第4話 内見

 

 午後1時に土乃浦港付近の公園で高山と待ち合わせをしていた。

 殆ど住宅街ではあるが、所々に数軒のアパートがある。

 予定時間よりも少し早く到着したが、高山はもうすでに公園のベンチに腰掛けてた。手にはこれから紹介するであろう物件の資料をまとめたバインダーをもっていて、それを眺めている。

 俺は公園に到着すると、高山は誰か来たと思い、顔を上げてこっちを見てきた。

 そして、俺を見るなり、先ほどの笑顔を向ける。


 何軒か物件を見て回った。

 部屋の間取りや築年数等と気になる箇所を聞いた。

 その中でも土乃浦港の釣り場が見える3階のアパートを案内された。個人的に諸々の基準はクリアしつつも外から釣り場を一望できる方がすぐに港の状況を把握できる。

 釣り人の数や湖の状況をこんなにも簡単に把握できるロケーションは捨てがたかった。


「ここ、実はペット可の物件でね。他よりもちょっと割高になりますが、大丈夫かしら?」


 俺は少し考えた。釣りをするにも金はかかるから余計な出費は極力抑えるべきだ。

 しかし、このロケーションを手放すのも勿体無い。悩む俺におばさんは微笑みながら話す。


「ちなみに外堀さんは動物は現在、飼っているのかしら?」


 俺はいいえと答えた。

 動物は今まで一度も飼った事はないし、実家でも飼ってなかった。強いて言えば、たまに親戚の家に行った時に飼い犬と戯れ合う程度しか知らない。

 そんな話に彼女は即答で応える。


「それなら家賃をお安く提供できるかもしれません」

「え、本当ですか!?」


 高山は驚く俺から目線を晒す。

 そして、彼女が少し不安げな表情を浮かべながら口を開いた。


 「実は最近、“カイビョウソウドウ”がこの辺りで頻発していて、ペットを飼ってるお客様からのこの辺りの引越し依頼が極端に減っているのよ。だから、大家さんもできる限り、入居者を増やせるなら家賃を安くしてもいいと事前に仰っててね」

 「カイビョウって、なんですか?」

 「ほら、お店のガラス戸に張り紙が出てたでしょ。最近、この辺りで変な猫が出るって噂になってるのよ。なんでも“人に襲いかかる猫”がいるとかでね。」


あの張り紙に書かれていたのは“怪猫”と書いて、“カイビョウ”と読む。カイネコと口に出してまだ読んだのが途端に恥ずかしくなった。

 そもそも、そんな張り紙を貼るほど不可解な猫がこの土乃浦港を騒がせているのは初耳で内心驚いた。


 そんな彼女の話に俺は苦笑いする他なかった。

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