理系ミステリー勉強作品(櫛田こころ

櫛田こころ

勉強作品

 大変な事態が起きた。


 さあ、どうすれば解決に導けるか?


 被害者で幼馴染のジェイは、全身に酷いやけどを負ったがなんとか答えてくれたが。



「あんまり、覚えてないんだ。冷たくて気持ちがいいって思って寝てたんだけど。気づいたら、こんな体に」

「ふむふむ。寝ぼけてあんな場所に行ったにしても変だな?」



 ジェイが見つかったのは村外れの洞窟にある大きな鍾乳洞の下。しかも、こうなったのはジェイだけではない。全身にやけどを負い、鍾乳洞の下に倒れていた村人は、他にも五人ほどいたのだ。


 これはただ事ではない。事件に決まっている! 俺は、マルボは探偵として見事に解決するぞ‼



「……マルボ、無茶はしないで。君まで僕のようになっては欲しくない」

「わかっているさ。しかし、探偵として解決に導かなくては!」

「君は何でも屋でしょ? 探偵じゃないと思うんだけど」

「その一環さ。任せたまえ」



 まずは現場検証。


 証拠を集めるためには、うだうだ思考を巡らせるだけでなく現場に行かねば何も始まらない。


 探偵道具のルーペを手に、いざ!と向かったはいいが本当に洞窟の中には大小の氷柱のごとく、鍾乳石があるだけだ。血痕や肉片などなんにもない。ただただ暗い洞窟の中にそれらしき証拠はおろか現場も荒らされた形跡がないと来た! これは非常に難題だぞ!



(ジェイは冷たくて気持ちがいいものに触れたら……あの火傷はおそらく非常に温度が低い場所に触れた時に起きる火傷)



 怪我の要因までは理解出来ても、肝心の犯人が皆目見当つかないときた。足跡も髪の毛までも捜したが、これといって不審なものは見つからない。犯人はどのようにしてジェイを含める複数の人間に低温やけどを負わせたのか? 目的は? 殺しが理由じゃない? 愉快犯としたら、随分と狂気じみた理由となるぞこれは。



「まさか幽霊とかおばけに触れたとかだなんて……」

『そのおばけになにかご用が?』

「どぉわ!?」



 いきなり後ろから声をかけられたのでひどくびっくりした!?


 勢いで振り返ったが、そこには誰もいない? 今確実に女の声を聴いたのに空耳であるはずがないぞ!!



『こっちだよ~?』



 また聞こえたので上を見れば、魔法か何かで宙に浮いている女がいた。

 いたのはいいが、全身に弓矢とか短剣が刺さってて非常に怖い!?

 しかも、痛がらずに笑顔で手を振っている!? なんなんだこの女!!



「だ、誰だ!?」

『誰って、おばけだけど? 百年近く前にこの洞窟で死んだ冒険者』

「冒険者?」

『夢絵空事じゃないよ? 魔物に惨殺されて成仏出来ていないバカなおばけ』

「……まさか、君が犯人とか?」

『さっきからこの辺調べてたけど、なんのこと?』

「とぼけるな! 異常に温度の低い存在の君が人間に触れたら火傷を負うはずだ!」



 絶対そうに決まっていると断言すれば、彼女は大笑いし出した。



『ばっかじゃない! おばけが生きてる存在に触れるわけないでしょ?』

「何!?」

『君が調べてたのはあれかな? 寝ぼけている人間がこの辺まで来て、わざわざあんな事になる理由』

「知っているのか!?」

『あれあれ』



 ひーひー笑いながら指を向けた方向には、バカでかい鍾乳石が地面すれすれまで向かっている箇所だった。


 意味が分からんと思ったが、ちょこっとだけ触れると氷室の氷並みに冷たくて俺は『ひゃ!』と言いながら離れた。



「冷たい!?」

『すごく冷たいでしょう? しかも今の時期は夜でも外が暑過ぎる。だから冷たさを求めて村の人間は無意識に来てるってわけ』

「君が誘導したわけじゃないよな?」

『まさか。生気をもらうレイスにまで堕ちたつもりはないし? けど、あたしもだけど人間もバカだね? 怪我してまで欲望を満たすのに来るんだから』

「……そうか」



 彼女は油断から死んだと言うが、今でも成仏出来ていないというのはひどく憐れに思えた。何か未練でもあったのだろうかと訊いても俺なんかにこの難題は解決できまい。


 せめて、彼女が静かに過ごせるようにこの環境を封じる程度だ。村の人間たちが来れないようにするくらいだが。


 その旨を伝えれば、彼女は優しく微笑んでくれた。不覚にもときめいたが、死んでいる相手に惚れても意味がない。なので、その気持ちはすぐに捨てて俺はジェイに事のあらましを伝えるために、村の診療所に帰ったのだった。


 そこから村長にだけ真実を告げ、あの洞窟には立ち入り禁止の結界を張ることで被害者はそれ以降一切出なくなった。


 もう一度冒険者のおばけだと言う彼女に会いに行こうにも、自分で提案したのだから無理だ。結局、吸い寄せられていたのは氷のような冷たさを持つ鍾乳石にではなく、彼女かもしれない。優しく微笑んだあの笑顔を忘れるには、ジェイの怪我が治ってもなかなか時間が必要だった。

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