第二斬 SランクvsSランク
第二斬 SランクvsSランク
「来ないでって…」
俺はカウンターに置かれた水晶を覗く。
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名前:ソラキリ・トウマ 年齢:26
犯罪履歴
・殺人×100〜
・殺人未遂×1
・器物破損×100〜
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(これは…)
これは前の世界での俺の功績だ。
殺人といっても、世界が荒れていた時の自己防衛や、反乱を起こす者を始末しただけ。あの世界じゃそれが普通であるため、仕方ないと言えば仕方ない。
「勘違いしないでほしい。ここに写ってるのは俺のいたせか…ところでは普通だったんだ。」
俺は弁明をしようとするが
「い、いやー!」
話を聞かないのにとどまらず、大きな声で叫ぶ。
その声にギルド中の視線が集まり、さらには
「どうしたんだ?そんなに取り乱して…」
顔に大きな古傷を持つ大男が、禿げた頭を掻きながらやってきた。
「ぎ、ギルマス!」
受付嬢はその男を見ると、上手く立てない状態で必死に助けを求める。
「ほぅ…」
そして未だ白い光を放つ水晶を見たギルマスと呼ばれる男は言った。
「トウマとやら。お前、ナニモンだ?」
その眼差しは獲物を狙う猛獣のようで、その威圧感からは数々の修羅場を潜ってきたことがわかる。
「さっきここに来たただの剣士だ。別に危害を加えるつもりもなけりゃ、そこに写ってることも悪いことじゃねーよ。」
それから数秒。真偽を見定めるかのように俺の目を見つめるギルマスだが、諦めたかのように溜め息を吐いた。
「はぁ、嘘を吐いてるようには見えんが、それにしてもこの人数…殺人が百人以上なのに未遂、つまりミスが一回しかない。」
ギルマスは「ふむ」と一息。
嫌な予感がする。
「お前の実力、ただものじゃねー。初期ランクで放置するのは勿体無い。」
ニヤリと笑うギスマスに対して、俺は逃げようとも考えるが、身分証となるギルドカードがないとこの先不便になることは分かりきっているので、それもできない。
「この俺との模擬戦に勝てたなら、お前はAランクだ。」
「断る。メリットがない。」
俺はその提案を一刀両断。
「いやいや、高ランクになるとギルド運営の宿屋が無料になったり、酒場のメニューが安くなったり、しっかりメリットはあるぞ。」
ギルマスはなぜか必死に俺との模擬戦を望んでくる。
ここで嘘を吐いてもすぐにバレるのはギルマスもわっかていると思うから、今の言葉は本当のはず。
もしギルドを多用するのであれば、小さな出費を抑えといて損はない。
だが、
「それはわっかたが、何が目的だ?」
あきらかに裏がある。
なぜ、そこまでして俺と剣を交える必要がある?
そんな眼差しを向けると
「なーに元【Sランク冒険者】として、実力者と手合わせがしたいだけさ!」
ガハハと豪華に笑うギルマス。
本音半分、嘘半分といったところか。
しかし、俺の頭にあるのは【Sランク冒険者】という言葉。
俺も前の世界ではSランクの能力者。
前の世界では俺に勝てるSはいなかったが、こちらの世界のSなら楽しませてくれるかもしれない。
「ふはは!面白い。いいとも、ぜひやろう。」
俺はその好奇心から勝負を受けた。
失望させるなよ?ギルドマスター。
そうして移動した先にあったのは、四方が石に囲われたそこそこに広い空間だった。
上にある観客席には酔っ払ったギャラリーたちが賭け事を楽しんでいた。
聞こえる声からギルマス9の俺が1。
俺の実力を知らないとはいえ、ここまでの信頼が集まる男。弱いはずがない。
今、俺の手には木剣が、ギルマスの手にはしっかり刃のついた斧が握られていた。
「トウマ、お前も腰の真剣を使えよ。」
ギルマスが俺の愛剣を指さす。
「いや、これでいい。こいつでやると殺しかねないからな。」
俺が言うと
「舐められたもんだな。後悔するなよ?」
ニヤリと、しかし本気の眼差しで斧を構えるギルマス。
そしてお互いがほぼ同タイミングで地を蹴り、戦いの火蓋は切られた。
ひとつ言っておこう。【全てを斬る能力】は木剣によって発動しない。
切れ味がどうであれ、刃物でないと発動しない。
だから俺は能力なしの純粋な剣技だけで戦うのだ。
木剣と斧が衝突する。
だが、俺の刀身は斧の柄を捉え、俺の腕力により拮抗する。
それに対しギルマスは体重を乗せ、俺は押され気味になる。
「【
さらに、ギルマスが唱えると、その重さは何倍にも膨れ上がり拮抗状態は崩れる。
俺はすかさず木剣を傾けることでそれを流す。
「魔法ってやつか…」
