない世界なので音で危険を察知することができない。

ドキドキしながらすれ違う。

博物館に入る前にSHOに言われたことを思い出した。

『もし、誰かに遭遇しても絶対に目を見るな。そして、話しかけられても反応はしちゃだめ。この博物館にいるのはみんなエイリアンだ。

人の姿をしているが中身は全部エイリアンなんだよ。』


今すれ違っている警備員もエイリアンなのか。人の形をしている。

いったい見分けるにはどうしたらいいんだろうか。

そう思いながら通り過ぎようとすると、その警備員がこちらを見ていった。

「お前は誰だ。」

普通に声として聞こえる。なぜだ?思わずビクッとしてしまった。

すると、そのエイリアンの顔が目の前に現れて二カッ笑った。

つぎの瞬間、SHOに腕を捕まれ

『逃げるぞ』と駆け出した。

俺も慌てて二人について走り出した。

警備員は俺たちを追いかけてきたが、なんとか逃切り博物館の出口までたどり着いた。


『危なかったな。あいつ、まさかボイサーエイリアンだったとは。』

『あいつ、しゃべってたぞ?!! 声が聞こえたんだけど?ボイサー?何だよそれ。』

『エイリアンの中には吸音器の影響を受けないエイリアンもいてな。っていうか、あれは、実は耳で聞いているように感じるけど、本当は頭の中に直接響いているんだよ。それで聞こえているように感じるんだ。

すまん、先に言っとけばよかったな。』

KCがすまんすまんと、頭をカリカリしながら謝った。

『とにかく、捕まらなくてよかった。

ベースキャンプまで急いで帰ろう。』

俺たちは、止めていた車に乗り込んで、もと来た道を戻った。


3 ヒエログリフ


ベースキャンプに戻ってきた俺たちは、そのヒエログリフを読めるというKENという男にさっき撮ってきた写真を見せた。

KENはルーペを覗きながら、言った。

「ふーん。なるほどね。この石碑は、2070年に書かれているようだね。そんなに古いものでもないようだよ。

これは予言かな?

[矢じりが月に届くとき、大地は轟きイナズマの印が現れる。

神はその印に剣を授ける。三種の神器が揃う時、歌が蘇る。]

って書いてある。矢じりってなんだろうね。」

ふと、俺はその宇宙戦争がいつなのかってことが気になった。

「ところで、その宇宙戦争ってのはいつなんだ?」

「いまからだいたい50年ぐらい前なんだけど。」

KENが答えた。

「もう、この時代ではこのヒエログリフを解読できるのは、ほんの一部なんだよ。しかも、日本には俺しかいない。だから、奴らもこれが重要な石碑だとは気づいていなかった。たぶん、古代の人々は面白がってヒエログリフでこれを残したんじゃないのかな。」


「とりあえずその予言を読み解くことからだな。

矢じりか…それはなんだろうな。」

ふと、あることを思い出した。俺はスマホのカメラリールを漁った。

これだこれ、以前撮った、スカイツリーと月の写真だ。

SNSでたまに流れてくる写真がエモくて自分でも撮ってみたら以外にいい写真が撮れてうれしかった写真だ。


「これ、矢じりに見えないか?」

俺が、SHOとKCにその写真を見せた。その写真をSHOがまじまじと見て言った。

「きっとこれじゃね?矢じりが月に届く。でも、この建造物はもうないよ。」

「でも、大地が轟いて、大地にイナズマの印がってことは、きっとその跡地にってことじゃないのかな。JINこの建造物がある場所ってどこなの?」

KCが何か大きな紙を持ってきている。

「これは、今の地図と古地図なんだけどね。この前、骨董屋のじいさん所で見つけたんだよ。何かの役に立つかもと思ってね。」

にこにこと誇らしげにその地図を広げている。

「ねぇ、JINその写真の建造物はどこらへんなの?」

その古地図を見ると、2024年と書かれている。俺の世界じゃないか。

「えっと、スカイツリーは墨田区だから、この辺だな。押上の駅前だからここだ。」

そう言って地図を指すとKCが古地図に印をして、その上に半透明の地図を重ねる。赤で印された場所はどうやらここの場所らしい。

この世界の東京は、まるで何もない荒野だ。地図にすると、道のようなものはあるが建物がほとんとなくて、目標物になるようなものもない。

本当にこの世界が俺たちの未来なのなら、、、そう考えると空恐ろしい感情に襲われた。


「このベースキャンプがここだから、そのスカイツリー?ってのは…ここから約20キロぐらいの場所になるね。

車で行けば、そんなに時間もかからないよ。」

「じゃぁさ、大地のイナズマってのは?どういう意味?」

俺はSHOに聞いてみた。

「数年前に大きな地震があったんだよ。その時、活断層が現れているところが所々あって。それの事じゃないかな。ほら、上から見たらイナズマの様な亀裂になってるだろ。とにかく行ってみたら、わかると思うんだよね。」

