2.サンチャゴにて
「スピーキング全然ダメだったわ…。」
「君もダメだったんだ…。」
放課後、二人は肩を落としながらHR教室を出て行った。
「ま、気にせず今日も遊びに行こうぜ!」
あの日の晩の電話以降、湊と紗奈は交際している。
「どこ行きたい…?」
落ち込みながらも紗奈は応える。
「*サンチャゴの新作でも飲もうぜ。」
*サンチャゴ-シアトル系コーヒーショップの店名
店に入ると、年老いた男が若い女性店員と口論を交わしている最中であった。老人の髪は長く、黒髪と白髪の比率はほとんど変わらなかった。目元や頬には深い皺が刻まれていたが、怒りの表情は周囲の客にも理解できたであろう。女性店員は泣きそうになりながらも、比較的冷静に、退店を命じていた。老人は持っていた新聞を床に叩きつけ、椅子を雑になおし、コーヒーを片付けぬまま店を出て行った。二人はただそれを驚いた表情で見つめていた。湊は老人と肩がぶつかりそうなる。
「おう、悪ィな。」
老人は湊にそう言った。
店の中は甘いメロンの香りが漂っていた。
「意外と美味いな、これ。」
二人はサンチャゴの新作・メロンフラッペを飲んでいた。案内された席は老人の居た二人席であった。「混雑しておりまして、すみません。」などと店員は言っていたが、二人は大して気にも留めていなかった。
「これ、さっきの人のじゃない?」
紗奈が紙を拾い上げる。先程、老人が床に叩きつけた勢いで散乱した新聞紙の一部であった。店員が急いで掃除したために、気付かれぬまま落ちていたのだと思われる。
「なんか書いてあるよ。」
紗奈が小さな声で読み上げる。
___バベルの塔の建設をめぐり、各国から強い非難の声。___
「…やばい、かも?」
湊が尋ねる。
「やばい…、や、やばいかも!!!」
紗奈が急に声を張り上げる。
湊を含め、店にいた客のほとんどが彼女に目をやった。
「わ!ごめんなさい…!」
だが、彼女の声量に驚いたのは湊だけであったようだ。店の客らは急いでスマホを取り出し、あるいはノートパソコンを起動させ、[バベルの塔 ニュース]などと検索をかけた。
「*アキルファが…、テロ予告…??!」
客がややパニック混じりに叫ぶと、周りの客もつられて騒ぎ出した。
「嘘だろ!!」
「1000年ぶりの『センソー』になる可能性が示唆されている…!!?」
「大丈夫だろ…!建設現場はここから離れているし…。」
確かに、バベルの塔の建設現場は随分離れたところにある。しかし、戦争となれば話は別であろう。そもそも今は世界中の国が大陸ごとに統合され、実質的に七カ国となっている。つまり、大陸同士の戦争と考えれば少なからず「大丈夫」ではないことがわかる。
___二人はその後、フラッペも飲みかけに早足で店を出た。
*アキルファ-国の名前。(本文記載の通り)世界政府樹立と共に全ての国は大陸ごとに統合・分断され、大陸政府なる機関も作られた。
バベルの塔 七瀬 @karanobin
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。バベルの塔の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます