第52話
「むにゃ……」
マックスの特製レンガで作られた屋敷には、シェフがクラフトした木材で作られた木製の窓が取り付けられている。
基本的には換気のために、窓は開けるようにしていた。
ちなみに虫が嫌がる野草の汁を吸わせたお香を炊いているため、害虫対策もバッチリだ。
外からの心地よい風が流れてくるおかげで、部屋の室温や湿度はちょうどいい。
「ううーん……」
僕はまどろみながら、窓から差し込んでくる太陽の光に目を細める。
ぼうっとした頭でも朝がきたことはわかったけれど、すぐに立ち上がる気にはなれなかった。
身体の疲れは取れてるんだけど、寝ようと思えばまだまだ寝れそうなあの感じである。
外での寝泊まりも悪くはなかったけど、やっぱり自分のベッドに帰ってきたんだという安心感はなかなかに大きい。
もうちょっと寝ようかなと目をつむっていると……ふにん。
何か柔らかいものが当たる感触に、思わず眉根を寄せてしまう。
「きゃっ」
……何かここで聞こえてはいけない音が聞こえたような気がした。
一瞬で覚醒する意識。ゆっくりと顔を横に向けるとそこには、シャツにハーフパンツというラフな姿で寝入っているエイラちゃんの姿があった。
「なっ、なんでここにエイラちゃんが!?」
僕は寝る部屋を間違えただろうか。
半ば飛び上がるようにして起き上がり室内を見渡すが、間違いなく僕の部屋だった。
となるとエイラちゃんが、間違えて入ってきてしまったんだろう。
まったくしょうがない子である。
ふふっと軽く笑いながら、ぐっすりと寝入っている様子のエイラちゃんを見つめる。
「こうやって黙っていれば、普通の美少女なんだけどなぁ……」
「ぐふっ」
思わず考えていたことを口に出すと、変な音が聞こえてきた
なんだろう、今の?
眠っているエイラちゃんの方から聞こえてきた気がするけど……流石に気のせいだよね。
立ち上がり、エイラちゃんの髪を軽く撫でる。
獣人がけもみみを触らせるのは大事な人だけという話なので、耳には触れないように気をつける。
前髪をなでつけて軽く整えてあげていると、ドアが開いた。
「アレスさん、朝です……よっ!?」
やってきたのはどこか眠そうな顔をしているウィチタだ。
やっぱり疲れがまだまだ取れてないのかな、なんて考えていると彼女の視線が僕の方を向き、僕のベッドで眠っているエイラちゃんの方へいき、そしてまた僕の方へ戻ってきた。
「なっ、なななななっ!?」
赤くなったかと思ったら次の瞬間には青くなりと、百面相をし始めるウィチタ。
壊れた魔道具のように変な音を発している彼女の声に、寝入っていたエイラちゃんがゆっくりと目を覚ます。
「エイラッ、一人ぬけがけしたなっ!」
「恋と狩りは手段を選ばない。獣人の常識でしょ?」
「ぐぬぬ……」
ふふんと大人ぶった顔をするエイラちゃん。
歯噛みするウィチタの機嫌がみるみるうちに悪くなっていく。
嫌な予感がしたかと思うと、その感覚はすぐに的中した。
彼女の矛先が、所在なく片膝立ちになっていた僕の方に向いたのだ。
「アレスさんもアレスさんです! いくら誘惑をされたからといえ、一番最初はエイラではなく、その……なんでもありません!」
自分で言って恥ずかしくなったのか、顔を真っ赤にするウィチタ。
その様子を見ていて、なんだか僕の方まで気恥ずかしくなってきてしまう。
何やら彼女は大きな誤解をしているようだ。
その誤解はしっかりと解かなくては。
「ウィチタ、何か勘違いしてない? 僕が寝てるところにエイラちゃんが入ってきただけで、特に何もなかったよ?」
「……へ? そうなのですか?」
こくりと頷くエイラちゃんを見て、ウィチタの顔がますます赤くなった。
「そ……それならそうと言ってください! 紛らわしいです!」
「うん、ごめんね」
ちょっぴり理不尽な気がするけど、これでウィチタが機嫌を治してくれるならそれが一番だ。
僕がウィチタのちょっと見当のズレたお説教を聞きながら時間が経過するのを待っていると……。
「あらあら、修羅場ですねぇ」
「修羅場」
騒ぎ声を聞きつけてイリア達までやってきた。
「それならきっちりと順番を守るようにすればいいんです」
そう口にしたオリヴィアの発案が満場一致(僕を除く)で可決され、僕の寝床にウィチタ達が順番こにやってくることが決まってしまったのだった。
し……仕方ないじゃないか!
女の子五人に迫られて、上手く断ることができるほど慣れてないんだもん!
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