能力の世界で最強の剣士、魔法の世界で無双します

壱ノ神

第一斬 最強の剣士

第一斬 最強の剣士

「こんな感じかなっ!と。」

 俺は左手で鞘を持ち、愛剣を抜刀する。

 刀身は目にも止まらぬ速さで春の暖かな空気を切り裂く。

 俺の名前は空霧そらぎり刀真とうま

 【全てを斬る能力】を持つ能力者だ。

 この世界で能力というのは珍しくない。むしろ持たない人間が少数派だ。

 さらにこの世界の能力者にはA〜Gのランクがあり、Aランクの能力の中でも特に力のある者はSランクと呼ばれている。

 そしてそのSランク能力者のトップに立つ者こそ、この俺『空霧刀真』なのだ。

 そんな俺が真昼間から刀を持って何をしているのか。

 結論から言おう。

 新しい技の開発だ。

「おっ、できた!できた!」

 俺が刀で撫でた場所には、何色とも形容しがたい色をした空間が広がっていた。

 【時空斬じくうざん】これが新しく開発した技。

 俺の立てた仮説では、時間とは何枚にも重ねられたフィルターのような物だ。

 そのフィルターを俺達は移動している。

 そのフィルターを移る瞬間に高速で刀を振り、俺の能力と併せるとどうなるか。

 そう!時空の歪みができる。

「さてさて、中はどうなっているのかな?」

 これを実戦で使えれば、相手の攻撃を時空の狭間に閉じ込め無効化することが可能になるはず。

 俺は仮説が正しいか確認するために時空の歪みへ歩を進める。

 その時だった。

「おわっ!!!」

 俺は小石につまずく。

 よかった、人気のない場所で。誰かに見られてたら「最強のくせに石につまずいてやんの」とか笑われるところだった。刻むぞコラ。

 ってそんなこと言ってる場合じゃねぇ!

 俺は勢いよく時空の歪みに突っ込む。

 なんと偶然、瞬間に歪みは消え、何もない空間に俺は取り残されてしまった。

「まぁ、落ち着け。もう一度斬ればいいじゃないか。」

 そして刀を一度鞘に仕舞い、抜刀の構えを取る。

「無礼者!神域に足を踏み入れながら、挨拶もなしか!」

 そして刀身を数センチ露わにしたところで、怒鳴り声が響く。

「は?誰に向かって言ってんだ?」

 流石の世界最強。そんな怒鳴り声に一切臆することなく睨みを利かせる。

 ここでそこら辺の一般ピーポーならチビッてる。

 それが子供ならば泣くことも忘れて恐怖するだろう。

「おぬしじゃ、おぬし。口の利き方がなっとらんのぉ。」

 なのに、だんだんと近づいてくるその存在は、まるでわがままを言う子供を相手するかのように言葉を続ける。

「まったく…こっちの世界の人間は、科学やら確率やら言いおって。」

 さらに声が近づき、その姿が見えた。

「・・・子供?お嬢ちゃん、あんまり大人をからかわない方がいいぞ。」

 目の前に立つ少女…いや幼女と言った方が適切だろう。

 そいつは見るからに上等な白いローブで全身を包み込んでいる。

 おそらくだが、金持ちの…多分Bランク以上の親が甘やかした結果、常識というものが欠落したのだろう。

「お、おのれ…あまり我を舐めるんじゃない!少しお灸を据えた方がいいみたいじゃのぅ。」

 嫌な予感がした俺は、刀を鞘から抜き出し一閃。

 手には何かを切った感触。

「ほぉ、今のに反応するか…」

 しかしだ、感触はあったのに切ったはずの物体は見当たらない。

 となると、魔法か遠距離攻撃系の能力者か。

「おいお前、おままごとなら他所でやれ。たっく…いつの間に入ったんだ?」

 本当に子供は抜け目ない。俺の死角から時空の歪みに入るとは、今度から子供にも気を配らないとな。

「も・・・った…」

「あ?」

「もう怒ったぞ!」

 幼女が顔を真っ赤にして叫ぶ。

 すると、先ほど感じ取った嫌な気配が周囲に複数現れる。

「我を二度も子供ガキ扱いしおって!」

 さらに1つ2つとそれは数を増していく。

「これは…チッ、どこのバカだよ。ガキにこんなこと教えたやつは。」

 そんな言葉は虚しく消え、それとは対象的にどんどん数を増やしていくそれ。

「悪く思うなよ!【風斬かざぎり乱舞らんぶ】」

 もはや数えるのすら無駄に思えるそれが俺に向かって放たれ、それに呼応するように俺の斬撃が相殺にあたる。

 そして全てが打ち消し合い生まれた隙。それを見逃す俺ではない。

 すかさず幼女の背後に回り込み、刀を振るう。

「かはッ!」

 柄を首に叩き込まれた幼女は、電池が切れたロボットのように膝から崩れ落ちる。

 体が床にぶつかる直前、俺の腕が小さな胴体を支える。

「はぁ、なんなんだよ。」

 とりあえずその幼女を背負い、気を取り直して抜刀の構え。

 シュッと鋭い音が聞こえると、目の前には先ほどと同じ歪みが。

 次はつまずかぬよう、足下に注意して一步、また一步と歩みを進め、出た先にあったのは…

「どこだ?ここ。」

 見知らぬ草原だった。


 いやいや、おかしい。

 だって俺がいたのは草原は草原だが、それでも少し先には灰色のコンクリートがあった。

 しかしここはどうだろう?

 一面緑でコンクリートなんて見る影もない。

 さらに言えば、飛んでいる鳥や地を這う虫は見覚えのない種類。

 歪みの影響で座標がズレたか?それともどっかのバカ能力者が地形丸ごと変えた?

 ・・・現実逃避はよそう。

 この前読んだことがある。ラノベだったか?

