第5話 バスフィッシング イズ グッド
俺はこのアパートに引っ越すことにした。
高山の話で住むのに少し不気味さを感じつつもやはりこの場所から釣りに行く事が捨てがたかった。
高山が家賃を安くできるかを大家さんと相談するから数日経ってから連絡させて欲しいとの事だ。俺はそれを了承した。
時刻は4時頃。
アパートから見える土乃浦港に風は吹いてなかった。そして、太陽が夕日に変わりかけている。
絶好のチャンスだ。
夕方に釣れるタイミングのことを「夕まずめ」というがまさにそんな予感がした。土乃浦駅近辺のパーキングに自家用車を停めてきて正解だった。車に戻ると、すぐに必要な道具を取り出し、釣り場へ向かった。
釣り禁止と書かれた港内の路面を横目に釣り可能なエリアに向かう。平日ではあるが、ちらほらと数名が釣りをしていた。
俺は竿につけたネコミミズという擬似餌(ルアー)を投げた。
この“ネコミミズ”は本物のミミズそっくりに作られていて、そのリアルな動きからその場にいるブラックバスを根こそぎ釣ってしまうことからその名前になったそうだ。
実際、発売してから数年経つがいまだに人気商品でこれで釣れなきゃ諦めろと釣具屋のポップに書かれるくらいだ。
ネコミミズを投げたら、水底に着くまで糸を垂らして待つ。
その際、竿は少し傾けておく。
竿先から出た糸が弛んだら、ルアーが水底に着いた合図だ。
ゆっくりと竿を自分の身体側に引っ張り、2、3秒止める。この止めてる時こそ、魚がルアーに食らいつく時間作りになる。
そして、何もなれければ弛んだ糸をリールで巻きながらまた最初の位置に竿を戻す。それを繰り返していく。
しかし、魚からの反応が無い。
今日はダメな日らしい。
有名な釣り場だけあって、1日で釣りする人は多い。今日は天気も良く、釣り日和としてはかなり良い日だから多くの人が釣りに来て、魚もかなり警戒してる可能性がある。
「今日はダメか」
口から弱音が漏れる。
夕日から夜空に変わりかけて、街灯のない釣り場に闇が舞い込んできた。
ルアーを手元に引き寄せるためにリールを巻く。
竿にそれを引っ掛けて、来た道を戻ろうとした時だ。
ガゴンッ!
真っ暗な港に甲高い音が響き渡る。
何かが強く当たる音。
グゥゥゥギャァァアァァァッ!
さらに唸る声が周囲にこだまし、またも甲高い音が響く。
高山が言ってた怪猫の話が俺の脳裏をよぎる。
「まさか、本当に…いる…のか」
しかも帰り道沿いで音がした。
そこを通らないで帰ることもできる。
だが、俺の中でちょっとした好奇心が芽生えてしまった。
固唾を飲む。
そして、その音のなる方へ足を向け、歩く。
かい猫バイツ! じょーこねみぎー @Butch_MARSK235
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