第14話:七代目山童は実力を確かめる
「すみませんっした! 妹ともども、今日はお世話になります!」
通話はすぐ終わり、ジェイは無事、素直になった。腰を折り、頭をしっかり下げた丁寧な挨拶である。
なお、知り合いというのは、六代目山童で前線を支えていた盾持ち"やっけー"先輩だった。
『ああ、イットー。俺もちょっと教えているけど、ジェイはタンクとして有望だと思うぜ。まだひよっこだけどな! 使えそうな感じしたら、ぜひ七代目入れてくれよ。やっけーそうなら、入れんでもいいけど』
と、やっけー先輩から情報もいただいている。やっけー先輩が教えているというのなら、ジェイはおそらく盾を扱い、前に出るタイプ。有望という言葉からして期待が持てそうだ。
「はー、あのお兄ちゃんがこんなしっかりとした挨拶するなんて……山童は知ってはいましたけど、イットーさんとディールさんのクランがそうだとは知らず、失礼しました」
シスも丁寧に頭を下げていた。とはいえ、名乗らなかったのはこちらの都合でしかない。
「気にするな、そもそも言っていないんだ。それに、先代まではともかく今はまだちゃんとクランとしても整っていないしな」
それにここからダンジョンに潜って色々確認するのだ、遠慮や緊張なく戦ってもらわないと危険である。
「とりあえず、普段の戦い方で全力を見せてくれ。ある程度で良いので使えるスキルなども確認して、修行の方向性を決めたい」
■
いつでも手助けに入れる状態で、イットーとディールは兄妹の戦闘を観察する。
対峙する相手は、1階層でよく見かけるただのリザード。属性もなく、少々動きが早いぐらいの魔物である。手慣らしとしてちょうど良い相手。油断しなければ、特に怪我を追うこともない強さだ。
シスは左足と左手を前に突き出した半身の構え。堂に入った武道の所作であった。
ジェイはシスより前に立ち、両手に小盾と一体化したガントレットを構える。リザードの気を引くように音を鳴らし、軽く踏み込む素振りなどで牽制している。
「ギシャアアアッ!!」
しびれを切らし、リザードは俊敏に飛び掛かる。口を開いて鋭い牙を見せ、喉元へ噛みつこうという動きである。
「見えてんだよ! おらぁっ!」
しかし直線的な攻撃は当然ジェイの盾で防がれ、さらに盾を押し出しての打撃――シールドバッシュで地面にバウンドさせる。
「ちゃんと動きを見切った上で、吹っ飛ばす方向も丁寧に調整したな」
「あ、ほらそこにシスちゃんが追撃するよ」
隙を見逃さずに倒れた敵へ踏み込み、突風の如き速度でシスが右拳を振り下した。
「――えぁっ!」
シスの身体が燐光を放ち、風を切る拳が着弾した瞬間に小爆発が起こる。空気が静かに震え、威力の確かさが伝わる一撃だった。
「体術は良い感じだな。若さから考えれば、見事見事。それに魔力を纏わせた打撃で、火力を出せるようにしているのか。悪くない」
「けっこーシンプルだけど、威力は抜群だね。ただアレだと……」
リザードが光となって消え、兄妹がハイタッチをする。シスの右拳はズタズタだった。イットーとディールの視線に気づき、また燐光が右拳を包む。ややあって、傷一つない状態となった。大丈夫とばかりに右手が振られた。
「治癒系もかなり才能がある。だが、こういう使い方は珍しいな……自傷覚悟での一撃をフォローするために、か。ある意味でしっかり自分を理解しているからとも言えるが」
「正直言って痛そう~。あれを教えた人がどう考えて伝授したかわからないけどさ、さすがにもっと丁寧な攻撃もできるって。女の子の手だよ、さすがに気を使ってほしいなあ……」
イットーとディールからすると「思った以上には強いが、あちこちが非効率的で危険がある。だが、やり方を正せれば、手札ももっと増やせて強くなれる」というのが第一印象であった。改善点が見つかるのであれば、あまり問題にはならないとも感じていた。
「次、来るぞ。ファイアリザードだ。気をつけろ」
イットーの感知にかかり、次に現れたのはファイアリザードであった。距離がある中で、炎のブレスがシスとジェイを襲う。
ドラゴンほどではないが、人を殺傷するのには十分な火力である。そのまま受けてしまえば、だが。
ジェイは盾を中心に魔力展開して防ぎながら走り、体重を乗せたタックルを叩き込んだ。ブレスは皮膚を焼くほどの熱量なので、当然無傷ではない。
だが、シスが後ろから魔術で回復させていくことでジェイは恐れずに飛び込めていた。
ファイアリザードが怯んだら、ジェイは盾を打ち付け、その場に動きを縫い付ける。
シスはその背後からかかとを高く上げながら飛び、三日月の如く鋭く振り下ろす。爆発音はなく、ゴツリと鈍い音がして、ファイアリザードは光となった。
「兄妹だけあって意思疎通のラグなく連携を取っていけているな。行動も洗練されている。悪くない、良い兄妹だ」
「うーん、しかし力押しだね。なんかもったいない。これだと二人なら二階層までで限界かも。」
現れる敵を倒せはしているが、一戦闘ごとの消耗が激しい。特にシスは攻撃も治癒も担っているため、戦闘回数を重ねるのが難しい様子に見えた。
イットーとディールは、結果以外の部分でも気になる部分をなるべく話し合うことにする。
「普段は所属クランでパーティー組んで、別のアタッカーがいるから大丈夫とも言えるな。二人ではそこまで深くは潜らないのだろう」
「なるほどね。でも、ダンジョンは何が起こるかわからないから、単独での強さはもっと鍛えたいねぇ。ちょっと修行内容はまとまってきたよ」
「そうか。俺もジェイの補強点はわかった。どれからやるかだな。なかなかすぐとはいかないだろうが……」
シスとジェイは、後ろで話す二人の会話を聞き、自分たちでも懸念しているところを理解してくれているのに安心した。
著名なクランといえども、メンバーの強さはピンキリというのが一般的だ。
だが、二人は少なくとも自分たちより強く、また自分たちの弱点や改善点をどうするか丁寧に考えてくれている。
無関係のクランで、しかも実力上位者からの教えを受けられる。普通ならありえない幸運。
兄妹は今後もダンジョンで稼いでいきたい意思があるので、二人が出す修行を何が何でもこなす覚悟が定まった。
「気を抜くなよ、次が来るぞ。リザード二体だ。何かあれば助けるが、できる限りは頑張ってくれ。きついかもしれないが、お前らならできる」
イットーの声に二人は正面を睨む。ほどなく現れたリザード二体に、油断なく向き合い、戦闘が再び始まった。
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