第15話:七代目山童は兄妹の修行をつける

「二人の実力やスタイルはわかった。俺とディールでどうするか決めたので、とりあえずしばらくは従ってみてほしい」


いったんダンジョンの外に出て、俺はシスとジェイに修行についての話を進める。


今回の修行を通しての目標としては、個としての強さを持つこと……そのスタートラインに立たせることである。


一朝一夕では身につかないが、方向性を決めた指導を行い、きちんと攻略者として戦えるようにしたい。


「シスは体術が良いし、連携も良い。治癒もなかなかだ。だが、魔力運用は非効率で甘さがある。なので、ディールが魔力運用の基礎を教える。そうすると、少なくとも三階層までなら単独で進められる強さが手に入るだろう」


俺の言葉にシスから「はい!」と力強く返事が返ってくる。疑いない声色で、教える側としても嬉しいものだ。


「ジェイは攻撃のいなし方や判断も良いし、連携を意識したアクションは問題ない。しかし、シスの治癒頼みでの突撃はリスクが高い。同じような改善点だが、魔力を使った防御バリエーションを増やそう。そうすると、引く手あまたのタンクになれる」


シスと同じようにジェイから「あざっす!」と強く返事が返ってくる。素直で良い兄妹である。


「さて、じゃあやるか。とりあえず、修行が辛くなったら教えてくれよ。考慮はしよう」



「死んじゃいます! 死んじゃいます!」


「あはは、大丈夫大丈夫。それぐらいだと死なないよ、私もやったことあるしさ」


シスがディールの指導を受けているが、魔力の運用を教える様子はかなりスパルタであった。


ダンジョン内の魔力――外部魔力を十二分に体内に取り込み、効率良く使うためにまず体内魔力を空にさせていた。その後、外部魔力を補給しながら、使い続けるという修行をしている。


シスは必死で外部魔力の取り込みを頑張り、魔力を使った攻撃や防御、そして治癒魔術を使う。体内魔力のない今のシスは一瞬でも外部魔力の補給が上手く行かない場合、気絶する。魔力切れ状態での魔術行使で起こるトラブルなのだ。


「これで感覚が身につくとさ、体内魔力を使わずに戦えるようになるから、連戦も楽になるよ~」


「ひいっ、思ったよりきつい! あ、ちょっと待っ、待って! あ」


シスは気絶した。ディールが「しょうがないな~」と言って少しだけ魔力を受け渡し、気つけを行う。目覚めたシスが涙を溜めてディールを見るが、ディールはほがらかに笑うだけだった。


「ちょっとずつ良くなっているね、私の見立てだとあと気絶六回ぐらいでなんとかなりそう」


「うええ、これメチャクチャ気持ち悪いんですよぉ……」


「ま、でも変な癖ついていたからね。ここは正道の方法でちゃんと魔力運用できるようになろうねえ。そしたら、もっと身体を傷めない扱い方もできるようになるし」


「うう、見よう見まねでやるんじゃなかった……覚悟決めて頑張りますっ!」


何気なくシスが口にした前半の言葉には俺もディールも驚いた。独学で魔力運用をできたのであれば、それはそれで才能である。しかし、洗練された技術があるものなので、そこまで価値がないのも事実。


とはいえ、シスは才能があり、鍛えがいがあるということでもあった。


ディールは魔力を使うのが好きということもあるからだろう、教えるという行為も非常に楽しんでいるようだった。ずっと笑顔である。


自分基準で指導内容を決めているところは、少しどうかと思う点もあるが、シスとの相性は悪くないようだった。


「さて、ではこちらもだな。どうだジェイ、盾を出現させるイメージはできたか」


「いや~全然掴めねえです……。もう一回手本見せてもらいてえです」


「おお、良いぞ。こうだな」


言って、ジェイの前に魔力で作った盾を出す。ある程度の魔力を込めているので、ファイアリザードのブレスぐらいならば容易に防げる。


「こういう感じで盾をこの何もない空間にってのがわかんねえです。オレ、頭悪いから……」


「魔術はイメージだ。頭の良し悪しも当然大事ではあるが、イメージの構築はそれだけで決まらない。すぐできるとは思わないが、諦めないでやってみろ。お前は魔力が使えてはいる。それをきちんと使いこなせ。お前がシスを、パーティーを守る盾になるのだから」


「うっす! イットーさんの教え、オレちゃんとこなします!」


結局、その日にジェイはできなかった。シスは気絶を実際に六回ほどして、少し魔力運用が見られるものになった。


その後もしばらく修行を毎日行っていたら、ジェイは魔力の盾を出せるようになり、シスは洗練された魔力運用ができるようになっていった。


「お兄ちゃん、ここ最近は家に帰ったらずっとSFとかファンタジー映画見ていたんです。バトルがあって、シールドやバリアーとか結界が出るっていうもの。付き合わされて、しばらく夕食はポップコーンとコーラでしたね……。ま、私もイメージ掴めたので良かったですけど」


「オレ、最近ファイアリザードのブレスを完封できるようになったんで嬉しいです! 稽古ありがとうございました!」


見違えるような成長に、俺とディールは嬉しかった。いろいろ事情はあるだろうが、少なくとも二人の助けになれたのは間違いないし、生存率も高まっただろう。


山童に引き抜くかはまだ現在未定だが、この感じであれば打診をしても良さそうではある。とはいえ、まだ少々先だ。今の実力では、俺とディールが潜りたいレベルのダンジョンでの危険がぬぐえない。


「二人とも、腕を上げて嬉しい。だが、一つだけ忘れないでほしいのは、こういう時が一番死にやすいってことだ。強くなったらリスク管理が甘くなる。リスク管理が甘くなれば、当然死にやすくなる。前よりもっと稼げるようになったからこそ、慎重にな」


「そうそう、イットーが言う通り。何が起こるかがわからないのがダンジョン攻略。本当だったら、竜城メインじゃなくて、もっとやりやすいダンジョン探すとかも大事だよ」


俺とディールは、アドバイスとしてであるが、少々口うるさく忠告をする。


「ありがとうございます。でも、今のクランとしては……その、みんな実力がマチマチで、金銭的な都合もあるから近場の竜城になっちゃうんです」


「四階層には行かないようにするんで! 俺らもっと強くなれるように頑張ります!」


やはり事情はあるなという返答であった。本当に気を付けてほしいと思いながら、その日は食事を共にして帰った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

マイルドヤンキーな先輩たちから由緒あるダンジョン攻略クランの総長を押し付けられた俺が七代目として頑張るようです~頼れる仲間たちと現代ダンジョン攻略クランでプロを目指す~ 原原 @baruhara

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