「その場所にはエイリアンとかはいないのかな?」

「いないとは言い切れないんだけどね。基本的には奴らは人間の姿をしているからいまいち見分けがつかないんだ。

基本的には奴らは俺たちを襲ってきたりはしない。だから安心しても大丈夫。」

KCが俺の肩をたたきながら安心させるような声で言った。


4 剣の部屋


俺とSHO,KCはまた車に乗り込み、スカイツリーがあった場所まで移動した。

ここに本当にスカイツリーがあったのかと信じられないほどに、そこは荒廃していた。

そして、ここも騒々しいほどの静寂が漂っている。

音がないだけでここまで見える景色に色が無くなっていくものなのか。なにか心の中が空虚に感じられる。まるで世界に取り残されたような感覚に陥る。


『さて、活断層はどれなんだろうな。この辺はかなりの亀裂が見られるからな。JIN足元気を付けろよ。場所によってはまだ不安定な地盤もあるからな。』

SHOが俺の肩に手を置いて言った。

そうか、俺は1人じゃない。こいつらがいる。

KCはすでにライトをもっていろんなところを探している。

俺も二人の後について亀裂を調べていく。

『で、何を探せばいいんだっけ?』

かなり先まで行ったKCが言った。

『イナズマのヒントだよ。KC!わからずに今まで何探してたの?』

SHOが呆れて笑った。


このスカウターは結構な距離があっても会話ができるようになっているんだな。もうすでにKCとは10m以上は離れているのに、会話ができる。

どういう仕組み何だろう?


