エピローグ

「あ、……ああ……」


 フラフラと少年は街中を歩く。


「あっ」


 足早に歩く通行人とぶつかり尻もちをつく。


「っち」


 通行人は少年を見下ろし舌打ちをした。


「ごめん、なさい……」


 少年は頭を下げる。


「ごめん、なさい。ごめんなさい……」


 何度も何度も。しかし、少年とぶつかった通行人の姿はもうなかった。


「ごめんなさい……。ごめんなさい……」


 それでも少年は頭を下げたまま謝るのをやめなかった。

 周囲は異変に気付き、その少年を見る。

 薄汚れた服。ぼさぼさの髪。擦り傷だらけで手当すらされていない手足。

 日本の都心。そこにそぐわない姿の少年。皆不思議に思うが誰一人として声をかけない。


「……あっ」


 少年は気づく。奇異の目にさらされていることに。

 少年は走った。

 逃げる。逃げる。

 その目から。逃げなければ。誰も、誰も見ていないところに。

 路地裏に駆け込む少年。これで一安心。そう思った矢先だった。


「あっ!」


 またしても人とぶつかってしまった。


「ごめんなさい……。ごめんなさい……」


 少年は膝をつき頭を下げて、許しを乞う。


「ごめんなさい……。ごめんなさい……」

「いや、そんな謝んなくても。あーしの方こそぶつかってごめんね」


 その声は女の子のものだった。

 しかし、少女の声が聞こえていないのか、少年は謝り続けた。

 自分で自分の肩を抱き、何かに怯えるように震えていた。


「…………」


 何かを察した少女は少年の頭に手を置いた。


「!」


 その手はとても暖かかった。


「そう、親に捨てられたんだね」

「っ!」


 少年は何も喋っていない。それなのに、少女は少年の事情を全て悟ったかのように話し始めた。


「いらない子。そう言われ続けて、捨てられない様にあなたが取った行動はただ謝るだけ。そして、その結果が今のあなたなのね」


 少女は少年の頭から手を離した。既に少年の震えは止まっていた。


「ちょうどよかった。捨てられたなら、あーしが拾っても文句は言われないよね」


 少年の目の前に手が差し伸べられた。

 そこで少年は初めて顔を上げた。


「あ、あああ、………」


 少年は少女の姿を見て、涙を流した。

 その優しさ、慈愛に溢れる彼女のオーラに感動したのだ。

 もし、もしも、この世界に神様がいたならきっと彼女のことだろう。


「あーしの名前はイザナミノミコト。あなた、あーしと友達にならない?」

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異世界に行きたかったので、ネット通販で『異世界の扉』買ってみた 結生 @sji_12

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