第3話 土乃浦を渡る


 土乃浦駅の東口に出た。不動産屋があった西口と比べて人通りはまばらでビルやビジネスホテルが点在している。

 目の前のロータリーを越えて、大通りの信号を渡った先に土乃浦港がある。


 日本で2番目に大きい湖である霞乃浦。

 その中でも土乃浦周辺はよくブラックバスが釣れるスポットが多い事で有名だ。


 特にこの土乃浦港は漁に出る船が多く停留している。その影響か、様々な魚やエビが集まっていて、それらを狙うブラックバスも多く、よく釣れる。

 今の時期なら大体1日中釣りすれば2〜3匹、夏になれば朝から晩までで10匹は釣れる。


 しかし、最近、土乃浦港で釣りできるエリアが制限されてしまった。

 釣り糸のポイ捨てや船のロープに釣り針が引っかかった状態での放置と様々な原因はあるが、特に釣り人がブラックバスなどの外来魚を港に放置し、そのまま見殺しにする惨い行為が多発した事による悪臭が問題となった。


 霞乃浦には元々、ワカサギやシラウオなどの在来種が生息していて、食用としての商品価値が高い。そのため外来魚がそれらを食べてしまうことで漁獲量が減っている現状をよく思わない住人は多い。そういった経緯を知る釣り人が正義心からか、釣り場に捨てたと見て間違いないだろう。


 霞乃浦の生態系に悪影響を及ぼすとされる外来魚に対する県民の目は厳しい。

 しかし、これ以上釣り場を減らされると今度は釣り人口が減ってしまい、釣りを楽しめるという霞乃浦の魅力が一つを失ってしまう。これ以上のエリア縮小を避けるために県は対策として、数日前から釣り場に外来魚を捨てるためのボックスを設置した。


 ここ最近、俺がよく行く釣具屋さんやインターネット等でこの話題を目にしない日はなかった。

 そして、土乃浦港にもその箱は設置されている。

 内見までの時間潰しに俺はそれを見に来たが、何だか肩身の狭い気分になってしまった。

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