そんな事をぼんやり考えていたら、SHOが俺を呼んだ。

『JIN!!KC!あったぞ。たぶんこれだ!』

SHOの所まで走っていくと、SHOの足元にイナズマの印が付いた岩があった。

『きっとこの岩に何か仕掛けがあるんじゃないか?』

KCとSHOがその岩を押したりたたいたりしているが何も起こらない。

SHOが岩を持ち上げようとするが、ビクともしない。

俺も、どうなっているんだろうとその岩を眺めてそのイナズマのマークの所を触った時、地面が音もなく揺れた気がした。

すると、俺たちのすぐ横に大きな壁が立ちはだかるようにそびえたんだ。

もちろん、まったく音もなく揺れと共に壁が出来上がるんだ。

音のない世界とはこうも物事の迫力をなくしてしまうのかと、改めて感じた。


『JINが鍵になってるみたいだな。』

SHOとKCが目を合わせて頷いた。

『JIN、このドアもきっとお前の力じゃないと開かないんじゃないか?』

SHOが手招きしながら言った。

みると、イナズマのマークが入った扉がそこにあった。

俺はイナズマのマークに手を当てると、その扉が両側に開いた。

その先にあったのは岩に刺さったイナズマのマークの入った剣だった。


『エクスカリバーじゃん』

SHOが言った。

『ちょっと、俺が抜いてもいい?』

ちょっといたずらをしようとしている少年のような顔で俺に言った。

もし、エクスカリバーならこの剣は選ばれたものにしか抜くことができない。その選ばれた物ってのは俺の事だろう。

『いいよ、やってみなよ』

SHOはその剣を抜こうと力を入れた。

『いって!!。。。やっぱり駄目だわ。抜こうとした途端、電気の様な刺激が走った。』

SHOは痛そうに手をぶんぶんと振っている。

俺はその剣の柄を握り、腕に力を込めて引き抜いた。

剣は岩からするりと抜けて、刀身を現した。

『やっぱりJINじゃないと抜けないか。』

KCがそう言ってニヤリと笑った。


俺たちはその剣をもって、ベースキャンプに戻った。

ベースキャンプに戻るとレジスタンスのみんなが待っていた。

この地下にこんなに大勢の人たちが住んでいたのかと、驚くほどの人数が揃っていた。

一部の人たちは手に武器をもってすでに臨戦態勢だ。

ただ、他の人たちが手にしているのは、楽器だった。


俺たちが戻ったのを確認したリーダー格の男が言った。


「やっと、この時が来た。俺たちの音を取り戻す時が来たんだ。

この三人と共に、月に行って吸音装置をぶっ壊してやろう。

まず、月に行くグループは三人の援護を頼む。

地球に残るグループは俺と共に吸音装置が亡くなった時に、音楽を奏でるんだ。そうしてエイリアンたちを地球から追い出すんだ。」


「エイエイオー!!」

レジスタンスの掛け声が、この地下のホールに響き渡る。

きっとうまくいく。そう信じて俺たちは出発した。


5 月


月に到着すると、そこは俺が想像する月とはまさに「月とすっぽん」だった。

そこには街というか要塞のようなものがあった。ただ、人っ子一人いない。

『警備とかのエイリアンはいないんだね。』

『あいつらは、月の引力に負けてしまうらしいんだ。だから、あの要塞の中でしか生きられない。警備がいるとしたらあの要塞の中だよ。』

SHOがそう教えてくれた。

『ここにいるあいつらはそんなに強くないんだ。だけど、数が多い。俺とSHOで吸音装置まではたどり着いたことは何回かあった。でもな、どんどんエイリアンが湧いて出てくる。しかも三種の神器が揃ってないから吸音装置は破壊できなかった。

でも、今回はJINがいる。イナズマが揃ったんだ。きっとうまくいく。』

『頼んだぞ、JIN』

2人にそう言われて、気持ちが引き締まった。

『よし、行こうか!!』


俺たち三人と、レジスタンスの機動部隊は要塞に入っていく。

すると、俺たちに気づいたエイリアンたちがわらわらとこちらに向かってくる。エイリアンたちは俺たちの半分ぐらいの背丈で、大きな耳と大きなガラス玉のような眼、そして耳まであろうかと思う裂け目のような口をもっていた。手と足はひょろっと長く胴体は異様に細い。

そして体表は緑色だった。

まさに小さい頃に観た宇宙人の姿そのものだ。

手に小さなおもちゃの様な光線銃を持っている。それをこちらに向けて撃ってくるが、紫外線だろうか?あまり効力はない。

目に当たらない様にだけ気を付ければよさそうだ。


俺たちは自分たちに向かってくるエイリアンをはね避けながら、要塞の中心部に向かう。

そこに吸音器があるはずだ。

俺たちは向かってくるエイリアン達を押しのけながら、前に進む。

こんなに戦っているのに、周りは不気味なほど無音だ。

ここにきて少し慣れたつもりだが、やっぱり気味が悪い。


どれくらい進んだだろうか。中の迷路のような所で迷ったりもしたが、(SHOとKCは何度か来ているはずなのに道側から無くなっていた。)なんとかたどり着けた。

最後の扉を開ける。そこには見上げるほど大きな機械が音もなく静かに回っていた。

これが吸音器か。

すると、その陰から俺たちの1.5倍ほどありそうな毛むくじゃらの生き物が出てきた。まるでゴリラの様な動きをしてこちらを威嚇している。

途端にSHOもKCも身構える。俺も剣の柄を握って構えた。

『KCこんな奴前にいたか?』

『いや、初めて見たぞ』

何回も来ているという二人も、はじめて対峙する相手らしい。

『とりあえず、ちょっと俺行くわ。』

そうKCが言ってその生き物に向かって行く。

KCが回し蹴りを繰り出した。確かに当たったと思ったのに、その生き物はビクともしない。

『くそっ』

KCはそれでも果敢に立ち向かっていく。だが、その生き物は煩わしそうにKCを手で払いのける。KCは壁のほうに吹き飛ばされてしまった。

『おのれ!!』

SHOがその生き物の胸倉に突進して、生き物を突き飛ばした。

そして生き物の上に馬乗りになり、顔面に何発もパンチを繰り出す。

生き物は手と足をバタバタさせて抵抗している。

『JIN!とどめを刺してくれ!!』

俺は剣を握り締めその生き物の左胸に剣を突き刺した。

すると、その生き物は砂のように崩れて消えて行った。

『これ、音だ。人々の怒りや悲しみや妬みなんかのネガティブな音の集まりが、こんな化け物みたいな生き物を生んだんだよ。

この吸音器を放置しているとこんな生き物がどんどん増えてくるってことか?』

吹き飛ばされたKCも無事だったらしく、俺たちの所に戻ってきた。

『じゃ、さっさとこんな機械壊しちゃおうぜ。』

そう言いながら、SHOが機械によじ登っていく。

『この機械、どうやって壊すの?』

俺がKCに聞くと、

『音を吸い込む吸引部があるんだよ。この機械の一番上に。

その吸引部の横にスイッチがあるんだけどそのスイッチがSHOの勾玉なんだ。今は音を吸い込むスイッチが入ってるけど、それを吐き出すスイッチに変える。すると、そこの今は閉まっている放出口から音が放出されるんだ。

