第10話

 諦念ていねんに口出しは無用だ。

 しかし、遠くから眺めるのと、近くから同じ方を向くのとでは、いくばくか違いがあるだろう。

 欄干らんかんに乗りかかり、小川に視線を落とす。

 最後の紙片は、たゆたいながら、きらめきながら、水底に着く。散り散りになった言葉は、透明な流れの奥底で点々と引っかかり、気まぐれにまたたく。

 この景色を眺めて、小木さんは何かを諦めたらしい。すぐ隣で空を仰ぐ。それにならうと、抜けるような青空を見つける。

「うん。諦めがついた。これでしばらく大木とはお別れだね」

「きっと次はないよ」

「いいや。生きていれば、大木とはまた会うよ」

 小木さんがこちらを向いて、憂いなく微笑む。

 その表情に安心して、自然と笑みがこぼれる。

 なんとかして、またここに戻ってこよう。

「じゃあね、大木」

 小木さんが言うやいなや、空からけたたましい目覚まし音が降ってくる。

 花吹雪が舞うように、世界は紙片で白に染まっていく。

 真っ先に、河川敷のベンチで手を振る深層心理が消える。

 春風も、せせらぎも、若葉の一枚一枚も、瞬く間に消えていく。

 気づけば、声が出せない。言葉の代わりに手を降って小木さんに別れを告げる。

 そうして、深い満足とともに痛みもなく散り散りになりながら、意味消失する。

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『ちぎられた手紙』 涼宮 和喣 @waku_suzumiya

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