第4話 4人目


『これは無差別殺人ですよ…!』


 斎藤洋樹の言い分は正しかった。


 彼が廃トンネルで死体になったことで……警察は見方を改めた。


「怨恨の線だとしても、同じ場所で連続して死体があがるのは…不自然ですな?」

「そうですねぇ…。怨恨ではなく、その場所に訪れた人間を無差別に殺してると見たほうが…よさそうですね」


 俺は電話で、警察幹部にそう連絡する。


「では、今後はその線で捜査を開始してください。期待してますよ。永代警部」

「はい…。任せてください」


 そう言い終わり、俺は電話を切る。


 …俺の名前は、永代征司ながしろせいじ

警部で。……今回の事件の指揮を、まさに預かっている最中だ。


 …というか。この廃トンネルの事件とは、以前から俺は関わりをもっている。



 なぜなら… 十数年前に起こった殺人事件……当時女子大生だった二見恵美が殺害された事件。あのときも俺は、刑事として捜査にたずさわっていたから。


「男3人はもう死刑になったってのに、また事件が起こるとは。訳分かんねぇなー…まったく」


 ともかく、指揮を預かる警察である以上、事件を解決に…導かねぇとだな…


「おい。小宮」

「は、はい」


 俺は、頼りなさそうな弱輩の小宮こみや刑事を呼び出した。


「お前、おとりになれ」

「おとり…ですか?」

「あぁ。今回の事件、廃トンネルでの無差別殺人の線が、強まったんだよなぁ」

「えっと、つまり…ぼくがその場所でおとりになり、犯人が殺しにきたところを…ってことですね?」


「そうだよ。たまには俺の役に立ってみせろ?」

「はい…全力を尽くします」

「ま、仮にそれで死んでも、2階級特進するんじゃないか? よかったなぁ」

「そうですね…」


 そんなわけで。事件から日が浅いうちに、すぐにでも、こいつにおとり役をやらせて…


 すると…


 現場となった廃トンネル近くに女がいたので、小宮がそいつに話しかける。



 で、女が包丁を取り出すところを目撃した。



 うまくいったなぁ。俺は拡声器で大声を上げ、さっそく包囲させた。


「……ん?」


 一瞬、その女の顔を見たとき、見覚えがある人間だと分かった。


 まさかこんなところで。


 二見恵美の姉、二見紗耶にお目にかかるとは?


 この女のことは…知っていた。当時の事件で、男3人を死刑にと懇願していた女で、印象に残っていたからだ。

その本人が、この場所で連続殺人を犯したってか? 笑えるねぇ。


 やがて女は、トンネル内へと逃げた。



 警官隊が…トンネル内で倒れている二見紗耶を発見したのは、すぐのことだった。



 二見紗耶に、すでに息はなかった。


 青酸カリで自殺をしていたようだった。



「これで事件は解決ですね~」


 俺は鑑識の久米くめさんに話しかけた。


「そう…なんでしょうけれど…。今回の事件、どうにも腑に落ちない点がありまして…」


「…というと?」


 俺は久米さんに問いかけ、すると彼はこう答えた。


「…木村和馬と斎藤洋樹が亡くなったとき、警察はどうやって知ったのか。それは、匿名の通報があったからだと聞いています」

「それは、存じてますよ。現場近くの警察署に、電話が来たんですよね?」


 そこは、警察資料にも目を通していたので、知ってはいた。


「女性の声…だったようです。木村和馬のときも、斎藤洋樹のときも」


「それが、どうしたんですか?」


「何か、変じゃありませんか? 一回だけなら通りすがりの女性が…で説明がついても、二回続けて、それも同じ場所でというのは、何か……」


 彼の言いたいことは分かった。


 あのような人気ひとけのない場所に、女性が連続して事件に立ち会うものなのか?と言いたいのだろう。その通報者の女性に関しては、どのような素性の人物なのかはいまだによく分かってない。


「何よりも謎なのは… 4人目ですよ…」

「4人目って、あぁ、十数年前の?」

「はい…。私はあの事件でも当時、鑑識をしてたんですが…。だからこそ思うんです。あの4人目の体液は、一体誰のものなんだと」


「やはり、引っかかりますか?」

「そりゃそうですよ。男3人は、そんな仲間は知らないって言うわけでして……」

「…つまり…?」

「…男3人が立ち去った後に、新たな4人目が来て…被害者によからぬ行為をした、ということになるのでしょうが…」


 顔を歪ませる久米さんに、俺は心中でつぶやいた。


 4人目が誰かは知っていると。


 …俺のことなんだけどな?


