第5話 第17軍隊長モーブ

 魔法を使うのは勇者と戦って以来だな。勇者を育てる教え役としても、完璧に魔法を扱うことができていないと笑い者にされてしまう。


 魔法を使うには、全身に流れている魔力を消費する必要がある。手から火の玉を出したい、切り口が広がった傷を塞ぎたいなど目的を具体的に想像することで魔法は効果を発揮する。


 ちなみに、あまり魔法とは関係ないが魔眼の効果を発動するのにも魔力を消費しなければならない。常に持続していては魔力が底をついてしまうからな。


 こちらの世界の魔族が魔法を扱えるかどうかは知らないが、ひとまず俺は魔眼の能力を発動して周囲を適当に見渡してみた。


 どんなに遠く離れていても、魔眼は魔法を扱える生物の姿形を認識することができる。この破格の能力は、まさに魔王の特権である。


 「お、あれが魔王軍だな」


 意外とすんなり見つけることができた。というか、1万もの大軍が大きな岩のように動いているように魔眼には映し出されている。


 先導を歩く者。あいつだけが白色より1つ上の黄色だと判別されていることから、今回の魔王軍の統率を任せられている魔族だと一目で分かった。


 でも、あんなの見かけ倒しでしかない。


 結局、弱い生物が束になったところで強い生物には敵わない。アリファーデスの人間が魔族を倒せるようになれば、自分たち人間も魔族に対抗できるといった自信につながることだろう。


 けど、その時は今ではない。とりあえず、この魔王軍は派手に倒せないように力を加減してやらないとな。


 そうしないと、またこの国を滅ぼそうとするとき、今度は魔王の側近である幹部クラスが出陣してくるに違いない。ならべく最小限の力で魔王軍を討伐しよう。

  

 ※


 「それにしても、最弱種族である人間相手に1万もの大軍を引き連れるなんてモーブ様は非情でありませんか?」


 モーブの隣を歩く魔族が嘲笑うように言う。


 「最悪の場合を想定しての数だ。万が一、この大軍を引き連れてアリファーデスを滅ぼすことができなければ俺たち全員の首は吹き飛ばされるぞ」

 

 嘲笑う魔族とは違い、モーブは至って真剣な表情で話す。この1万もの大軍を統率している者だからこそ、そのような最悪な事態は避けなければならない。

 

 そんなことを言っておきながら、モーブも内心では人間に負けるわけがないと確信していた。だが、モーブは1万もの大軍を引き連れてまで確実にアリファーデスを滅ぼさなければならない理由があった。


 魔王が国の名前を直接口に出して命令を出すことは非常に珍しいことだった。魔王の側近である幹部たちも大きく目を見開いており驚きを隠せていなかった。


 そして、今回のアリファーデスの件は新しく第17軍隊長として昇格したモーブに任されることになったのだ。


 さらにアリファーデスを滅ぼすことができたのなら、モーブは第17軍隊長から第1軍隊長に一気に昇格できる。つまり、今回の侵攻はモーブにとって自分の実力を示し昇格できる好機なのである。

 

 「ようやく魔王軍のいる場所に着けたーー」

 「……!?」


 突然、上空から人間がモーブの目の前に降りてきた。その瞬間、モーブの両脚は生まれた小鹿のように震え始めた。他の魔族たちは眼を飛ばすように睨みつけている中、唯一モーブだけはミロの恐ろしさに気付いていた。


 しかし、何故モーブは自分が恐怖によって身動きが取れない状態に陥っているのか自分でも理解できていなかった。この感覚、どこか似たようなものを感じたことがある。


 その時、モーブの脳裏に魔王レインの姿がよぎる。


 その瞬間、モーブはミロのことを魔王レインと同様、もしくはそれ以上の存在であると足の震えと恐怖から判断したのである。

 

 絶対に敵わない存在、1万もの大軍を引き連れていてもミロには歯が立たない。


 「モーブ様、この人間早く殺してしまいましょうよ!」

 「そうですよ。本当に人間は愚かな生物ですね、手も足も出ない魔族に対抗しようとするなんて……ってあれ、モーブ様はどこに?」


 軍隊長であるモーブから許諾がないと、部下である魔族は自分勝手に行動することはできない。しかし、先程まで先導を歩いていたモーブの姿がどこにも見当たらなかった。統率者であるモーブが見当たらず、魔族たちは混乱した様子になる。


 「へぇーー、やっぱり色が違ったモーブという奴だけは冷静な判断ができるんだな」


 もう遠く離れた場所にモーブは避難していた。そのモーブがいないせいで、魔族たちはまともに連携が取れずさっきまでの強気な姿勢がなくなっていた。あっちから襲ってくる気配がなかったので、ミロは軽く首をひねり大きく息を吸って吐いた。

 

 すると、口から巨大な竜巻が生成され地面を抉りながら魔王軍に向かっていく。


 そこらにある木や魔王軍は次々に巨大な竜巻に飲み込まれていき、ミロは全ての魔族が竜巻に回収されたことを確認すると右手で指を鳴らした。


 鳴った音と同時に竜巻は消え去った。竜巻に飲み込まれた魔王軍たちは、手足の関節や首の方向などが関節とは反対に曲がった状態で地面に落ちてきた。


 

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別世界の魔王、異世界で勇者として召喚される。 大木功矢 @Xx_sora_xX

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