第5話アリスという少女

「……いいだろう」

俺は少女が家に来てもいいと回答した。正直、この選択が正しいのかどうかわからないが、俺の家には義賊に見られても困るようなものは置いていない。

「(即答!あまりにも警戒心がなさすぎる!!大丈夫なのこの人?もしかして、これは罠なの?家に入ったらリベルタの隊員たちがいっぱいいて、……もしくは家に入った瞬間にこの人に押し倒されるのかも?だって、おかしいもん。見ず知らずの犯罪者を家に入れるのって)」

困惑しているような女を見ながら俺はずんずんと中へと入っていく。

「入らないのか?」

女は周囲を見渡し、周りに人影がいないことを確認すると慎重に中へと入った。

「一人で住んでるんですっけ?」

「ああ、家族は全員死んだからな」

気まずい雰囲気が流れる。俺自身は家族がいないことに関してどうもおもっていないのだが、この話題を出すとどうしてもこんな感じの雰囲気になってしまう。相手側に気遣われているというのを感じる。

「その割に広い家ですね……」

「前には家族三人で住んでたからな」

そういうと、女はまた気まずい顔をする。別にいいのに。というか、こいつは人のものを盗む癖に別に人の気持ちがわからないというわけではないんだな。俺は女を大きなテレビとソファが置いてあるリビングにとりあえず、通した。

「大きなテレビですね」

「盗もうとか考えるなよ、高かったんだからな」

一応忠告はしておいた。

「失礼な!私がものを盗むのは不正に儲けてる人たちだけです。一般市民は狙いませんよ」

そうだろうな、だから義賊と呼ばれているのだ。

「座れ」

とりあえず、俺はソファに彼女を座らせた。彼女はソファを少し叩いてから息を吐いて座る。

「(一応発信機とかはなさそう?)」

事前に作っておいたお茶を出して、俺は話を聞くことにした。

「それで?今日は何の要件だ?」

義賊自らが接触してきたということはなにかしら俺に話すことがあったのではないか。そう俺は考えている。

義賊は俺が渡した茶を注意深く観察したうえで口を付けた。

「奴隷制度についてどう思ってます?」

質問の方向性がよくわからないが、一応答えておこう。

「正直、俺が子供の時はまだあった制度だったがその頃からあまり好きではなかった。奴隷と奴隷じゃないやつはどう違うのかとか、なぜ奴隷の子供として生まれただけで奴隷にならなくてはいけないのかだとか、あのころには理解できないことが多かった。廃止になった今も、奴隷制度そのものには反対だ。人は自由に生きるべきで何者にも束縛されるべきでないと思う」

俺のその答えを聞くと、義賊は少しうれしそうな顔をした、気がした。はっきりとした変化は表情には出していなかった。

「私もそう同じような考え。だから、奴隷制度が廃止になっているこの国は素晴らしいと思うし周辺の国も変えていくべきだと思う。でも、アーリエスでさえもその法律が順守されているとは言い難い」

「まだ、奴隷市場が残っているということか……」

頭が痛い問題である。奴隷市場の摘発が進んでいないということはリベルタの失態でもあるからだ。

「まあ、しょうがないよね。大体隠れていたり、地位が高い貴族が隠蔽しようとしてるんだもの」

「しょうがないで済ますことができる問題ではないがな」

奴隷という存在がどこから連れてこられるかは容易に想像できる。貧乏な家々から攫ってくるのだ。そんな蛮行は許すことができない。

「ねえ、アギアスさん」

彼女は口元に笑みを浮かべそう言葉を発したようだった。

「なんだ?」

「私とあなた、協力できると思うんだ」

そういう話か。

「具体的には?どういうことをしたいんだ?」

うーんと、指先を口元へと持っていく。

「前みたいに、奴隷市場を一緒に潰すとかでもいいし」

「正直、あれは発見した時点で通報していれば良かった話だろ。俺らが余計な立ち回りをしてしまったせいで首謀者を逃がしてしまった」

変に私設兵と戦うと思わず即座に連絡していれば防げた逃亡だ。

「これから大規模な奴隷市場を潰すにあたって、強いやつがそばにいたほうがいいんだよね」

強い、強いといえばそうだ。

「そういえばお前、何者だ?」

軽く戦ってみた感想だがどう考えてもリベルタA級隊員では話にならないほどの強さだ。S級の俺とほぼ互角な気がする。

「アリスと覚えてくれればいいよ」

「そういうことじゃない、どこでその戦闘術を覚えた?」

目の前の女はそれを聞くと困ったような表情を浮かべた。

「秘密……かな?」

あどけない笑みを俺に対して浮かべた。

「お前、アーリエス以外の国のスパイか?」

俺は割とその可能性が高そうだなと考えた。

「いや、違うね。ただの市民の幸せを願うものさ」

その言葉に嘘がなさそうだなと、俺は思いこちらに延ばされていた女の手を握ることにした。

「よろしく頼むぞ、リベルタS級隊員のアギアスという」

「こちらこそよろしく、アリスです。義賊をやっていて巷ではマンキューと呼ばれています」

こいつと協力したら俺の真の目標達成することができるのではないかとひそかな思いを秘めながら俺は彼女と協力することを決めたのだった。









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アリスがための世界 絶対に怯ませたいトゲキッス @yukat0703

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