第51話
アレスがぐっすりと眠っている間に、ウィチタ達マーナルムの年長組は一つの屋敷にひっそりと集まっていた。
何かないようにシルバーファングを寝入っている子供達の護衛につけて、用意も万全に整えている。
「えー、こほん」
そういって咳をするのはこの中では一番年若いエイラだった。
「それじゃあウィチタ、色々と教えてくれるかな?」
「ああ、もちろん」
今回アレスからある程度の話は聞いたものの、子供達もいる都合上基本的な話は上澄み部分に留まっていた。
はしょっている部分や悩んだ末に採らなかった選択肢など、話していない話はいくらでもある。
皆から目を向けられたウィチタはなるべく詳細に話をするよう、時折目を閉じて記憶を掘り返しながら、集落を後にしてからのことをゆっくりと回想していく。
『疾風のたてがみ』でのやりとりから『猛る牙』に向かってからの人狼討伐騒ぎまで。
カーリャの補足も挟みつつ、全員にかみ砕いて説明をしていく。
ここに帰ってくるまでの話が終わり、一息ついた面々だったが、再び口を開いたウィチタの一言によってその状況が一変する。
「実は道中、そういう流れになったのでここにいる全員がアレスさんのことを好きだということを話したんだけど……」
ウィチタの言葉に、全員がごくりと息を飲む。
ここにいる五人全員が、アレスのことを異性として好いている。
元々獣人は強い人に惹かれやすい性質を持つ。
故に純粋な戦闘能力はさほど高いとは言えないアレスに好意を持つ理由がないと思われるかもしれない。
けれど彼女達の目線から見れば、アレスはその使役する聖獣達まで含めてアレスなのだ。
更に言えば強い人というのは、何も戦闘能力に限らない。
生活能力を持っている。
自分より弱い物に救いの手を差し伸べることができる。
それらもまた、強さを構成する要素の一つなのだから。
高い戦闘能力を持つジルやマリー。
特殊な力を持っているマックスやシェフやウール。
彼らと共にあり、また誰とも知らぬ自分達を救い出してくれたアレスという存在は、彼女達にとってあまりにも大きなものだった。
当の本人はまったく気付いていないのだが、ウィチタ達がアレスへ持つ好意は非常に大きい。
だが彼女達は何よりアレスに迷惑を駆けたくないと思っている。
恋心が暴走して問題が起きないよう、抜け駆けは禁止にしようということで秘密裏に協定を結んでいたのだ。
何かあるまでは現状維持を続けようという形でコンセンサスも取れていた。
ちなみにだが、子供達の中にも将来はアレスと恋仲に……と考えている子達も多いのだ。
アレスは自分が想像する以上に、モテモテなのである。
「好意については嬉しいって言ってた……でも今すぐには答えが出せないって」
ウィチタの言葉に、残る四人がきゃーっと黄色い声を上げる。
カーリャは秘かに『疾風のたてがみ』からもらってきていた酒をどこかから取り出す。
お酒を舌の潤滑油にして、全員がかしましく話し始める。
そこから先はガールズトークに花が咲き、時間を忘れて語り合うことになった。
彼女達の夜は、まだまだ終わらないのであった……。
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