 この場所には、そこに描かれていたような角の生えた鳥、全身が石でできた虫、その他様々な生き物がいる。

 物語の舞台となっていた異世界、能力が存在しない…スキルと魔法の世界。

 そう、俺は『魔法の世界異世界』に来てしまったのだ。

「ん?っ〜!」

 背中に背負っていたのがモゾモゾと動き始める。

「おぬし、こんなかわいい少女によくも…」

 忌まわし気にジト目を向ける幼女だが、少しして周りを見渡し1言。

「おぬし?まさか『世渡り』しおったのか?」

「『世渡り』?」

「うむ、おぬしらの世界で『異世界転移』と呼ばれていたものじゃ。」

 よっと俺の背中から飛び降りた幼女は少し考えたあと

「まぁ、ちょうどこっちの世界に何人か派遣する予定じゃったしよいか。」

と言う。

「お前、そろそろ怒るぞ?俺は帰るけど、今すぐその設定をやめないと置いて行くからな。」

「お主もわからんやつじゃ。ほれ、これならどうじゃ?」

 パチンと指がなり、それと同時に幼女に変化が。

 背中には綺麗な白い羽、頭の後ろには陰、陽、火、水、風、土を表しているであろう6つの玉が浮かぶ。

「我は神じゃ。」

「あぁ、そうかい。じゃあな。」

 俺は気にせず【時空斬】。

 現わる歪みに躊躇なく入り、中で再び【時空斬】。

「何をしとる?一度『世渡り』した人間はその世界から出ることはできぬぞ。」

 元の世界へ戻ったと思いきや、出てきたのは異世界の方。

「おい自称神の幼女。どうにかしろ。」

 俺は半ギレで言いつけるが答えは

「無理じゃ。」

 あぁ、終わった。

「こんな状況で言うのもあれじゃが、おぬしに使命と加護を与える。」

 幼女が手をかざすと、どこからか光の粉が降り脳内に機械的な音声が流れてきた。

《使命、魔物モンスターの駆除を授かりました。》

《創造神の加護を授かりました。》

《ステータスボード、言語理解を授かりました。》

「今後、他の転生者、転移者が来るはずじゃ。そやつらと協力するのじゃぞ。」

 すると自称神の幼女、もとい創造神は円形のゲートを出現させ神域と呼ばれていた時空の歪みへと帰っていった。

───────────────

名前:空霧刀真Lv1 性別:♂

年齢:26

攻撃:15000

防御:2000

素早さ:5000

魔力量:40 魔法出力:5

〈スキル〉

・【全てを斬る能力】:刃物使用時のみ攻撃:∞、応用技多数

・ステータスボード

・言語理解

〈その他〉

創造神の加護:ステータスボードと言語理解を与える

───────────────

 「ステイタスボード?」と頭に響いた馴染のない言葉を繰り返すと、半透明なガラスもしくは水晶のような板が出現する。

「マジで異世界じゃねぇかよ。」

 俺は呆然とステータスボードを眺める。

 まだ頭の処理が追いついていない。

 幼女が神だったこと、自分は異世界へ来て元の世界に帰れないこと、最後に与えられた使命のこと。

「はぁ、とりあえず村にでも行くか。」

 目を凝らしてみると、ぼんやりと家の影が見える。

 俺が一步踏み出したその直後

「グルルルル!」

どこからか現れた普通より2周り程大きい狼がよだれを垂らしながら、俺を襲おうとしてくる。

 カチャリと刀を構え居合の構えを取る。

「すぅー…」

 鋭く息を吐き、鋭い爪を振りかぶりながら迫る狼に一閃。

 刀身に付着した血液を振り払い鞘に納めると、狼は血を吹き出しながら命を散らす。

 その光景はまるで春に咲く桃色の花が風に吹かれ散るかようだ。

 前の世界では敵を斬り伏せるその姿から『紅桜べにざくら』とか呼ばれていた時期もあった。

 あまり二つ名を好まなかった俺は嫌に思っていたが、今となっては懐かしい。

「うん、世界が変わっても能力には特に変化なし!とりあえず、この死体どうするか…」

 死体はほっとくと腐って疫病が蔓延する。

 以前までは死体処理班がいたから気にすることはなかったんだが、ここではそうもいかない。

(ま、村に持ってけば解体屋とかあるか。肉の差し入れってことにすれば文句もいわれないよな?)

 色々考えた結果、腐る前に村を目指すことにした。


 歩くこと数時間、やっと村の入り口が見えた。

 獣対策だろうか?木製の柵で村が覆われており、見張り役と思われる村人が入口に2人立っている。

「こんにちは。」

 とりあえず敵意がないことを知らせるために笑顔で挨拶。

「ん?君、初めて見る顔だね。身分を証明するものを持っているか?冒険者と見受けられるが、ギルドカードなどを見せてくれるとありがたい。」

 1人が俺が背負っている狼を見て言うが、もちろんギルドカードなんてものは疎か、身分を証明できるものなど持っていない。

「すまないが、持ち合わせていない。」

 俺が言うと

「そうか、ならそっちの者に着いて行ってくれ。冒険者ギルドでカードを発行してもらう。」

とあっさりと通されてしまう。

 俺的にはありがたいが、セキュリティ的にどうなのだうか。

 俺はハテナを浮かべながら、さっきとは別の方の門番に着いていく。

 程なくしてギルドと思われる建物に到着すると、門番によって扉が開かれる。

「じゃあ、あそこの受付けで発行の手続きをしてくれ。」

 門番がそう言って去っていく。

 中には、部屋の隅でカツアゲする連中や、装備だけ立派なバカ、昼から酔い潰れてるヒョロヒョロした中年と、物語とのギャップで目を瞑りたくなる光景が広がっていた。

 「はぁ…」と溜め息を零しながら、言われた通り受付けまで行き、受付嬢の前に立つ。

「冒険者ギルドへようこそ。ギルドカードの発行でしたら大銅貨1枚になります。素材の買い取りもしてますが、最初にウルフの買い取りからにしますか?」

 にこやかに話を進める受付嬢は、この殺伐とした空間の唯一の癒やしと言ってもいいだろう。

「あぁ、買い取りから頼む。」

 背中の狼…この世界ではウルフと呼ぶらしい。

 俺はウルフの死体を預け、受付嬢はカウンター裏へとウルフを引きずりながら移動する。

 まぁ、俺は日頃から鍛えてるから大丈夫だったが、受付嬢をしている女性には持ち上げるのはしんどいのだろう。

「買い取りが完了しました。買い取り値は状態がよかったので銀貨一万円くらい1枚と大銅貨千円くらい3枚です。」

 少しして先程の受付嬢が、トレーに合計3枚の硬化を乗せて戻ってきた。

「ギルドカード発行代金は差し引かせていただきました。では、発行にあたってこちらの水晶に手をかざしてください。」

 お金を受け取ったのを確認した受付嬢は、カウンターの台の下からボーリング玉ほどの水晶を取り出す。

 言われた通り手をかざすと水晶が白い光を発する。

「こちらの水晶では名前、年齢、過去の犯罪履歴がわかりま…ひっ」

「どうしたんだ?」

「や、やめて…来ないで…」

 説明の途中で変な声を発する受付嬢。

 声をかけると彼女は怯えた様子で床に座り込んだ。

次回へ続く

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