第13話:七代目山童と仮入団
「ちゃんと説明しよう。クラン所属を却下するのは単に実力がまだ足りていなさそうだから。そしてもう一つ。こいつが一目惚れしていると俺に言ったのは紛れもなく事実で、その意思は尊重したい」
しっかりとした表情で聞くシスに俺はこう伝える。
「だが、実力は鍛えれば良い。なんなら俺たちが手伝おう。信用できなさそうなら、契約をしても良いし、君の兄も一緒にしても良い。ディールとの恋愛については、シンプルだ。俺より強くなれば振り向くかもしれん。そこは応援しかできないので、頑張ってくれ」
信じられないほどの痛みが脇腹を抜けた。
■
「イットー」
「なんだディール」
無事にシスとの会話と食事も終え、夕日を見ながらエスプレッソを飲み終えて、俺たちは拠点へ帰りゆく。
「シスちゃんに本当のこと言わないまま、仮で山童所属してもらってさ、私たちが修行つけようってどうして決めたの?」
「いくつかあるが、才能ありそうだったからだ。本当に才能なさそうなら、ダンジョン攻略は辞めてもらう方が良いが、聞いている経歴からだと伸びる余地がかなりある」
「なるほどね、それはわかる。私の正体隠したままでいいの?」
「真っ当に強くしてもらって文句を言われるとは思わない。死ぬよりはマシだろう。今のままなら、多分死ぬ確率が高いだろうな」
ダンジョン攻略者、特にダンジョン潜りたてでの死亡率はかなり高い。真っ当なクラン所属なら新人の育成が整っているので心配ないが、ただの有象無象の集まり――なんちゃってクランなら全員等しく高確率での死が待っている。
「それも了解。最後だけど、今日会ったばかりなのにどうしてここまで? 確かにシスちゃんは才能ありそうだし、良い子だな~って思ったけどさ」
「これは単純だな。俺がでーじ先輩に拾われて、そのお陰でかなり助かったからだ。人から受けた恩は他の人へ。うちはそういうクランで通している」
俺の回答にディールはにっこりと笑う。
「あははっ、やっぱ良いクラン! いきなりリーダーが決めるのはびっくりするけど、善意が根底だから好きかなっ!」
「お前の正体をバラしても問題ないぐらい関係性が築けると良いんだがな」
「そだね、そうなると良いなぁ。だって今のままだと、イットーはマッチョに惚れられている人って認識だもんね。シスちゃんは私に惚れて、私はイットーに惚れて……複雑な関係性だね!」
「でもあの子、『恋敵! 負けません!』って言ってたな。強い子だ……早めにネタバラシできたらいいんだが……」
できればちゃんと成長してくれるなら、そのままうちに引き抜いてしまおう。引き入れたら、偽装装備をしているところだけは開示しても大丈夫だろう。それ以上は、その時次第で。
■
少し冬らしく、肌寒い日だった。シスと次回会うのを約束した日、俺とディールはアクション映画を一本見てから待ち合わせ場所へ向かう。
「いやー面白かったね。魔術のイメージ広がりそう~」
「派手なアクション映画見ると、爆発魔術とか使いたくなるよな。ダンジョンだと爆音で敵を引っ張ってくるからアレだが」
映画の感想をお互いに述べつつ、待ち合わせ場所に着いたが、待ち人はいなかった。
「あれ? シスちゃんは先に入っちゃったかな?」
「連絡とる方法がほぼなくなるから、単に遅刻じゃないか?」
ダンジョン内は電子機器の類が狂う。アンテナの設置も不可能なので、当然通話もできない。なので、さすがに先に入っているというのは考えづらいのだ。
「ディールは知らないかもしれないが、沖縄は時間関係ルーズな奴も多いぞ。それか移動のバスが遅延しているとかな」
「へー、そういえばこの辺りは電車とかないもんね。もっと都会の方にはあるんだっけ」
「ああ、南部の那覇にはモノレールとLRTがある。そこまで駅数もないし、それぐらいだ」
俺たちもまだ免許を取得していないので、バスやタクシーでの移動をしている。
「拠点からここまで来るのも、なんだかんだ疲れるよね。見るものはいっぱいあるから、来たら楽しめるけど」
「そうだな――お、あれじゃないか? なんか揉めながら歩いている気がするが」
少し距離があるが、目立つ金髪のシス、そして同じように金髪を短く坊主でまとめた男が怒鳴りながら歩いている。
「もう、お兄ちゃんのせいだよ! でーじ遅刻してるじゃん! ほんっと最悪っ!」
「お前がバカみたいなこと言って、俺怒らせるからだろうが! もう一回言ってみろ!」
ふむ。なるほどな。
「……兄妹喧嘩だね、なんかいいね!」
「……兄弟喧嘩だな、なんか懐かしいな」
■
「ディールさん、イットーさん、おはようございますっ!」
「……ちっす」
顔をあげて元気いっぱいに挨拶する妹、そして顔をのけぞらせて柄悪そうに挨拶する兄。
「おはよう! ディールです。今日はよろしくね」
「おはよう。イットーだ。今日はよろしく頼む」
とりあえず、挨拶を返して、今日の要点を説明する。まず、兄とも話を通したうえでだが。
「ほら、お兄ちゃん、ちゃんと挨拶して!」
「ちっ、ジェイだ。覚えなくても良い。それより、あんたら俺の妹をなんか騙そうとしているだろ、ふざけんなよ殺すぞ」
非常に元気で、山童地元で接する子どもたちと同じ感じの口調だ。身内以外には強気で接するというのが基本方針なのだろう。地元意識が強い地域ではスタンダートといえる行動原理だ。
「それは誤解だな。得がない。なんだったら、普通に修行をつけるのも得がないぐらいだ」
「じゃあなんで修行させるなんてなるんだよ。あんたら稼いでいるっぽいし、こんな俺らに関わっても意味ねーだろ」
「まあ、人徳はあると思ってくれ。納得させるのに名乗るのはあれだが、俺は山童の七代目だ。悪いことはしないと誓おう」
俺が山童の名前を出すと、男はくちをぱかんと開ける。
「はっ? ……え、あんた山童なの?」
まあ、沖縄なら山童の名前を知らないダンジョン攻略関係者はいない。初代から先の六代目まで、沖縄で実績と徳を積みまくったクランだ。先人の偉大さに俺は全力で寄りかからせてもらう。
「ああ、そうだ。俺が七代目総長のイットー。まあ色々あって、六代目から俺が継がせてもらった」
「マジかよ、マジで山童? しかも総長? フカシこいてんじゃねえのか? 確かに七代目に代替わりしたってのは噂で聞いたけどよ。あ、じゃあよ、あんたの確認って六代目の人にしてもいいのか?」
うちの先輩たちに知り合いがいるのか。それなら身元証明はスムーズに済みそうだ。
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