 ははは………っ



 俺の、ある種の性癖が生まれたのは、小学生のときだった。


 目の前で…交通事故が起こって…


 通行人が死亡したんだが、その人間の中身がいろいろ飛び出ていたりと、とにかくグロテスクな死体を目の当たりにした。


 そのときは。気持ち悪いという感情が上回ってたんだが?


 数日が経過した頃から……快感に変わっていく……


 無残な死体を直接目にしたいという思いから、やがて警察を志すようになった。


 そんな動機を隠したまま警察内部に侵入したわけだが…


 なかなか、思うような事件には立ち会えず。まぁ、過去の事件を警察資料として目を通すことはできたが……やはりなんというか……その現場に直接、立ち会ってるわけではないので……味気はない……


「……はぁ」


 ため息をついた。何か、むごい事件でも起きたりしねぇか……? 特にこんな人目のない場所とか、人を殺すにはうってつけじゃないか? そう思いながら廃トンネル近くで車中泊をしていた、まさにそのときだった。


「いやぁ…!!」


 事件性のある悲鳴が聞こえた気がした。


 こ、これは、もしや…!!

俺はすぐに車を降りて、その場所へと向かう。


 …若い女性が… 男3人にトンネル内へと引きずられていく光景を目撃した。



 ……まぁ、警察としては。


 車のクラクションを鳴らしたり、というか、車に常備してある発煙筒でもトンネルに投げ込めば、男たちは何事かと外へと出てくるかもしれないな? それ以上の犯行は中断させられるかもしれないな?


 だが、俺はそれはしなかった。犯行…おそらくは強姦だろう…思う存分やってくれ…!?


 ……やがて……男3人は外へと出てくる。


「事は……済んだようだな……?」


 俺は嬉々としてトンネル内へと入っていく。


 そこには…


 思った通りの…変わり果てた女性の姿が…



 そこで気づく。性的な香りはともかく、アーモンド臭が漂ってることに。


 青酸カリで毒殺?


「なかなか変わった趣味を持っていらっしゃる?」


 普通ではないだろうなあという状況なのであり、よりよく興奮させる他なかったのだ………


 俺は女性の顔や肢体をまじまじと見つめる。見つめ、見つめ……



 ……やがて


 行為を終えて……


 しかし。


 このままただ帰るのももったいないと思って、俺は写真を撮ることに。


「こんな死体はなかなかお目にかかれるものではないし」


 女性の様々な部分を、いろんな角度から、フィルムに収めた。


 記念だ


 警察として現場検証する際に写真を撮ることにはなっても、やっぱり、私的な写真も持っておくにこしたことはないよなあ………



 こうして俺は帰った後、警察として、再び現場検証に参加した。もう1回見れて嬉しいと思った。



「もう、十数年前の出来事かー…」


 まるで昨日のことのように思い返す。


 ともかく俺は、二見紗耶の自殺の件を済ませ、自宅へと帰った。


 で、寝る前に… 廃トンネルの写真を棚から取り出す。


「やっぱり撮っててよかったなあ」


 女性の死体を見て悦に浸った後で、就寝したのである。



 ……


 …


 人の気配がした。


 俺は視線を横に向けると、ベッドのそばに二人立っていた。


 女性二人が俺を見下ろしている。


 ……誰?


 ぼんやりしながら目をこらすと、二見紗耶がいた。


 あれ? 死んだはずでは?


 ぼんやりしながら目をこらすと、もう片方は、さっき写真で見てた人物だった。


 ……二見恵美……? そのときだった。



「お前は死なないといけない」


 そんな声が聞こえた気がした。


 ?


 ……


 …


 お前は死なないといけないお前は死なないといけないお前は死なないといけないお前は死なないといけないお前は死なないといけないお前は死なないといけないお前は死なないといけないお前は死なないといけないお前は死なないといけないお前は死なないといけないお前は死なないといけないお前は死なないといけない



 なぜか部屋が真っ赤に包まれた


 俺は 声にもならない声を上げることになって



「あ……あぁぁああ……!!!」



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