第53話

エイラちゃん含める年長組の五人をなんとか部屋の外に出すと、なんだかドッと疲れが押し寄せてきた。

 まだまだ寝れそうだから二度寝でもしようかな……と思ったけれど、思い直してベッドから起き上がる。


 汚れてもいいような格好に着替えてから、屋敷を出て従魔用の小屋へと向かう。

 向かうのは中でも一番の大きさのあるシェフの小屋だ。


 中に入ると、前に入った時と比べて更に雑然としているように感じられた。

 大量に山積みになっている木材や、薬効を抽出して生み出したのだろうポーション類、それに削って作ったらしい板材や木製の釘や革製のちょうつがいなど、僕が集落を出る頃にはなかったようなものも大量に生産されていた。


 どうやらシェフの方も改良を続けているらしく、小屋の端の方には失敗作とおぼしき何かや、何の用途に使うのかわからない物品なんかも堆く積み上げられている。


 クラフトをする関係上シェフの小屋は従魔の皆の中で一番広めに作ってあるはずなんだけれど……とてもそんな風には思えないほど、小屋の中には物が密集していた。

 足を踏み入れるスペースを探す必要があるくらいに。


「シェフ、遊びに来たよ」


「……っ!(ぽよんぽよん)」


「わわっ、ちょっと!」


 シェフは僕が来たことに気付くと、積まれている者達の間をするすると通り抜けながらこちらにやってくる。

 そしてノータイムで、こちらにぽよんっと勢いよくダイブしてきた。


「ふんっ! ぬぐぐ……」


 なんとかしてシェフを持ち上げると、入り口付近に空いていたスペースに座る。

 長いこと会っていなかったシェフはどうやらスキンシップが足りていないみたいなので、わしわしと身体を乱暴にも思えるほどになで回してやる。

 スライムのシェフは感覚が普通の生き物と比べると鈍めなので、このくらいキツめに撫でられるのが好きなのだ。


(昨日帰ってきた時はこちらに近付いてくる気配もなかったけれど……どうやらさびしさを感じていたみたいだ)


 今日は時間があるので、いっぱいかまってやることにする。

 すると……。


「ピッ!」


 魂の回廊を通じて何かを感じ取ったのか、サンダーバードのビリーもこちらに飛んできた。 頭を軽く撫でてから喉のあたりをこりこりしてやると、くたっと身体から力が抜けていく。

 シェフとビリーを愛でているうちに、なぜかずっと一緒に行動していたジルやウール達までやってきた。


 そうして僕は彼らが満足するまでスキンシップを続け……お昼になる前にクタクタになってしまい、結局二度寝をするのだった。




「アレスさ~ん、ごはんですよ~」


「んぅ……」


 まぶたをゴシゴシ擦りながら、広場に向かう。

 するとそこには既に湯気を立てている料理が並んでいた。

 現金なもので、美味しそうなご飯を見ると目が一気に覚める。


 肉だけじゃなく野菜や魚まで揃っていて、なかなかに豪勢だ。

 こんな朝食は、僕が冒険者をやっていた頃にも食べたことがない気がする。


「……」


 椅子に座れば、そこにはマーナルムの皆の姿があった。

 ウィチタ・カーリャ・イリアにエイラちゃんにオリヴィア……マレーナちゃんを筆頭に、子供達は既にご飯を食べたそうにうずうずしていた。


 その光景を見て、僕は自分の居場所に帰ってきたのだと実感する。


 この森にやってくるまでは、色々なことがあった。

 やって来てからも、気付けば他の獣人達を助けたり、人狼を倒したり、そしてなぜか大族長になっていたりと色々なことがあったように思う。


 きっとこれから更に、僕達の毎日は忙しくなっていく。

 僕にはそんな予感があった。


 けどきっと、大丈夫。

 だって今の僕は、『ラスティソード』から追放されていた頃のように一人じゃない。


 僕のことを頼ってくれる子供達がいて、それに……僕のことを好きだと言ってくれている女の子達もいて。

 彼女達と一緒なら、どんなことだって乗り越えていける。


 僕は皆と共に生きていく。

 きっとこれからも大変なこともあるかもしれない。

 けれどその何倍も、楽しいことが待っているはずだ。

 ……ううん、違うな。


 僕が、僕達が楽しい未来を作っていくんだ。


「「「いただきますっ!!」」」


 だから今日も皆で、笑ってご飯を食べよう。

 僕は今自分がここにいる幸せを噛みしめながら、皆と一緒に卓を囲む。


 僕らの辺境生活は、まだまだ始まったばかり――。

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