「いーや、これはスキルだ。」
難しい。スキルと魔法の違いがいまいちわからない。
「おい、あの男、ギルマスといい勝負してるぞ!」
「嘘だろ?ギルマスは現役時代に比べれば劣ってるらしいけど、それでもAランクパーティを一人で相手にできるんだぞ?」
俺が考えながら決して遅くないギルマスの攻撃をいなしていると、そんなギャラリーの声が聞こえる。
「トウマよ、お前のその実力は普通じゃねー。それはわかるだろ?」
「まあ、少なくともこの戦いを見てる酔っ払い共には負けない程度には強いな。」
「そんなんに収まる玉じゃないが…その実力、どこでつけた?」
攻撃の手を一切緩めずにそんな問いかけをしてくるギルマス。
それに俺はしばし考えた後に答える。
「別の世界だ。こっちの世界じゃどうか知らないが、俺は生きるためにも、正義のためにも人を斬り、その実力を身につけた。」
「別の世界ねー。この王国じゃ見ねーが、帝国にあるスラムとか呼ばれる場所か。」
しかし、ギルマスは俺の言葉を別の意味で捉える。
別の世界って比喩表現じゃないのだが、異世界から来たことを説明するのもめんどくさいので放置することにしよう。
「で、そんな呑気に話してていいのか?」
防戦一方だった俺は、タイミングを見て反撃に移る。
攻撃の際、重心となった右足を払い、体制が崩れたところできれいに六つ整った腹部に蹴りを入れる。
すかさず斧を盾にダメージを防いだギルマスだが、その巨大な体躯は数十メートル吹き飛ぶ。
そして転がった状態から起き上がるまでの間に距離を詰め、とどめを
「参った!降参だ、降参。」
刺そうとしたところで、そんな声が響いた。
まあ、わかっていた。
ギルマスは本気を出していない。だからこそ簡単に勝てる。
もし本気を出されていたら、こんな脆い木剣など初撃で粉砕していたはずだ。
彼から感じた圧力、流石の俺も能力なしで勝てるわけない。
「なぜ本気を出さなかった?」
「はは、バレてたか。ま、俺とトウマが本気でやったら確実にどちらかが死んでたからな。」
俺の問いに笑って答えるギルマス。
俺だって、殺し合いがしたいわけじゃない。だから、ギルマスの判断は正しかったわけだ。
「ま、約束通り、トウマは今日からAランク冒険者だ。」
ギルマスは先程俺を担当した受付嬢を呼び、俺に大きく『A』と書かれたカードを渡す。
まだ、怯えた様子の受付嬢は、俺がカードを受け取った瞬間に裏へと逃げていった。
「それじゃ、身分証も手に入ったことだし門番に報告してくる。」
「意外と律儀なんだな。」
「うるせーよ。」
ギルドカードをポケットに仕舞い、俺はギルドを後にした。
異世界に来て初めて会った人間である門番二人に報告をしたら、目を丸くされたがすぐに祝福してもらえた。
この世界の人間はいい奴が多い。
元の世界とは違った戦術の強者もいたことだし、なんやかんや異世界とはいいものかもしれない。
そんなことを考えながら、俺の異世界生活は本格的に幕を開いたのであった。
─〈side勇者〉─
「危ないっ!」
それは久しぶりの雨の日だった。
天気予報が大きく外れ、傘もないのに土砂降りの大雨。
周りにはカバンを傘がわりに走る僕と同じ高校の制服を身に纏う男子や、一つの傘にぎゅうぎゅうになりながら楽しそうに笑い合う女の子たち。
僕も風邪を引かないよう急いで帰路を駆けていたのだが、視界の端に映ったその光景に思わず声を荒げながら走ってしまう。
風に吹かれ道路まで飛んだ傘を取りに行く小さな女の子。そしてその小さな体を認識できていないスピードを緩めることのないトラック。
今僕にできるのは、女の子を突き飛ばして守ること。
足に今までにないくらい力が篭る。鍛冶場の馬鹿力というやつだろう。
なんとか女の子の背中に手が届いた。
「え?」
女の子が素っ頓狂な声を出す。
しかしその短い声は、なぜか何十倍もの時間に引き延ばされる。
走ってる間に離してしまったカバンが、まるで風船が落ちるようにゆっくりと落ちる。
周りの人達が驚いた目で僕を見る。
そして最後に見た光景、それはけたたましいブレーキ音と共につっこんでくるトラックだった。
「ほれ、起きろ。」
頬をつつかれる感覚とともに僕の意識は覚醒する。
「あ、あなたは?」
何色とも形容しがたい空間に僕は目の前の幼い少女と二人きり。
さらにトラックに轢かれたはずの僕の体は無傷。
「我か?よくぞ聞いてくれた。我は神じゃ!」
神を自称する少女は僕の顔を見つめる。
「おぬしの名は?」
「僕は
「そうか、優希か。おぬしは死んだ。」
知ってる。
「知らない
わかてる。
「が、我は気に入った。だからおぬしには二度目の人生をやろう。」
はい?今なんて言った?