その時に、この鏡に音を集めてJINの剣に音を反射する。その音でこの機械をぶっ壊すんだよ。

あ、そうだ。この耳栓をしておいたほうがいい。すごい音たちが放出されるから耳がやられちゃうよ。』

KCは俺に耳栓を渡してニヤッとした。

『準備オッケー?』

SHOが上に到着したらしく、俺たちに合図を送ってきた。

『OK!!』

俺たちも立ち位置にスタンバイして身構えた。

『じゃ、いくよ!』

SHOのその声と共に、音の放出口が開き、強い光と共に轟音が放出された。

その光の中には、怒り、妬み、悲しみなどの音もあったが、赤ちゃんの産声や、愛のささやき、励ましなどの暖かな音もあった。

もちろん、川のせせらぎ、鳥のさえずり、犬の遠吠え、そして美しい音楽の音色も。

すべての音を取り戻す。そのために俺たちは闘っている。


その光の音をKCが鏡で集め、俺の剣に反射する。

次第に剣が重たくなってくる。耐えきれなくなってきそうな頃、

「JIN,その剣の切っ先を機械のあの赤い光に向けるんだ。」

KCが叫んだ。

俺は言われたとおりに剣の切っ先を赤いライトに向けると、剣に集まっていた光の音たちがそのライトに向かっていき、轟音と共に機械が破壊されていく。

どんどん、砂で作った城のように上のほうから崩れていく。


吸音器は、跡形もなくなった。

もう、スカウターを通して会話する必要もなくなった。

「これで、もう地球でも音が戻っているはずだ。」

SHOとKCが言った。

「さぁ、じゃ地球に戻ろう」


来た道を戻るとレジスタンスと戦っていたエイリアンたちも音が戻ったことで逃げ惑うものから悲観しているものからかなり混乱をきたしていた。

レジスタンスたちはそのエイリアンたちを呆然と眺めている。

「終わったんだな。俺たち、勝ったんだな。」レジスタンスの一人が言うと、「うおーーーーーーー!」と口々に雄叫びを上げた。


俺たちは月を後にして地球に戻った。

「そうだ、JIN。お前明日誕生日だよな。」

SHOが言った。

「え?何で知ってるの?確かに明日誕生日だけど。」

「じゃ、みんなでお祝いしなきゃな。」

KCが嬉しそうに言った。

「いや、もうお祝いとかいう年じゃないのよ。」

という俺に、

「誕生日はいくつになってもお祝いなの!」

とSHOが嬉しそうに話した。

お祝いもいいけど、俺現実の世界にはいつになったら戻れるんだろうか。



地球に到着すると、残っていたレジスタンスたちが街中で音楽を奏でていた。どうやらエイリアンたちはその音におびえて地球を逃げ出したらしい。お祭りのように歌い、演奏して、街のいたるところでみんながダンスをしている。

みんなの顔がとても幸せそうで楽しそうで、音が戻ってきて本当に良かったと思った。


SHOとKCに呼ばれた。

「JIN。今から三人で一曲やろうじゃないか。」

「曲はINZM(イナズマ)。ぶちかましちゃおうぜ。」

KCは本当に楽しいという顔をして俺に言った。

その時、また大きな音と共に目の前が明るくなりそして目の前が真っ暗になった。


6 2024年10月30日


「うぅぅ…」

俺はどうやらソファで眠ってしまったらしい。

とても長い夢を見ていたような気がする。

昨日の嵐はどうやら収まったらしく、今朝はとてもいい天気になった。朝日がとても眩しい。

昨夜、テレビをつけたまま寝てしまったようだ。テレビの電源を切って立ち上がると、膝の上から何かが滑り落ち大きな音がした。

「ん?INZM?このゲームなんか見たことがあるけど…なんだったっけ?」

すごく懐かしい気持ちになる。そして、誰か凄く会いたい懐かしい人がいるような気がする。

なんだろう、このもやもやする気持ちは。


しばらくそのゲームを眺めていた。

なにか思い出さないといけないことがあるような、とても大事なものをどこかに置いてきてしまったような、でもそれがわからずにもやもやする。

すると、「ピンポーン!」

インターフォンの音が鳴ってモニターを覗くと、そこにはあったことがないはずなのに、懐かしいと思う顔が二つあった。

モニターにぎゅうぎゅうに詰めて写ってにこにこ笑っている。

「JIN!!KCとSHOが誕生日のお祝いをしに来たよ!!」

玄関を開けると、二人が満面の笑みで立っていた。

「ほら、約束しただろ?今日はJINの誕生日なんだから、みんなお前のお祝いをするために集まってるんだよ。早く用意して、出発するぞ。」

そうだ、俺はこの二人に会いたかった、そんな気がする。


「あ、あぁ。すぐに用意するよ。」



































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神宮寺クリニック~内科医・神宮寺の処方箋~ KPenguin5 (筆吟🐧) @Aipenguin

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