第54話
「む……うぅん……」
漏れ出してくる朝日に、閉じていたまぶたをゆっくりと開ける。
朝はあまり得意じゃない。
かといって夜型かと言われるとそんなこともなく、ただベッドから起き上がるのが苦手なだけだったりする。
半ば夢の中の状態でベッドから起き上がろうと心を強く持ちぐっと状態を起こそうとするけれど、何かに阻まれる形でなかなか起きれない。
見ればそこには、ぐっすりと眠っているジルがいた。
シルバーファングという魔物にもかかわらずなぜか金色な彼は、安心しているからか僕が身じろぎをしてもまったく起きる様子もない。
もふもふの心地良い感触を楽しんでから、その身体をきゅっと抱きしめる。
バナール大森林に暮らす獣人達からは聖獣様として慕われている彼だけど、何も最初から今みたいに強かったわけじゃない。
それどころか僕が彼と出会った時、ジルは誇張抜きで死にかけていた。
僕はまどろみの中で、彼と出会った時のことを思い出す――。
野蛮だと思われることの多い魔物にも、ある程度の知能というものは存在している。
ゴブリンのような本能で生きている奴らも多いけれど、ある程度群れをなすような魔物であれば助け合ったりのことはしているのだ。
更に言えば魔物は生存競争を勝ち抜き強くなればなるだけ知能指数も高くなる。
シルバーファング達の中では、ジルは間違いなく異端の子だった。
なにせ周りが皆白銀色の毛並みを持つ中で、彼だけは毛が金色なのだ。
「ガル……」
僕とジルが出会ったのは、初心者冒険者向けとされている木漏れ日の森と呼ばれる探索エリアだった。
まだ『テイマー』のジョブを身につけたばかりの頃の僕は、自分がテイムできる従魔を探すためにその場所へとやってきたのだ。
ジョブを手に入れるのは十五才になったタイミングで、王国ではこの時点で成人したと見なされる。
冒険者になることを志していた僕は『テイマー』の評価の低さに打ちのめされ……更に僕が『テイマー』界隈でもまったくのおちこぼれだったことを知り、やけになっていた。
だからほとんど戦闘能力なんかないのに、森の奥深くまで魔物を探しにやってきていたのだ。
その時に出会ったのが、ジルだった。
「くぅん……」
まだ成体にもなっておらず子犬にしか見えなかった彼の身体は、ボロボロだった。
全身に噛み痕や爪でできたひっかき傷があり、その様子は見るからに痛々しい。
僕はジルのことをじっと見つめ……そして驚いた。
僕はこの子のことをテイムできる!
『テイマー』のジョブが、僕にそう告げてくれていたのだ!
今まで感じなかった天啓を初めて授かった僕は、死にかけていたジルと一緒に命からがら森を抜け出した。
そして必死になって、虎の子のポーションを使って介抱をしたおかげもあってなんとか一命を取り留めてくれた。
「僕の従魔になってくれるかい?」
と訪ねれば、まだ子犬サイズの彼は
「あぅんっ!」
と尻尾を振りながら応えてくれた。
僕は彼にジルと名前をつけた。
ジルは僕が初めてテイムした従魔であり、僕が何もテイムできない落ちこぼれの『テイマー』でないことを教えてくれた、大切な存在だ。
僕の従魔である魔物達は皆、何かしらの事情を抱えている子達を、拾い上げてきた子達が多い。
魔物の社会も人間とそうは変わらず、他の個体と違う点があればそれだけで大きなマイナスになってしまう。
けど僕が頑張れば、彼らに人間社会での居場所を作ってあげられる。
報われないことも多かったけど、今ではこうして幸せな生活を送ることができている。
だから――
「ほらアレスさん、朝ですよ~」
「むぅ……?」
目を開けるとそこには、なぜかお玉を持ってこちらを見下ろしているイリスの姿があった。
二度寝をしたところまでは覚えてるんだけど……どうやら寝過ぎてしまったらしい。
気付けばジルの姿は既になく、外に出れば元気にご飯を食べていた。
夢を見たせいか、以前ボロボロになっていた頃の子狼の姿と彼の今の姿が重なる。
「わふ」
おいしそうに肉を食べているジルを見て、僕は今こうして彼と一緒にいる幸せをかみしめながら、マーナルムの皆と一緒に少し遅めのご飯を食べるのだった――。
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奇天烈令嬢、追放される ~変な魔道具しか作れないせいで婚約破棄されたので、隣国で気ままに暮らしていこうと思います~
不遇職『テイマー』なせいでパーティーを追放されたので、辺境でスローライフを送ります ~役立たずと追放された男、辺境開拓の手腕は一流につき……!~ しんこせい @shinnko
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