最終話 献花
「久米さん!」
ぼくは大慌てで、話しかけていく。
「永代警部が死んだって本当ですか!?」
「はい…それも、例の廃トンネルで首を吊って死んでいたようです…」
「…あの廃トンネルで…」
「しかも…遺書まで発見されたんですよ。自分が4人目だったと告白する遺書が…。小宮くん……もう、私には何が何だか…」
その後の警察の調査で。筆跡鑑定で、遺書は本人が書いたものと断定された。少し、字がぐにゃっとしていたようだが。
その遺書の内容は、自分が十数年前の女子大生殺害事件の、4人目の体液の主であり、犯行を自白するもので……良心の呵責を感じ、自殺しようと思い至ったようだった。
よって警察は、永代警部の首吊りを、自殺として処理していく。
「…久米さん。体液は、一致しましたか?」
「…はい。永代警部…いや、永代のDNAは。4人目のそれと、一致しました。…死体のポケットからも、私的に撮ったとしか思えない二見恵美さんの写真がいくつも見つかり…。確定です」
「そうですか…」
そして久米さんは、静かに口を開いていく。
「私はね。驚いてるんですよ。…十数年前にも鑑識として参加してたとき、永代は、平然と捜査していました。平然と捜査してたんですよ」
ぼくは、そこに末恐ろしいものを感じていた。久米さんが先ほど呼び方を永代と言い換えたのも、同じ警察としての憤りもあるのだろうと思う。実際ぼく自身も、もはや警部と付けるのもはばかれる気持ちになっていた。
「だから…思うんです。そのような人物が、本当に良心の呵責で…自殺しようなどと思ったのかと…」
「……もう少し調べてみたいです」
ぼくは久米さんに同調し、そして… 廃トンネルに向かうまでの途中に、永代が映ったものを…見つけた。
それは、首吊り用のロープを購入するところで…そのホームセンターの防犯カメラに映ってた…わけだが……――
「何ですかこれ…」
寝間着姿で、目はうつろだった。明らかに、“普通”ではない…
「…久米さん。永代の死体から、アルコールは検出されましたか?」
「いえ…」
ということは、酔って、ゆえに……という線はなさそうである。
「薬物反応も…?」
「…ないです、そんなものは」
「そう…ですか」
他にも調べたが、永代に精神錯乱等の病歴もない。
ない…
…では。
どう説明がつくというのか…?
改めて永代を見てみる。目の焦点が合っていない。まるで何者かに操られてるかのような…。
何か霊的なものを感じた。
いや、科学的捜査を信奉するはずの警察が、こんな発想をしてはいけないのは分かってるけど、でも……
……
…
後日。ぼくは…廃トンネルの出入り口へと来ていた。
…立ち入り禁止になっていて。
…そりゃ、そうだ。ここまで立て続けに事件が起こったのだから。
「それでもぼくは…」
中へと入っていく…。
そして…
着く。
……トンネル出入り口から…40メートル離れた…このあたり…だ。
二見恵美さんが…亡くなった場所…。
そこに白い花を……置く。……献花したんだ。
…今までのことを振り返る。本当に…酷い事件だった…。
…もし少しでも……悲しみを癒すことができれば……っ
「どうか…安らかに眠れますように……」
そう、手を合わせて言った… そのときだった。
「…終わらせてくれてありがとう…」
声が…聞こえた。…振り返るも、誰もいない。
ぼくは、静寂の中で口にした。
「…幽霊は本当にいるのかもしれないな」
終
廃トンネルの殺人 夢原幻作 @yumeharagensaku
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