ニドメノジンセイ?
「それはどういう…」
「言葉の通りじゃ。異世界転生と言った方が馴染みがあるかの?」
それから僕は説明された。
僕がこれから行く世界はまるでラノベのような魔法が存在する世界で、僕はチートスキルを持って一から人生を送るらしい。
さらに僕は、突然変異により生まれた他生物に害をもたらすモンスターを倒し世界の平和を守るという使命を与えられる。
与えられるチートスキルはそのためのモノらしく、僕はその世界で【勇者】になるとのこと。
「他にも別の世界の人間を連れてくる予定での。そやつらよりも早めに送って、活動時期が揃うように転生させる。」
「仲良くするのじゃぞ」と神の少女は言う。
それからこの謎の空間に魔法陣のようなものができ、僕は転生した。
この時の僕は知らない。僕の新しい人生がスラムに捨てられたの孤児だということを。
─〈side聖女〉─
「はい、これで治療はおしまいですよ。」
「ありがとうございます、聖女様。」
とある世界のとある国にある神殿にて私、マリアは、人々を救っていた。
私、
転生してからかれこれ三十年。もはや元の世界に戻りたいとかいう考えは捨て去り、新たな世界での人生を謳歌していた。
この世界に魔王などは存在せず、魔物との生活境界線を定め、平和に暮らしていた。
転生したての頃は、魔物を浄化して無双したかったなどとオタク的思考から文句を言っていたが、人々の怪我や病気を治し感謝される日々を送るうちにその数もだんだんと減っていった。
そんなある日のできごとだった。私は懐かしい場所へと移動させられていた。
「神域…」
私が呟くと
「ご苦労じゃの。」
とかつて私が二度経験した幼女の声が響く。
幼女の体とは周りからちやほやされて気分がいいが、体力の消耗が激しかったり、たまーにいるロリコンと呼ばれる人に危ない視線を浴びせられたりと、もう二度と経験はしたくないものだ。
「あなたは神様ですか?前の神様とは違うんですね。」
私の言葉に、目の前の神は「うむ」と呟く。
「あやつはあれからも世界を救うために転生の術や転移の術を使い続けたからの。あと数十万年は寝とるじゃろ。」
そしてこれからが本番と言わんばかりに一度大きな咳をして、告げる。
「おぬし、異世界に行ってくれぬか?」
「いや、もうしてますけど。」
私の言葉に神は
「違う。また別の世界じゃ。おぬしの肉体はまだ生きとるから、今回は転移という形で行ってほしい。」
と言うが私の答えは決まっている。
「嫌ですけど。私、神殿で人を助けるのが好きなので。」
「そこを頼む。おぬしのおかげで、あの世界での人類滅亡の危機【疫病】は解決した。つまり使命を果たしたのじゃ。」
だが諦めない神の説得は続く。
「じゃが他の世界ではその力を欲しておる。」
そして次の言葉に私は揺らぐ。
「転生してくれるなら、新たに特典を増やす。十八歳の不老の体はどうじゃ?」
私の体は三十歳の婚期が危うい時期。
人を癒すことに夢中で、気づいた頃にはぴちぴちの体を失っていた私にとってその提案はすごく大きなものだった。
「そんなことができるんですか?」
「あ、あぁ。もちろんじゃ。」
私の食いつきに若干引き気味な神は答える。
「行きます!何回でも行きます!」
「いや、一回でいいんじゃが…」
「さぁ、早く。今すぐ行きましょう。早く術式を組んでください。」
私が急かすと、神は慌てて転移の準備を始める。
「全く神使いの荒い…」
そして足元の魔法陣が光り、転移が始まる。
「そうじゃ、他にも別世界の人間がいるからの。仲良くしてやってくれ。」
「はーい♪」
私は新しい世界と、永遠の若い体に胸を踊らせながら転移する。
他の異世界人の一人、空霧刀真によって散々なめに遭わされることになるとは知らず。
次回へ続く
能力の世界で最強の剣士、魔法の世界で無双します 壱ノ神 @1novel
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